第5話

 ゴンドラに乗って、橋の下をくぐり抜けながら、伶菜と手を繋いで願い事をしていたのだけど。やっぱりまたついつい、私の頭の中には邪念が蘇ってきてしまう。


 まったくもう、何を考えているんだ、私は。そもそもまだ付き合ってから日が浅いわけだし、いくら長い間友達だったといっても、ずっと片思いをしていてそれが叶った嬉しさでどうにかなっちゃっているとしてもだ。


 それにしてもここまで不埒なことを考えたらダメだろうと思う。そんな、コートの下の伶菜の身体に直接触れたいとか、そういうことは……。


 でも私はついつい、お願いしてしまうのだ。『今夜は伶菜と一晩中、くっついていられますように』だなんて、けしからんことを。


 願うだけ願ったらとりあえず、邪念はなんとか頭の中から追い出すことにして、私たちは次なる目的地に向かう。今度はさっき来た道をまた逆戻りして、アメリカンウォーターフロントを超えて、ポートディスカバリーへ。こっちはさっきとは対照的に、ちょっと未来をイメージした街だ。


 途中の灯台で写真を撮ったり、ダッフィーのぬいぐるみを買うかどうかで迷ったり、さっき食べたばかりなのについうきわまんが気になったりとかしたけれど。私たちが次に向かったのは、『アクアトピア』という小さな乗り物のアトラクションだ。


 水上をくるくる回っている様子を見て、伶菜が興味津々だったので乗ることにした。ちょうどもう、日が暮れてきて、夕焼け空がきれいな時間で。薄暗くなっていくのに合わせて、アクアトピアはキラキラとしたライトアップが始まった。


 キラキラ光る水上を、意外に激しい動きでくるくる回ったり、急発進や急停車したりする。思っていたよりも楽しくて、やっぱり二人してキャーキャー騒いでしまう。


「すごい!きれーい!!」


 伶菜の笑顔も眩しい。今日ここへ来てよかったなあ、と今更ながらに思った。

 すっかり暗くなったパーク内を歩くときには、もうためらうことなく、手を恋人つなぎにしていた。時々伶菜がこちらに向けてくる意味深な視線だとかに、気づかないふりをするのもなんだかそろそろ限界だなあ、と思う。


 マーメイドラグーンでちょっと休憩しつつお土産物を見て、それから夜のショーがそろそろ始まるという頃に、ミステリアスアイランドの端の、船のあるスペースの前を陣取った。


 ここにはあまり人はいない。なぜなら船の帆が邪魔になるから、正直、ここはショーを見るのに最適な場所ではないからだ。だけど、それでいい。多分、今日は。

 温かいココアを買ってきて一緒に飲みながら待っていると、感動的な音楽と共に夜のショーが始まった。


 ショーを見ながら、伶菜が私の手をぎゅっと握ってくる。

 ミッキーがこっちに手を振ってくれているのに、伶菜はそれよりも、私の方をじーっと見ている。


 ……わかったってば。


 本当に伶菜は可愛い。

 だから私は、隙を見て、伶菜の唇にキスをした。


「由梨……すきぃ」

「私もだよ、伶菜」


 ああもう本当に、ただのバカップルだなあ、と思う。でもしっかりショーは最後まで観てから、私たちはパークを後にする。ホテルのディナーを予約しているから、そろそろ行かないといけないのだ。


 たくさん歩いて、すっかり私たちの足はパンパンだった。

 

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