お正月

西山鷹志

第1話 新年会は総勢22人、園田家はどう乗り切る?

お正月 

主な登場人物

 園井新太郎 七十才 妻 典子 六十七才 長男 幸太郎、妻 藍子 、長女 麻美  次女 夏美 、三女 亜樹 、四女 陽子(教師)

 

 園井家にもお正月はやってきた。当たり前であるが何事もなく無事に新年を迎えられた事は喜ばしい事である。

園井家の主、新太郎の家で正月恒例の新年会が二日に行われる。

とは言っても親子とそれぞれ子供の家族だけだが。手伝いに来た長男の幸太郎と藍子夫妻と新太郎の妻の典子は準備に追われていた。新太郎夫婦にとっては一年で一番嬉しいと言っても過言ではない。

 園田家は郊外にあるが一軒家で敷地面積百坪少し、都内で一軒家としては広い方であるが、正確には百坪ちょっとだけになった。昔は大地主でこの辺一帯が園井家の土地だったそうだ。たった百坪少しの土地に三十坪を庭にあて盆栽と花壇に作ってある。現役を引退してから新太郎にとって唯一の楽しみの場所である。

 新太郎には妻と、長男と妹三人は既に既婚者でそれぞれ子供が居る。更に十才以上離れた四女、陽子が居るが一人だけ独身だ。その陽子は京都で中学教師をしていて今年も参加出来ないそうだ。それだけが心残りだ。新太郎夫婦にとって出来れば男の子が欲しかったが、こればかりは仕方がない。今回新年会に参加するのは陽子を除き、長男夫婦とその妹、それぞれ嫁いで行った娘が三人いる。

 共に子供がおり長男には男一人と女が二人、長女麻実も同じく男一人女二人、次女夏美には男二人、娘二人、三女亜樹は一男一女の二人だ。なんと孫だけで十二人も居る。勿論孫が多いのは嬉しいが問題もある。


 長男の幸太郎家族は歩いて数分の所にあるマンションで暮らしている。

 出来れば同居して欲しいと思ったが、長男は嫁さん(藍子)に気を使わせたくないとマンション住いにしている。時代が変わり例え二所帯住宅でも親と住むのを嫌うらしい。

 他の娘達も車で一時間半圏内に住んで居る。比較的近くに住んでいて毎年集まってくれるのは嬉しい限りだ。

 新太郎は十年前に現役を引退して七十歳を迎えていた。もう立派なお爺ちゃんだ。普段は妻の典子と二人暮らしで静かな日々を送っている。

 それが今、嵐の前の静けさだ。なにせ息子と娘夫婦だけで八人、孫が十二人と合わせると総勢二十人も訪れるのだ。それはもう想像を絶する賑やかさになる。将来末娘の陽子が結婚して家族を持ったら、いったい何人になるか嬉しさよりも恐ろしいくらいだ。

 孫が可愛いのは当然だが、しかし桁が違う。上は小学六年生から下は三歳までと、わんぱく盛りで親の注意なんか聞くわけがない。

 それとお年玉だ。例え三歳だろうとあげない訳には行かない。

 なにせ十二人の孫だ。年齢により金額は違うが、ざっと単純計算しても八万円前後になる。昨今では孫一人に一万円くらいお年玉をあげる所もあるが年金生活の新太郎には厳しい。来年は二人が中学に進学する予定だ。そうなるとお年玉も上乗せしなくてはならない。金額も更に膨らむ。それでも新太郎は可愛い孫の為に喜んで配って来た。


 妻の典子は大晦日の早朝から、元旦も休む間もなく料理作りに追われている。

 新太郎とてノホホンとしていられない。テーブルを並べ座布団を並べ、座る場所のセッテングなど。長男と嫁は早めに来て毎年手伝ってくれる。流石は長男の幸太郎だ。頼もしく思っている。

 なにせやんちゃな孫だ。注意したって聞く年ではない。割れ物や瀬戸物などを次々と片付ける。庭には盆栽や特に大事な瀬戸物の置物など置いてあり、中に入れないように柵を設けた。退職した当時は孫も数人で穏やかな正月だったが、数年前からはもう戦争だ。

 そして運命の二日の昼が来た。いよいよ園井家の平穏な静けさは戦場になる。第一陣の敵が来襲、いやいや訪れて来た。まず長女家族軍団だ。総勢五人が訪れた。

「おじいちゃ~ん。おめでとう。お年玉ちょうだい」

 いきなり来た。慌てた長女の夫が子供をたしなめる。

「コラァいきなりそんな事を言うものじゃない。まったくすみません。お儀父さん」

長女の旦那が冷や汗をかいて新太郎に頭を下げた。


 そして敵襲、第二陣三陣が来襲、もうガヤガヤと人の声が聞こえないほど五月蝿くなる。妻の典子は自分の娘達に号令をかける。

『さあ貴女達、迎撃ミサイルでここを死守するのよ』とは言わないが

「さあ貴女達、料理が間に合わないのよ。手伝って」

 洋間のリビング十二畳に和室のふすまを取り外して、二十畳の宴会場に変身する。日本の家は狭いと海外から顰蹙を買っているが、そこは日本人の知恵。狭くても上手く活用するのが日本の良い所。外国だとダブルベットを置けばもう十帖の部屋はほぼ埋まる、寝るとき以外使う事が無い。日本の和室に布団二組敷いて朝起きて布団を畳み押し入れに仕舞うと八畳の部屋は何にでも利用できる。まぁ自慢と言えば自慢だが相対的に狭いのは隠しようがない。


つづく


暮れですが正月に相応しい小説を載せます。

お正月の続きお正月Ⅱも引き続き予定しており。

一般的な家庭の、ほのぼのとした作品です。

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