第5話 晴れ

 急遽旅行に行くことが決まった。順番は逆かもしれないがハネムーンだ。陽人が調べてくれた花火大会を見に温泉街へ、二泊三日の旅程だ。


 折角温泉街に花火を見に行くのだ。お母さんと一緒に大急ぎで呉服屋に行って浴衣を買ってきた。


 金曜日、学校終わりの陽人と合流した。目的地までは新幹線だ。




 闇夜の大空に大輪の花火が咲き誇った。二人しておおー、と感嘆の息をもらした。私は陽人に寄り添っていた。陽人の右腕に抱きついて温もりを感じていた。


 「ねえ陽人。一度しか言わないからよーく聞いてね」


 陽人が居住いを正して聞く姿勢に入る。どうも勘違いしているようだが悲しい話をする訳じゃない。ただ、感謝を伝えたかった。


 「私を好きになってくれて、諦めずに好きでい続けてくれてありがとう。愛してるよ」


 「え、ああ……」


 想像していた言葉とは違ったことに反応が追いついていないようだった。


 「あ、俺も愛してる」


 妙にあらたまって言うもんだから可笑しかった。


 


 結婚式は近くの教会で、両家の家族のみでしとやかに執り行われた。


 結婚すると言った時、両家の親はとにかく驚いたらしい。それはそうだろう。それでも反対されることはなく、無事に式典当日を迎えた。


 当日、初めてのメイクをしてもらって純白のドレスに身を包んだ。両親は感涙に咽び泣いていて、お母さんに至っては前が見えているのか怪しいレベルだった。メイクし直す羽目になっていたし、ハンカチがすっかりぐしょ濡れになってしまって冴月から借りていた。


 唯一、冴月だけは花嫁に憧れがあるのか温かく笑顔で祝福してくれていた。


 お父さんに連れ添われて陽人の元へ向かった。慣れない手つきで指輪をはめてもらった。いざ誓いの口付けというところで何を恥ずかしがっているのか陽人後一歩というところで止まってしまった。


 明るくて愚直な性格ゆえなんだろう。無性に恋しくなって私からキスした。


 婚姻届は写しをもらって大切に大切に仕舞った。日宮清華ひのみや せいか。これが私の今の名前。ちょっと慣れなくてどこかむず痒くなるけど、そんなことは嬉しさの前ではあまりにも些細なことだ。


 こうして八月の終わり、私達は夫婦になった。

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