第85話 85、城塞都市の様子
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マリアは思い浮かべるように言った。
「ふふふっ。翌日は丘の上に邪馬大国の騎馬隊1万騎が現れたんでさ。1万騎ですよ。丘一面が騎馬隊で覆われたんです。それがドラの音で一斉に襲歩で丘を駆け下って行ったんでさ。凄かったですね。距離はおよそ500mでやした。分厚い騎馬軍団が津波のように襲いかかって行ったんです。」
「ん、それでどうした。」
「なにしろ襲歩でやすからね。100mをたったの4秒半で走ります。あっしらは遠くの丘にいたんですがそこまで地響きが聞こえて来るんでさ。」
「そうか。で、どうなった。」
「信貴軍は2500の鉄砲を距離300mから撃ち始めたんですが、邪馬台国軍は周りが倒されても突撃を続けたんでさ。2500騎が倒されても生き残った7500騎が突進するんでさ。鉄砲の弾を込めている暇がありません。凄かったですね。」
「それでどうなった。」
「信貴軍はその後2回鉄砲を撃てたのですが邪馬大国の騎馬隊は何層にもなっていて周りが倒されても突撃して行くんでさ。邪馬台国軍の騎兵隊は勇敢でしたね。恐れを知らない。長槍隊や弓隊とは大違いでした。騎馬隊1500はとうとう信貴軍に突入したんでさ。白兵戦になりました。」
「1500騎が敵軍になだれ込んだのだな。」
「左様で。」
「それでどうなった。」
「ふふふっ、聞きたいですか。」
「当たり前だ。早く申せ。」
「信貴国の鉄砲隊は大慌てで荷物を積んだ荷車の下に潜り込んだんでさ。荷車は4列に道いっぱいに重なって広がっていたので騎馬隊は荷車を飛び越えることができず止まってしまいました。相手が荷車の下ですから馬上からでは短弓は当たりません。槍も騎馬の上からでは届きませんでした。それを鉄砲隊は荷車の下から鉄砲を撃ったんで。荷車の前には死んだ馬の壁ができやした。それでは後の騎馬は近づくことができません。結局騎馬隊は全滅し5000頭の軍馬が生き残りやした。」
「全滅か。」
「左様で。騎馬隊が1万でしたからそうなりました。あれが2万だったら全滅したのはおそらく信貴軍だったと思いやす。」
「うむ。惜(お)しかったな。」
「その後は12000と2500との戦いでやした。」
「まだあるのか。」
「これが最後でございます。少し変な戦いでしたね。」
「早く申せ。」
「その前にお茶を一杯飲ませていただけやせんか。喉が渇きました。」
「茶か。さっさと飲んでさっさと話せ。」
マリアは役人が差しだした湯呑みを受け、ゆっくり飲んでから話し始めた。
「・・・場所は辻堂町の手前でした。街道を遮(さえぎ)るように多数の軍勢が陣を構えていたんで。変な陣立でジグザクでした。前に6個大隊の軍勢が並び、後ろは前の軍勢の間に居るんでさ。横陣(おうじん)の変形なんですかね。簡単に言えば1000人規模の大隊6個が間を空けて横一列にならび、その間の後ろ側に6個大隊が陣取っているってわけで。・・・後で分かったんですがね、前の6個大隊は邪馬大国の属国の軍で後ろの6個大隊は邪馬大国の軍だったようです。属国の軍が戦っている間を突撃して側面を突くつもりだったんだと思いやす。」
「いい戦法だ。」
「ところが信貴軍はそうしませんでした。」
「どうしたんだ。」
全ての役人が身を乗り出すようにしてマリアの話を聞いていた。
「離間の計みたいものですかね。信貴軍の鉄砲は前面の属国軍を撃たずに斜め後方の邪馬大国軍を撃ったんでさ。1000の大隊に2500の鉄砲が斉射されればその大隊は壊滅します。信貴軍は邪馬大国の大隊を1個1個と順番に潰して行ったのです。5つの大隊が壊滅すると邪馬大国の6番目の大隊1000は我先に敗走を始めました。騎馬隊とは大違いでしたね。戦わないで逃げ出したんでっせ。それを見た属国の軍隊は後退を始めました。後ろで見張っていた邪馬台国軍がやられたり逃げ出したりしたんですから戦う理由がありやせんや。後方の各国の輜重隊は大混乱だったようです。我先に自国の荷車を後退させようとしたんですからね。そんな混乱は信貴軍が近寄ってくると収まりやした。荷車を置いたまま辻堂町の方に敗走して行ったんでさ。」
「何という裏切り行為だ。」
「無理ありやせんや。戦えば殺されるって分かっているんですからね。だれかが逃げれば自分も逃げたくなりまさあ。」
「まあ、無理もないか。」
「戦いはそれだけです。あっしらは辻堂の街で次の戦が始まるのを待ったんでさあ。だいぶ長かったですね。今回信貴軍が出発したって聞いたんで後を追ったんで。そうしたら信貴軍は戦わないで引き返して来たんじゃありませんか。驚きやしたね。でもまあ暫くは来ないだろうから邪馬大国の都ってのを見ようと思ってここに来ましたんで。暫く博打で食い繋ごうと思っておりやす。この街には賭場はあるんで。」
「博打は違法だから無いことになってはいるが、まあ無いことは無いな。」
「どこの街でも禁止されておりやすが無いところは無いですね。」
「博打はハマると抜け出せないんだ。」
「それが博打でさ。」
「1000人の大隊が信貴軍の鉄砲で一瞬で壊滅されたって言ったな。1万の騎馬隊も鉄砲でやられたって言ってたな。鉄砲ってのはどんな武器なんだ。」
鉄の筒の中に火薬と鉛の玉を入れて火薬に火をつけて鉛の玉を飛ばす武器のようです。ものすごい音がしやしてね、相手はコロコロ倒れやす。弓矢より遠くから攻撃できるようです。」
「恐ろしい武器だな。」
「飛び道具は何でも恐ろしい武器でさ。鉄砲は強力な弓だと思えばいいのだと思いやす。」
「そうか。」
「そろそろ放免していただけやせんかね。あっしらが十分に怪しい者達だろうとはよく分かっていますがね。そろそろ今夜の宿を決めて賭場を探さなければなりやせん。」
「宿は決まっておるのか。」
「推薦の宿がありやすか。その宿は賭場に近いですか。」
「大筒屋がいいだろう。そこそこの距離にでかい繁華街がある。賑(にぎ)わってる賭場もそこにある。」
「分かりやした。大筒屋に泊まることにいたしやす。あっしらに御用がありましたら宿に連絡してください。夜は行けませんが昼間なら協力できると思いやす。」
「分かった。十分すぎるほど怪しい者達だが放免してやる。」
「ありがとうございます。で、出たら右に行くんでしょうか左に行くんでしょうか。」
「左だ。」
「了解。」
番屋から宿までの距離は長かった。
幅が10㎞もある城塞都市だ。
しかも主要な街道が城塞都市を貫いている。
平時は門が常に開いており、旅人は自由に城塞都市内を通行できるのであろう。
道には普通の人家が続き、所々に八百屋や米屋などの小さな小売店があった。
城塞都市の政治の中心は都市内街道から少し離れた丘の上にあるらしい。
丘の上には象徴的な天守閣のような建物があり、他に豪華な屋敷が建っており、それらは長々と続く石垣の上に建てられていた。
城塞都市の一般住民はそれらの建物を仰ぎ見ながら過ごす。
道は次第に繁華街に入って行った。
宿屋があり、飯屋があり、酒屋があり、料理屋があり、娯楽屋があり、女郎屋があり、駕籠屋があり、そして博打場もあった。
呉服屋や両替屋のような大店はなく、別の地域にあるらしい。
マリア達は宿に入り、貸衣装屋を呼んで若衆姿や娘姿になり街に繰り出した。
姿を変えたのは邪馬大国軍の騎馬隊が11人の股旅姿の渡世人に突破されたことを知っている騎馬隊兵士に出会うことを避けるためだった。
股旅姿の衣服は特急の洗濯に出し、二人の娘は22丁の拳銃の留守番だった。
マリア達は繁華街を通り抜け広場に出た。
これまで来た街道は広場で何本かの道に分かれていた。
マリア達は茶店に入り、団子を食べながら店主に聞いた。
「広場から出ている道はどこに通じているんでしょうか。」
「あんたらここは初めてだな。あんたらみたいな客がここに道を聞くために来るから店は大繁盛だ。街道と違って道標がないからな。あったら抜いてしまうつもりだがな。へへっ。・・・一つは辻堂の町に通じている。一番重要な道だな。辻堂からは蓬莱国と朱雀国と大原国に行く道がある。大原国の先は長岡国だ。その道の隣が山脇国に通じる道だ。少し遠いが一本道だ。その隣の道は早乙女国に通じている。早乙女は米を作っている国だ。その隣の道は前田国への道だ。これも少し遠い。その隣の道は大杉国に行く。この道は製材を運ぶ荷車が多い。」
「要するに前の広場は右回りに辻堂町と山脇国と早乙女国と前田国と大杉国に通じているんですね。」
「要さなくたってそうなっているんで。」
「ごもっともで。ご主人、山脇、早乙女、前田、大杉国ってのは邪馬大国の属国なのですか。」
「そうだ。火巫女(ひみこ)様がみんな平らげた。」
「火巫女様ってお方は邪馬大国のお殿様ですか。」
「そうだ。長いことかかって壁で囲まれた町をお造りになった。」
「力があるんですね。」
「神がかっているお力だ。」
「名前からすれば女の方ですか。ここにいればお姿を見ることができるのでしょうか。」
「どうかな。ワシもまだ見たことがないからな。」
「繁華街は辻堂町への道にあるだけですか。」
「いや、そんなことはねえ。広場と門の間にはどの道も繁華街がある。」
「同じような繁華街ですか。」
「同じようで違っているな。互いに競っているからな。」
「大きな街ですからね。繁華街もいくつもあるわけだ。」
「仕切っているヤクザも繁華街の数だけある。」
「おいしそうな匂(にお)いがプンプンしますね。」
「おいしそうって、あんたらはヤクザなのか。みんな娘だ。」
「あっしらは娘博徒(むすめばくと)なんで。ヤクザが多いってことは普通はそこが豊かだってことです。博打で金儲けができるってことでさあ。」
「だが、博打で儲けたって話は聞いたことがあるが財を成したって話は聞いたことがねえ。」
「ごもっともで。財を成すには正業でなければできやせん。・・・ここでは土地とか店を買うことができるんで。」
「金には税金はかからんからな。売る者もいるだろう。この街はこれ以上には広がらない。余計な土地を持っていても税金を取られるだけだ。」
「要するに買えるんですね。」
「買える。」
「ご主人、この街は大きい。端から端までは10㎞もある。皆さんは端から端に行くにはどうするんで。駕籠ですか。馬ですか。」
「馬車だ。まだ見ていないのか。街ではよく走っている。2輪馬車だから御者は後ろだ。この辺りは馬がたくさんいるし安いからな。」
「そうですか。人力車の出番はないですね。」
「人力車ってのは馬の代わりに人間が引く馬車だな。」
「左様で。」
「当然、雨には濡れないのだな。」
「もちろんで。」
「それなら運賃次第だ。馬は糞尿を垂れ流すし歩いている人間にとって馬は恐ろしい物だ。」
「考えてみましょう。」
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