第3話 無茶言うなよ
頬をそよ風が優しく撫でていった。陽人に連れられて公園近くのカフェに来ていた。
注文の品を待つ間、景色を目に焼き付けていた。私に同じ日は訪れない。生命力溢れる草木も、抜けるような晴天の空も、うだるような熱さも、この夏が過ぎ去ればもう二度と味わう事はない。
世界から拒絶されている。しばしばそう思わずにはいられない。公園に来ているが周りでは親子や友人同士が仲良く遊んでいる。病気のために運動は制限されているからあの輪に入ることはできない。
「よく諦めないね」
対面に座る陽人に言う。一年以上前から断り続けているのにまだ諦めてない。
「そりゃあね。俺は清華に惚れ抜いてるんだ。俺のこと嫌い?」
「好ましく思ってるよ」
実際、一途なところとか明るいところには結構好印象を抱いている。
「じゃあさ、付き合おうよ」
「嫌だよ。知ってるでしょ?私が未練を残して死にたくないこと。後数ヶ月でいなくなる女なんて忘れて他で良い人見つけなよ」
「嫌だよ。知ってるだろ?俺が清華のことをいかに好きか。それに俺は好きな人を忘れたりはしない」
調子狂うなぁ……。顔を見ても笑顔を崩さず、でも目は真剣に私のことを見据えている。こんなだから邪険にもできない。
「私はお前が将来ストーカーにならないか心配だよ」
「そう思うなら付き合ってくれよ」
「バカの一つ覚えみたいにそれだね」
「俺と付き合ってくれるならなんだってするよ」
「へぇ?じゃあこのソーダ奢ってよ」
「まだ付き合ってないだろ?俺はそのことに関しては真剣に言ってるんだぜ」
「だろうとも。だからこそ言うけどお前と付き合ったらやりたいことが沢山出てきちゃうからね。だから付き合いたくない。全部はできないから」
グ、と唇を引き締め陽人が私の方を向き両手を肩にかける。
「俺なら全部叶えられる」
どこまでも真摯な眼差しと声は私の心の深いところまで届いた。そういうところが本当に好ましい。
だからこそ言わねばならない。
「無茶言うなよ」
愛する人を残して死にたくはないんだよ。
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