星につかれた宇佐山の話

あじみうお

星につかれた宇佐山の話

 宇佐山は、自分で掘った落とし穴の中をぐるぐる歩いていた。出口ははるか上にあり、夜空に浮かぶ満月のように見える。這い上がろうと壁をよじ登るけれどもどうしても出口にたどり着くことができない。あがきながら汗びっしょりになって、目が覚めた。


 すでに太陽はのぼりきり、最大出力の熱で宇佐山を蒸し焼きにしようとしていた。大急ぎで家じゅうの窓を開け、水を立て続けに三杯飲んだ。夏の終わりのさらさらした風が部屋を吹き抜けていく。宇佐山はやっと落ち着いて食卓に腰をおろした。

 

 食卓テーブルには、読みかけの求人誌と宇宙関係の本や雑誌が乱雑に置かれている。宇佐山は無造作に求人誌を手に取るとページをめくった。

「なぜ、仕事が続かないのだろう」

うさ山はうなだれた。宇佐山は星が見たいだけだった。仕事が嫌なわけでもできないわけでもない。ただ星がみたい。星を見なくちゃいけない。子どものころからつきまとう、この理不尽な思い込みのせいで、宇佐山の人生はうまくいかないのだ。毎日欠かさず星を見たからといって、何があるわけでもない。大発見をする見込みもなく、お金にもならず、誰からも評価されない。それどころか、寝坊したり、居眠りしたりの連続で、社会的信用力は低下するばかりである。よって、会社勤めもままならない。

普通に毎日仕事に行って、適度に楽しく遊んで暮らす。そんな生活に満足できればどんなにいいかと宇佐山は思う。

 

 だけど、宇佐山は今夜もまた丘に登る。星が出始めるころには丘の上に立ち、暮れていく空を全身で感じる。闇がどんどん濃くなるにつれ、無数の光が空を埋め尽くしていく。いつか自分もこの宇宙の闇の中にまぎれてしまうことができればいいのに。

そのために、この宇宙を感じるためだけに、宇佐山は生きているのだ。

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