第93話 93、火巫女の養女 

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 翌日の昼過ぎ、マリアは娘達10人と烏門に行った。

徴税所は開いていた。

マリア達は昨日のうちに居なくなっておりゲームは終わったと思っていたのだろう。

マリアは徴税所の係員に言った。

 「あのー、お願いがございやす。あっしはマリア陸送のマリアと申します。近習の大榎左馬之助様にマリアが来ているとお伝え願えませんか。」

「大榎様だと。何の用だ。」

「昨日、ここがお休みになった件でございます。」

「急に休みになったんで変だと思っていたが、何があったのだ。」

「それは大榎様にお聞きください。」

「・・・そうか。暫く待っておれ。」

「了解。」

 30分ほどで大榎左馬之助が来た。

「マリア殿、ここに来られたのか。こちらから伺(うかが)わなければならないと思っていたところだ。外で話そうか。」

二人は藤棚下の縁台に腰掛け、娘達は周囲を見張った。

 「マリア殿はあっという間にゲームに勝たれてしまった。城壁に登り、門兵に格子扉を上げさせ脱出してしまった。拙者も見ていたがあんな城壁の登り方があるとは思わなかった。大方様もそれで終わったと思われたらしい。・・・拙者もまさか反撃があるとは思わなかった。」

「獲物も時には猟師を襲う場合がございます。」

「いつでも狩る方に変わることができるということですな。真夜中とは言え、街の城壁の門を開け、大手門の扉を開け、この奥の門を開け。天守閣の扉まで開けてしまった。天守閣の扉は今も内側から閉まったままです。」

「最上階の扉は開いております。」

 「そうですか。まだ確認できておりません。外からの侵入が難しいのが天守閣ですから。・・・何人の軍勢だったのですか。」

「10中隊、1000人でした。山脇街道の中継基地から呼び寄せました。」

「小国の軍勢に匹敵しますな。」

「もう少し経てば他の街道にも駅馬車を通すことになります。そうすれば中継基地に常駐する兵士は1中隊100人規模になります。それほど脅威にはならない規模です。ご安心ください。・・・大榎様、そろそろゲームの刻限です。そして私はここにおります。私はゲームに負けたということです。あるいは半数が脱出できたのですから引き分けということですね。火巫女様にそうお伝えください。」

「分かり申した。お伝えする。」

 マリアは急がなかった。

山脇国の駅馬車駅ができると山脇城下にマリア陸送の人力車業を始めた。

山脇駅と城下町を結ぶためだった。

駅馬車利用者は人力車を無料にした。

マリシナ廻船を利用する客には河の渡し賃を無料にしている白雲国の渡し場と同じだ。

 山脇街道が安定すると次は早乙女国に通じる早乙女街道に駅馬車を通した。

早乙女国も城下町の外れに駅馬車駅ができることに異論はなかった。

駅馬車は既に山脇国で利用されていたからだ。

人力車業もすぐに認可された。

 前田国と大杉国も同様だった。

駅馬車開通の可否は試金石となっていた。

駅馬車が通ることは宗主国と属国との間の結びつきが強くなることだ。

独立を望む属国はそれを好まない。

駅馬車開通を拒否することは独立を志向していると見做(みな)されることになる。

属国の為政者の本心はもちろん独立だ。

滅ぼされることを嫌って属国となっているのだ。

とにかくマリア陸送の駅馬車は邪馬大国の都と山脇、早乙女、前田、大杉国を結んだ。

 そんなある日、マリアは火巫女(ひみこ)に呼ばれた。

マリアは娘二人を連れて城内に入り、小さな家の中で火巫女と二人だけで会った。

「よく来てくれた。変わらないようだね。少し聞きたいことがあったので来てもらった。」

「どのようなことでしょうか。」

「・・・其方(そなた)もそうだが、マリア陸送の人間も軍隊の兵士もみんな娘で顔は違うが姿は変わらない。若い娘は数年で姿は変わるものだ。だが其方達は変わらない。・・・以前、門衛50人は娘達100人に盾で囲まれ押された。門衛は押し返そうとしたがびくともしなかったそうだ。・・・同じ日にそなたは綱を掴んで振り子のように城壁を駆け上った。とんでもない速さだった。我が国の兵士に同じことをさせたが城壁にたどり着くことはとてもできなかった。其方達は何者だ。」

 「・・・私たちの体の大部分は金属で出来ております。体重は300㎏です。ですから馬には乗れません。力は強く早く動くことができます。食べ物は完全消化ですから下の物はだしません。ですから肉体的な歳はとりません。不死かどうかはもちろん調べることはできませんが長寿であることは確かです。」

「・・・やはりそうだったか。それで思いが分からなかったのだな。・・・どこから来たのじゃ。」

「夜空に見える星の一つからです。・・・夜空の星は太陽と同じです。ですから正確には夜空の星の近くの星から来ました。光の速さで飛んでも300万年かかる距離ですから肉眼では見えないと思います。」

 「その星にはお前達のような人間が住んでいるのか。」

「住んではおりますが数は多くありません。大多数はこの星と同じような人間です。」

「どうしてお前達は生まれたのだ。」

「人間に作られたからです。・・・余裕がある人間のいる世界は進歩発展するものです。博徒が生きていける社会でしょうかね。知識が蓄積され、やがて星々を行き来できるようになります。そんな世界では金属の体を持つ人間を作ることができるようになります。まあ『人間』って言う定義が変わるかもしれませんが。」

 「要するに其方達は人間に作られた人間なのだな。」

「左様です。」

「そなたを作った人間はこの星にいるのか。」

「おりません。」

「死んだのか。」

「いいえ、最初からおりませんでした。長い間、星々を巡ってこの星に辿(たど)り着いたのは私と相棒の二人だけです。他の娘達はこの星に来てから私が作りました。」

 「そなたは人間を作ることができるのか。」

「長い時間をかけてようやくできるようになりました。」

「凄いな。」

「人間の男女は簡単に人間を作ることができます。それに比べれば大したことではありません。」

 「そなた達の目的は何だ。」

「・・・人間として生きるってことですかね。」

「そんな秘密を知ったあたしは殺されるのかね。」

「殺されません。信貴国の信貴鳶高様は私の出所をご存知です。大石国の狛犬組の狛犬大五郎親分も私たちが金属でできていることを知っております。娘達の一人を養女にし、後継の若頭にしました。親分には家族がおりませんでしたから老後の面倒を見てもらうつもりだと思います。」

 「妾(わらわ)も肉親はいない。不死の養女か。それもいいかもしれないな。妾の周りには後を継ぎたいものがいっぱい居(お)るがみんな歳をとっていく。・・・信貴鳶高がそなたの出所を知っているということはマリシナ軍には絶対に勝てないということも知っておるのじゃな。」

「そう思います。」

 「ふうむ。そなた、妾(わらわ)の養女にならんか。なに、妾の後を継いで国政をせよというわけではない。今の国政は大臣どもが行なっている。妾の仕事は大臣を任免することだけだ。妾の国政は既に終わっている。不死の娘がいれば大臣どもが野望を持って互いに後継を争うこともないだろう。どうじゃ。」

「・・・宜しゅうございます。養女になりましょう。・・・ただお願いがございます。」

「何かな。」

「『母上様』と呼ぶのには抵抗があります。『大方様』で宜しければ養女になりましょう。」

「それでいい。さっそく御布令(おふれ)を出すことにしよう。大臣ども、驚くだろうな。」

 7日後、邪馬大国の城塞都市の辻々に御布令(おふれ)の高札が打ち立てられた。

マリシナ国のマリアが火巫女の養女になったという御布令だった。

火巫女の死後は養女マリアがその職を引き継ぐとも書かれてあった。

ニュースは周辺の国々に広まった。

 邪馬大国の属国は火巫女死後の変化が期待できなくなった。

火巫女の後継者が圧倒的な戦力を持っていることを知っていたからだ。

信貴国の信貴鳶高は邪馬大国の攻略を諦(あきら)めた。

邪馬大国と戦うことになればマリシナ軍と戦うことになり、マリシナ軍と戦うことは負けを意味していたからだ。

信貴国の属国は自国周辺が安定するだろうと思った。

マリア陸送の駅馬車網が広範囲に広がっていたからだ。

駅馬車は兵士が御しており替え馬のための中継基地には砦ができており兵士が常駐している。

 マリアは火巫女の許可を得て邪馬大国の都と辻堂町の間に駅馬車を通した。

辻堂街道沿いに2つの中継基地を作り、砦を隣接させた。

都の門の外500mに駅馬車駅を作り、砦を隣接させた。

邪馬大国の都は周囲を火巫女の養女、マリアが指揮する軍勢の砦で守られる形となった。

 駅馬車網は広範囲に広がった。

宗主国の信貴国、信貴国の属国である豪雷国、大友国、吉祥国、長岡国、大原国、蓬莱国、朱雀国は駅馬車網で結ばれ城下町では人力車が走っている。

宗主国の邪馬大国、邪馬大国の属国である山脇国、早乙女国、前田国、大杉国も駅馬車網で結ばれ城下町では人力車が走っている。

辻堂町と邪馬大国の都が駅馬車で結ばれ13カ国が駅馬車で結ばれることになった。

 傭兵は強い職業だ。

強力な武器を持ち集団で行動し法律で縛られない。

日々の生活ができるのならこんな強い職業はない。

そんな傭兵が国々を亘る運送業を起こし人々は妥当な運送料を支払って利用する。

妨害があれば集団で対処する。

 大杉国の林の中の街道で切り倒された大木が道路を塞いでいたことがあった。

馬車が止まると周囲から短弓を構えた賊10人が出て来た。

駅馬車の護衛は連発銃で5人を殺すと残りの5人は林の中に逃げ消えた。

御者と護衛は協力して大木を移動させ、駅馬車は無事に目的地に着いた。

 報告を受け、マリアは各中継基地から兵士を呼び集め1000人の兵士に当該地点から3㎞の範囲で山狩をさせた。

通常の人間にとっては山狩は難しい作戦だ。

急勾配の斜面や生い繁る草木を進まなければならない。

マリシナ兵は空に浮かんで捜索する。

 円周18㎞を18m間隔で捜索を開始する。

山の大型動物も狩り立てられる。

捜索の輪が2㎞になれば兵士の間隔は12mになる。

すぐに山賊の隠れ家が見つかり山賊は殺された。

マリシナ兵が空を飛ぶことは秘密だ。

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