第4話

 ポップコーンを食べて手が汚れてしまったので、いったんお手洗いに寄った。

 由梨はさすが元キャストだけあって、パーク内のお手洗いだとか水飲み場の場所だとかも完全に把握している。


 別に研修だけで全部覚えたというわけじゃなくて、キャスト時代には自腹で年パスを買って、バイト帰りに毎回中に入って勉強していたというから驚きだ。


 本当に勉強熱心というか、ディズニーが好きなんだなあ、と感心してしまう。

 歩く場所歩く場所、わたしは初めてだから何もわからないのだけど、由梨がなんでも教えてくれるから頼もしかった。


 アラビアンコーストをしばらくゆっくり歩いて、途中でアラジンとジャスミンを見つけて手を振ったり写真を撮ったりしてキャーキャー騒いだりしながら、次に向かったのは、ロストリバーデルタというらしい、なんだか遺跡みたいなところだ。


 そこで、有名な映画のアトラクションである『インディー・ジョーンズ・アドベンチャー』とか、360度回転する「レイジングスピリッツ」だとかに乗って、またキャーキャー騒いだ。


 今度はもう、ギャーギャーという方が正しいかもしれない。レイジングスピリッツに関してはもう、怖すぎて逆に手をつなぐどころじゃなかった。もう安全バーにぎゅっとしがみついて、落っこちやしないかとハラハラしてしまっていたから。


 お腹が空いたなーと思っていた頃に、ちょうど『トランジットスチーマーライン』という蒸気船がやってきたので、乗船した。


 水の上を走るから、結構寒い。ついつい二人でくっつくようにして座った。


「なんかお腹減っちゃった」

「わたしも。何か食べる?」

「これ、『アメリカンウォーターフロント』まで行くから、そっちで何か食べようか」


 アメリカンウォーターフロントは、その名の通り、昔のアメリカの港町を模したエリアだ。あの大きな船は、S.S.コロンビア号というらしい。


 船の中にはレストランがあって、本物の海の景色と合わさってすごく雰囲気が良さそうだった。


「ここ、入ってみようか」


 試しに行ってみたら、すんなり入ることができた。普段は予約をしないとなかなか入れないらしいけれど、今日は空いている日だったみたいで、ラッキーだ。


 ローストビーフの付いている、シェフのおすすめランチセットをいただいた。実は夜もホテルのディナーがあるわけだけど、いいんだ、たまには。


 おなかいっぱい美味しいご馳走をいただいた頃に、ちょうど近くでショーが始まったから観ていった。


 ショーが始まるとやっぱり、さすがたくさん人がいるんだな、という感じがする。ちょっと人混みが苦手なわたしはつい不安になってしまったのだけど、由梨がわたしのほうを見て、『大丈夫?』と手を握ってくれたから、わたしは途端に元気になってしまった。


 思い切りショーを楽しんだあとは、道なりにふらふら歩いて、今度はメディテレーニアンハーバーという、その名のとおり地中海沿岸をイメージしたエリアに出た。


 由梨の希望で、『ヴェネツィアン・ゴンドラ』に乗る。わたしはイタリアに行ったことがないから、これがどれくらい本物に近いのかはわからないのだけど、とにかくゴンドラの雰囲気と、キャストのおにいさんの歌声には感動した。


 橋の下を通るときに、目を瞑ってお願い事をするのだけど、やっぱり寒いからってついつい由梨の手に触れていたら、ぎゅっと握ってくれて。それで嬉しくなってしまって、ついつい願い事をしそびれてしまったのだった。


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