第2話 孫達が大暴れ。怒った新太郎が孫と娘を怒鳴る。
それでも、ふすまを開けただけで二十畳に変身するから見事なものだ。
外国ではそうはいかない。十畳は十畳の使い道しかない。
その広くなった二十畳の部屋に全員が揃った。ここで新太郎恒例の新年の挨拶が始まる。
ちびっ子達は、今のところ親に引き止められ、競馬のゲートに入った状態だ。
ゲートが開いた途端、歯止めが効かない戦場となる。
「まずは、こうしてみんな元気に揃い、新年を迎えられたことに感謝して、それぞれの家族が、今年も良い年である事を祈りましょう」
続いて長男の幸太郎が、なみなみと注がれたビールグラスを高くあげて
「お父さん、お母さん。おめでとう。そしてみなさんおめでとうカンパ~~イ」
ちびっ子達もジュースで乾杯した。しかし一人が転んでジュースを隣の子に溢してしまった。
すると怒った子が逆にジュースを頭からかける。
それを見た他の子供たちが真似をすると、もう戦闘開始となった。
長男の幸太郎も自分の子供なら怒れるが、例え妹の子でも連れ添えがいる子には、つい遠慮する。
それを良い事にちびっ子達は暴れまわり、もう和室の畳はビショビショだ。
しかしそれだけでは終わらなかった。なんと庭に繰り出すと柵をなんなく破壊。ついには新太郎の大事な瀬戸物の置物(七福神)と盆栽を壊してしまった。
特にこの七福神の置物は会社に勤めていた時に頂いた社長賞の品だ。新太郎にとって七福神の置物は、優秀だった社員の証しでもある。更に長年かけて育てた盆栽も破壊された。先程まで笑顔を振りまいていた新太郎の顔色が変わり、頬がピクピクと痙攣するが必死に堪えている。
だが娘達は子供を叱るかと思ったら、知らぬ顔をして姉妹同士で世間話に花を咲かせる。また長男と妹の夫が集まり男同士の話に夢中になり気づかない。
それから十五分ほど過ぎただろうか、孫達は庭で好き放題、まだ誰も止めに入ろうとしない。流石に温厚な新太郎も限界を超えた。ついに爆発してしまった。
「こらあ! お前たち許さんぞ! なんて事をしてくれるんだ」
と、孫たちを怒鳴りつけてしまった。さすがのチビッ子ギャング達も凍りついてしまった。
驚いた典子は新太郎を宥めようとした。
「あなた、何もそんなに怒らなくても……」
「そりゃあ怒りたくないさ、でも社長賞で貰った七福神が壊れたんだぞ。それに長年育て来た盆栽がメチャクチャになったんだぞ。我慢にも限度がある」
誰もが何事かと新太郎を見る。新太郎は、しまったという表情をしているが怒りが収まらない。
慌てた長男の妻が申し訳ありませんと平謝りした。妹の夫達も遅れて頭を下げる、だが実の娘達は違った。
新太郎も分かってはいた。それで収めようとしのだが、なんと長女を始め二女三女が一斉に新太郎に牙を剥いた。子供が怒られて我が子を叱ると思ったら、父の怒りに反旗を翻した。
「お父さん! なによ! 孫に当たることないでしょ。正月早々に冗談じゃないわ」
新太郎は静めかけた怒りを今度は娘達に向けた。まさか娘たちが反撃して来ると思わなかった。それでも新太郎は怒りを静めようとしたが、ついカッとなって。娘たちを怒鳴りつける。
「馬鹿者! お前達の躾はどうなっているのだ。良い悪いくらい教えておけ! 庭を見ろ。怒りたくもなるだろう」
もう新年会どころじゃなかった。娘の夫たちは新太郎に頭を下げオロオロと妻をなだめたのだが、三人の娘達の怒りは収まらない。
「なによ! せっかくの正月なのに子供が怒鳴られて楽しめないわ。さぁあなた達、帰るわよ」
ついには自分の夫の静止を振り切り子供を連れて帰ってしまった。
長男の幸太郎もどうして良いか分からない状態だ。父の怒りは分からないでもないが自分の子供の非礼は認めても、妹とは言え連れ添えの夫が目の前に居れば責める訳にも行かない。
新年会始まって以来の無残なものになった。長男夫婦だけは新太郎の怒りを静め帰っていった。新太郎は妻の典子と二人きりになりガックリと肩を落とした。
「嗚呼、やってしまった。母さん俺はどうすればいいんだ」
「貴方の気持ちは分かりますよ。あの庭の盆栽と七福神の置物、大事になさっていたものね」
とは、言いつつも典子は貴方が悪いとか子供達が悪いとは言わない。
「私も手伝って庭に入れにないように頑丈な柵にすれば良かったわね。ごめんなさいね」
これは彼女なりのポリシーでどちらかの味方に付いても上手く行かない、と中立の立場を取っている。偏れば誰も相談しなくなると、双方の捌け口役に徹している。自分が産んで育てた子だもの、一時的な怒りがあっても何時かは分かってくれる。
だが血の繋がらない長男の嫁には特に気を使った。あの時、孫達を怒鳴ったのだから肝を冷したことだろう。真っ先に謝ってくれた。こっちが申し訳ないほど。だからあとで長男を通して化粧品セットを送った。娘の夫達に、我儘な娘ですが末永く宜しくお願い致しますと洋酒を添えて手紙を入れて宅配で送った。勿論、新太郎はそんなことは知らない。
そんなある日、末娘の陽子から電話が入った。
「お父さん元気? 聞いたわよ、大変な正月だったらしいわね」
「陽子、お前の耳に入っているのか。誰だ。いったいチクッたのは」
「そういう問題じゃないでしょう。でもお父さんの気持は分かるわ。大丈夫、私はお父さんの味方よ。寂しかったら電話してね」
離れて暮らしている陽子だが気遣いが嬉しかった新太郎であった。
つづく
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