第5話 正月料理の応援を頼むが……

 普段は二人暮らしの新太郎が昨年の事を思い出して妻の典子に語った。

 「母さん。まもなく正月だが心配で堪らないんだよ」

 「あなた何を弱気な事を、幸太郎や娘達が実家に来るのを楽しみにしているのよ。喜んで迎えてやらないと」

 「分ってはいるが総勢二十人も来るんだぞ。母さんだって料理の下準備をし、出来上がるまで三日も掛かったんじゃないか。体力的にも大変だろうに」

 「そりゃあ大変だけど子供達や孫が喜んでくれるなら、どうって事ないわよ」

 「そうかい、私も手伝ってやりたいが家庭の事は母さんに任せっきりで何も出来やしないし心苦しいんだよ」

 「いいのよ。気持ちだけで」

 「どうだい。いっそのこと、デリバリーサービスに頼んだなら」

 「冗談でしょ。それでは母の味を楽しみに来る子供達がガッカリするわよ」

 「しかしなぁ……そうだ。こうなったら正月は留守にして旅行しようよ。別府なんかどうだい」

 「まさか逃げる気なの? まったく分ってないわね。あと一周間で正月なのよ。予約なんか取れる訳ないでしょ」


 と、言うわけで。もはや二十人の敵を向い撃ちしかなさそうだ。

 しかし新太郎は妻に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。こうなった娘達に料理の下準備を頼もうと、まず長女の麻美に電話してみた。

 「駄目よ。暮れは忙しく、することが山ほどあって大変なのよ」

 次に次女の夏美に電話した。

 「それがね。下の子が熱を出して手を離せないのよ」

 仕方なく三女の亜樹に電話する。

 「もっと早く行ってくれれば都合つけたのに無理、無理」

更に四女の陽子に電話する。

「ごめん、教師って意外と忙しいの、それに京都からでは無理よ。今年も行けないけど御免ね」

 予想通り空振りに終わった。

 まったく! どいつもこいつも勝手な理由を付けて。少しは協力しろよと一人で腹を立ててしまった。だからと言って長男の嫁さんに声を掛けるのは気が引ける。

 それを察した妻の典子が釘を刺す。

 「あのね、幸太郎ところの藍子さんに電話しては駄目よ。今年は用事が重なり手伝いに行けないと電話を頂いているんだから」


つづく

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