第91話 91、山脇国での駅馬車業準備
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マリアは娘10人を連れて山脇国に向かった。
山脇国に駅馬車の駅を作り途中に中継基地を作るためだった。
中継基地候補地はすぐに見つかった。
邪馬大国と山脇国との国境近くで小川が流れている場所だった。
旅人が休憩するらしく街道の周囲が広場になっている。
マリアは国境を跨(また)ぐ基地を作ろうと(意地悪く?)思った。
国境では10人ほどの兵士達が山脇国側で野営していた。
信貴国軍が邪馬台国の都にまで進軍してきたことを知り、国境を警備しているのであろう。
マリア達は当然のように誰何(すいか)された。
「お前達、どこに行くのだ。」
「山脇の御城下に参りやす。」
「都から来たのか。」
「左様でございやす。」
「都に来た信貴軍はどうなったのだ。」
「引き返しやした。」
「本当か。」
「本当です。今では都の門は開いております。旅人は自由に出入りできます。」
「信貴軍は負けたのか。」
「さあ、どうでしょうかね。攻撃に失敗して引き返したってことですかね。信貴軍の死体はたったの10人ほどでしたから。」
「詳しく話してみよ。」
「詳しくは話せません。あっしらはその時には都の中に居りましたから。都の一般人は戦(たたかい)を見ることができやせん。門の扉が開いて外に出てみると壊れた攻城機が2台と焼け焦げた10人ほどの兵士の死体が門の前に転がっていたんでさ。」
「ふーむ。攻城機を準備して来たが破壊されてしまったのだな。」
「そうだと思いやす。」
「お前達は娘の股旅者なのか。」
「左様で。」
「何で山脇城下に行くのだ。」
「博打で稼いで風呂に入って飯を食べるためでさ。渡世人ですから。」
「気楽な身分だな。」
「腕だけが頼りの身分でございやす。サイの目が出なければ野垂れ死でさあ。」
「厳しい身分だな。」
「行ってもいいですかい。日があるうちに宿に入らなければなりやせん。」
「よし、行け。」
山脇国の城下町は長岡国の城下町と同程度の大きさと賑(にぎわ)いだった。
マリア達は宿を取り娘姿や若衆姿で夜の巷(ちまた)に出かけた。
目的地は賭場だった。
マリア達にとって賭場は気楽に過ごせる場所だった。
博打で負けることはなかったし、周りの客はだれも他人で、賭場を仕切るヤクザ一家の男達は実力的には怖い存在ではなかった。
そんな男達と諍(いさか)いを起こし、たとえ殺してしまったとしても役人が出てくることはなかった。
ヤクザは自分たちの世界で始末をする。
「あんたら都のマリア陸送の人たちでないかね。」
商人風の男が娘の一人に言った。
「そうよ、よくわかったわねえ。」
「娘達だけのマリア陸送は有名だからな。大鷹一家のヤクザ者を一人で素手で14人殺して殴り込みをかけたんだろ。大鷹一家は1000両払って詫びを入れたそうじゃんか。山脇街道の繁華街の大鷹一家は子分衆が少なくなって大変だそうだ。」
「有名になったみたいね。」
「あんたらの中に14人殺しをした娘さんはいるんかい。」
「いないわ。アザミは車娘なの。今時は人力車を引いてるわ。」
「そんな強いアザミさんが車引であんたらは博徒なのかい。」
「みんな同じよ。博徒と用心棒。みんな同じように強いわ。」
「ここには博打の遠征で出張ってきたのかい。」
「ううん。土地を探しに来たの。多数の馬が飼えるような広い土地。見つかるかしら。」
「城下内では難しいかもしれんな。城下町の外ではいくらでも見つかると思う。」
「土地は高いのかしら。」
「土地は只さ。だが、土地を持てば税金がかかる。そこに家を建てても高い税金がかかる。よほどの金持ちでなければ土地を持とうとは思わないのさ。」
「マリア姉さん、聞きましたか。ここでは土地は只なんですって。」
「聞いたわ。お兄さん、お聞きしていいかしら。その土地が誰のものでもないかどうかが分かるのにはどこに行けばいいのでしょう。」
「お城に行けばいい。税金を払っていない土地は誰のものでもないのさ。」
「了解。明日(あした)にでもお城にいってみるわ。」
翌朝、マリア達は山脇城に行った。
大手門の門衛に税金支払いの場所を聞き、城の裏手の門を教えられた。
門を入った直ぐの建物がそうだった。
「ちょっとお聞きします。土地を持って税金を払いたいのですがどうすればよろしいのでしょうか。」
マリアは入り口を入った直ぐの窓口で係員に言った。
「地図で場所を示し、誰のものでもなかったら税金を払えば土地を持つことができる。税金は前払いだ。」
「仮にその土地を誰かが使っていた場合はどうすれば宜しいんで。」
「ここに言えばいい。その者が税金を払っていればその者のものだ。払っていなければ誰の物でもない。だれが実際に使っていようと税金を払っていなければその土地の所有は認められない。先に税金を払った者の所有になる。」
「明快な規則でございます。郊外に土地を持とうと思います。税金は如何程(いかほど)でしょうか。」
「どの辺りだ。」
「山脇街道の道端(みちばた)でございます。」
「街道沿いか。少し高くなるぞ。近くに人家はあるのか。」
「ありません。」
「それなら10m四方の100㎡あたり年1分(25000円)だ。小さな茶店が出せる。まあ茶店は実際にはそれ以上の土地を使ってしまうのだがな。その辺りの間口税はほとんどかからないから小さい建物は無税に等しい。でかい建物は別だ。」
「分かりました。100m四方の10000㎡を使いたいと思います。年25両(250万円)で宜(よろ)しいのですね。」
「それでいい。広いな。何をするつもりなんだ。」
「駅馬車の駅を作ります。」
「駅馬車とは何だ。」
「6頭立ての高速馬車で4人の客を乗せ山脇城下と邪馬大国の都を走ります。邪馬大国の火巫女様の許可は受けております。」
「そうか。邪馬大国は信貴国の攻撃を受けたと聞いている。山脇も1000の兵を出したんだが逃げ帰ってきたらしい。邪馬大国はどうなったんだ。」
「信貴国は攻城機を使って都を攻めようとしましたが邪馬大国は無傷で信貴軍を追い返しました。」
「そうか。邪馬大国はあいかわらず強いか。」
「あの城塞都市は難攻不落のようです。」
「そうだな。火巫女様が何十年もかかって作った街だからな。」
マリアは25両支払って25両と書かれた鑑札をもらった。
マリア達は荷車を買い、木材店で丸太を買い、丸太を載せて山脇街道を都に向かった。
山脇城下の外れ、辺りに人家のない場所、小川が流れている上流場所に丸太を立てた。
辺りの土は柔らかく、丸太を立て、300㎏の体重を持つ娘達が次から次に上からスタンピングすると丸太は地面にめり込んだ。
マリアは丸太の一部を削がせ「マリア陸送所有地」と矢立筆で墨書きした。
マリア達は城塞都市に戻ると直ちに隠れ村のマリシナ国に戻った。
隠れ村の1300人を新たに世の中に出そうとしたのだ。
隠れ村には宇宙船から新たに1300人を供給すればいい。
黒衣のマリシナ軍は筏船で福竜国の船着場に着き、峠に向かった。
途中の駅馬車中継基地で6頭立て駅馬車2台を隊列に加えた。
駅馬車はコンテストで優勝した「白雲号」と次点の「五月雨号」だった。
新造車で前の駅馬車よりは改良されていた。
マリシナ軍1300と駅馬車2台と多数の輜重隊荷車は豪雷国、長岡国、大原国を通って城塞都市に到着した。
途中、豪雷国、長岡国、大原国では軍隊の監視下で城下町を通過した。
マリア達一行の移動が早かったので軍勢を街道で誰何できる体勢ができず、城下町で待ち受ける形になった。
どの国の軍隊兵士もマリシナ軍が静かに通り過ぎていくと一様にほっとした表情をした。
マリシナ軍が強いということは分かっていた。
それらの国はマリア陸送からの知らせで軍隊が通過すると事前の連絡を受けていたのだが動きが早くて対応できなかったのだった。
信貴鳶高も早晩マリシナ軍が動いたことを知るだろう。
城塞都市の扉は閉まっていた。
マリアは軍使を遣(つか)わせた。
いきなり殺されるのを避けるためだった。
「城門警備の方に申し上げます。我らはこの都で人力車を走らせているマリア陸送の者です。この度(たび)、マリア陸送は山脇国と邪馬大国の間に駅馬車を通すことにしました。ここにいる1300人は山脇国の駅、及び途中の中継基地に配置される人員です。少し人数が多いですが、それはこれから開くと予定の早乙女国、前田国、大杉国への駅、及び中継基地の要員が含まれているためです。門を開けて我らを通してくださいませ。それが不都合であれば荒野を突っ切って山脇街道に入ることを許可してくださいませ。」
門の上から応えがあった。
「マリア陸送の者だと。完全に軍隊ではないか。」
「人力車の車娘は全て兵士です。火巫女様は山脇街道に駅馬車を通すことを許可されました。火巫女様にお聞きください。」
「火巫女様の許可を得ただと。しばらく待っておれ。」
「承知しました。」
1時間ほど経って門上から声がかかった。
「今から門を開く。隊列を組んで乱すな。止まってはならない。まっすぐ進んで広場を通り山脇街道に入り門から出よ。分かったか。」
「了解。両脇を兵士で囲んでもかまいません。我らも左右を盾で囲みます。4列縦隊、中隊ごとの密集隊形で進みます。」
「了解した。」
マリシナ軍1300は6頭立て駅馬車2台を先頭に密集隊形で門内に入った。
マリアは先頭の駅馬車の客席に乗った。
一番安全だ。
駅馬車の御者と護衛は人力車の車娘と同じく朱塗の三度笠と襟の高い道中合羽を着、左腰には長脇差、右腰には連発短銃を下げていた。
御者席と護衛席には筒に差し込まれた連発長銃の銃床が見えた。
駅馬車に続く兵士達は黒漆塗りの三度笠を冠り、襟の高い肩幅が張り出した道中合羽を着、連発長銃を左肩に背負い足の甲が覆われた高下駄を履いていた。
道中合羽の中には糧食、爆裂弾、十字弓などが吊り下げられていた。
左手には等身大の長方形の盾を立て右手は道中合羽の中で腰の連発短銃の銃把を握っていた。
中隊100人は密集隊形をとり、左右のどちらから見ても見えるのは隙間なく並んだ盾の列だった。
城塞都市の多くの住民は異様な軍隊の行進を自国兵士の隙間から垣間見た。
マリシナ軍はマリア陸送の前を通り、通りに出てきた車娘達に盾を上げて挨拶し、広場を通り、山脇街道に入り、繁華街を通って門から出た。
城塞都市の扉は閉じなかった。
マリアは中継基地の建設予定地でマリシナ軍12中隊1200人と大部分の輜重荷車をその地に留め、中継基地の建設を命じた。
そして駅馬車と共に1中隊100人を連れて山脇国の駅馬車駅予定地に向かい、予定地では野営を命じた。
兵士の食料は山脇城下から調達でき、駅舎と倉庫も城下の大工に建てさせるつもりだった。
マリシナ国は小判を生み出す金鉱山を持つお金持ちなのだ。
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