第37話
▫︎◇▫︎
次の日の夜、マリンソフィアは憤っていた。何故なら、馬鹿王太子が朝からのこのこやってきて夕方まで居座った挙句、マリンソフィアの嫌いな食べ物をふんだんに使った野菜のサンドイッチを持ってきたからだ。どうせなら、唯一王城で気に入っていたサンドイッチのフルーツサンドを持ってきて欲しかった。
しかも、
『あぁ、今日もソフィアはとても美しい。絹のような輝きを持つ白髪は艶やかで、編み上げられた髪から覗くうなじはとても扇情的だ。それに、今日も真っ赤なドレスがよく似合っている。知的なサファイアの瞳に吸い込まれてしまいそうだよ』
と言われた。クソムカつく。絹のような髪は老婆のようの間違いで、知的なサファイアのような青い瞳は、腹が立つにではなかったのだろうか。
ご機嫌斜めなマリンソフィアは手にいっぱいインクをつけて、真っ赤なリボンを首に巻いた
「………今日は1段とご機嫌斜めだね、ソフィー」
「………………クソ王太子殿下が1日中わたくしのことを口説いていたからね。わたくし、今日は満足に黎桜のことを愛でられなかったし、お洋服も仕立てられなかったの。ものすっごくイライラしているわ。やっぱり、婚約破棄された時に1発ぶん殴っておくべきだったかしら。ついでに、攻撃力抜群な付け爪であの無駄に整ったご尊顔に引っ掻き傷をつけておくのも良かったかもしれないわね」
捲し立てるように満面の笑みで殺気立った声を出したマリンソフィアは、『ソフィアーネ』の名前を使って借りた『
「はあー、………苛立っていても仕方がないわね。よしっ、あの馬鹿王太子に大恥をかかせるためにも、これから1ヶ月で完璧に仕上げなくちゃいけないわね。黎桜、あなたが今回の作戦の要よ。しっかりと頑張ってちょうだいね。上手にできたら、マグロのお刺身を用意してあげるわ」
「みゃあ!」
初日に用意したマグロがとっても気に入った黎桜のために、マリンソフィアはありったけのマグロをアルフレッド経由で異国から輸入し始めた。内陸国たるハッフルヘン王国ではどうしてもマグロは手に入らないのだ。
「それじゃあ、アル、クラリッサ、伝えておいた位置について。おチビちゃん、事前にちゃんと言ってあったけれど、あなたには黎桜を王太子殿下の元に離すお役目を与えるわ。他言無用で、守秘義務を守れなかった場合にはこの世から綺麗さっぱり消されることをちゃんと理解なさい」
「ん~、承知したわ~。そんなに心配せんとっても、うちはまだ命が惜しいけん、守秘義務ぐらいは守るよう。これでもお口は堅いんやで~」
「そう、信用しているわ」
マリンソフィアは穏やかに頷く。
「それにしても、店長は、見た目だけは良さそうな、いけ好かん王太子はんのことを嫌いやね~」
「えぇ、近づくだけで悪寒が走ってありとあらゆる食事を戻しそうになってしまうわ」
「うわー、めちゃくちゃあの王太子はん嫌われているやん」
『同情する~』と言いたげなおチビちゃんを一瞥したマリンソフィアは、すっと視線を戻してこちらに向かってパレードと同じ速度、同じ場所、同じ座り方で馬車を走らせてくるクラリッサに視線を向けた。アルフレッドが見るからに嫌そうな顔をしているが、そこら辺は全て無視だ。
「そんじゃ店長、うちやるときはやる子やけんねー」
そう言うと、おチビちゃんは見事なタイミングで黎桜を窓の外に放し、アルフレッドの真っ白なシャツに足跡を付けさせた。そして、黎桜はお昼にアルフレッドに教えてもらっていた特別な道順で逃げて、マリンソフィアのお店の裏口に戻ってきていた。ちなみに、黎桜を野に放してすぐ、マリンソフィアとおチビちゃんも特別な道を使って『
周辺諸国1の人気服飾店、『
「ふふふっ、練習の必要もなさそうだわ。黎桜、よくできたわね。今日は美味しいミルクもあげましょう」
マリンソフィアは闇に紛れるためにきた漆黒のローブが汚れることも気にせず、黎桜を抱き上げてよしよしと撫でまくるのだった。
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