第84話 84、邪馬大国の城塞都市 

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 信貴鳶高は軍勢の後ろからつけて来ていたマリアに相談することにした。

町から見えるかもしれないので単騎でマリアのところに行った。

「やあ、マリア殿。今回も見物かな。」

「そうですよ、鳶高様。今度の相手は大きいみたいですね。」

「少し大きすぎてな。取り囲むこともできない。」

「鉄砲もだめで中を見ることもできませんね。」

「こんな町だと言う話は聞いていたが想像より高い壁が厚くて高い。お手上げだ。」

 「私も話には聞いたことがあります。昔の都は街全体を強固な石塀で囲んでいたそうです。そんな都は一旦占領されたら取り返せないそうです。盾が圧倒的に強い場合ですね。」

「そんな場合にはどうするのだ。」

「内に兵を送り込むか門を破るか空から攻撃することが考えられます。」

「どれもできそうにない。」

「今回は準備不足だったようですね。」

 「そうだな。鉄砲を過信してしまった。どうしたらいいかのう。」

「一旦引き返したらどうでしょうか。」

「何とも格好が悪いな。強固な城を見てスゴスゴと引き返すわけだ。」

「鳶高様はこの都をどうなさるおつもりですか。」

「マリア殿が言っている意味がわからん。」

「住民もろとも全てを滅ぼすおつもりなのか、あるいは町の中にある城の持ち主を家来もろとも殺すのか、はたまた邪馬大国を降伏させて属国にしようとするおつもりなのかと聞いております。」

 「うーむ、どうするかのう。・・・最初は属国にしようと思っていたが、この都を見て考えが変わった。属国にするつもりはない。・・・邪馬大国は異質だ。他の国とは違う。この延々と続く石塀を見れば相当な数の人間を働かせていたはずだ。他国の住民を奴隷のようにして働かせたのだろうな。ワシはそんな城主とは付き合いたくない。町の人間もそれに加担していたのかもしれない。皆殺しにしてもいいと思う。」

「そんなお考えなら火攻めか兵糧攻めが適当だと思います。」

 「兵糧攻めは時間がかかるし、周囲は野原と畑だ。こっちが参ってしまう。火攻めにしても中に入らなければ何もできない。中に入れさえすれば鉄砲の威力が発揮されるから火攻めにする必要もないわけだ。」

「でも、住民の数だけの弾薬を準備しましたか。1万の騎馬隊が居れば少なくとも10倍の10万の住民がいるはずです。100倍の100万の住民かもしれません。100万発の銃弾を準備しましたか。今回の鉄砲の数は3500丁ですから、皆殺しには300回発砲しなければなりませんよ。」

「100万発の弾は用意してない。それで火攻めというわけだ。中に入って鉄砲を使うとしたら城の兵士に対して使うべきだな。第2の場合になるわけだ。」

「難(むつか)しいですけどね。」

 「今回は格好が悪いが帰るか。」

「それが宜しゅうございます。邪馬大国軍が城から出て来れば勝てると思います。」

「まあ考え方しだいだな。邪馬大国にしても敵が間近まで近づき戦わずに帰ったわけだ。言ってみれば邪馬台国は挑発されたわけだな。それを受けないで城壁の内側で縮こまっていたら他の属国に示しがつかない。信貴国軍が邪馬大国の属国を攻めても出てこないことになるからな。」

「ふふっ、そう思いますよ、信貴鳶高様。・・・そう言うのを自己正当化といいます。」

「自己正当化か。負け惜しみとも言えるかな。」

 「狐は木の枝になっている葡萄を跳び上がって取ろうとしたのですが、あと少しで取ることができませんでした。狐はその葡萄は酸っぱくて美味しくないに違いないと自分に言い聞かせました。鳶(とび)なら空を飛べますから葡萄を取ることができそうですね。」

「それにしても食べきれないほどの大きな葡萄だな。」

「その葡萄は小判を作っているそうです。質は半分に落ちているようですが。」

「おいしいに違いないな。」

「そう思います。」

 信貴鳶高は軍勢を引き返させた。

マリア達は道端に寄り、その前を3500の軍勢が通り過ぎ、全ての輜重隊の荷車も通り過ぎて行った。

軍隊が地平線に消え、マリア達11人だけがその場に残った。

マリア達は邪馬大国の都、城塞都市に向かった。

 都の門は閉じていた。

門は幅10mほどで高さ10m、上部はアーチ状になっていた。

隙間もないほどピッタリ合った大石で作られており、表面は平に磨かれていた。

鉄の鋲が打たれた重そうな扉は上のアーチとピッタリ合っていた。

門の上には弓を射るための小窓が並んでおり、さらにその上は鋸壁(きょへき、凸凹壁)になっていた。

そして鋸壁の上には兵士で溢れていた。

 マリア達が門の前に来ると上から声がかかった。

「待てーい、そこの者達。何者だ。」

マリアは上を向いて応えた。

「マリシナ国の渡世人でございます。門は開かないのですか。それなら引き返しますが。」

「怪しい者達だな。お前達だけなのかーっ。」

「見た通りでございやーす。辺(あた)りには信貴軍はいないようですよーっ。」

「図太いやつだな。でかい声を出しおって。・・・何でここに来たーっ。」

 「あっしらは股旅者でやす。こちらに大きな町があると聞いて来やした。大きすぎて驚いてはおりやすがね。ここに来たのは博打で儲けて飯を食べるためでさ。それがあっしらの生き様でさあ。」

「よく聞こえなかった。・・・お前達は娘なのか。」

「男には見えないと思いやす。・・・結局、あっしらは門の中に入れるのですかーっ。入れないなら大原に引き返しますが。・・・近くで話しやせんかーっ。」

「・・・今、門を開ける。そこを動くな。」

 門が開き、短槍を持った20人の兵が出て来てマリア達を囲んだ。

「やはり、話は近くがいいでやすな。で、どこから続けますか。それと、どなたに話せばいいのでやすか。」

「ワシに話せばいい。・・・お前達は兵隊が怖くないのか。」

兵の一人が言った。

「あっしはマリシナ国の渡世人のマリアと申しやす。マリシナ国は傭兵の国で住民の全員が兵士です。ですから兵隊はお仲間でございやす。」

 「傭兵の国だと。どこにあるのだ。」

「西の山の湖の湖岸にございやす。」

「ここは戦場だぞ。何故(なにゆえ)こんな所に来たのだ。」

「あっしらは股旅者で気ままな旅人(たびにん)でございやす。今回は戦見物(いくさけんぶつ)をしようとこちらに足を向けました。でも残念ながら信貴軍は帰ったようです。・・・邪馬大国の都に入れてくれたら一稼ぎしようと思いやす。ここでも丁半博打はできやすね。」

 「むむっ、ぬけぬけと戦見物だと。それに博打(ばくち)は御法度だぞ。」

「どこの国でも御法度ではございますが、どこの国でも行われておりやす。」

「口のへらん娘だな。とにかく怪しいことは間違いない。役人に引き渡して厳しく詮議してもらう。中に入れ。」

「了解。」

 10mある長い石門のトンネルを通ってマリア達は兵士に囲まれたまま邪馬大国の都に入った。

「今、役人が来る。まず脇差を捨てよ。」

兵士の隊長らしい男が言った。

「嫌でございやす。なぜ捨てなければなりませんか。」

「なぜだと。捕らえられたのだから武装解除は当然だろう。」

「捕えられたとは思っておりやせんが。」

 「兵士らに囲まれているのだぞ。刀を捨てなければ殺すぞ。」

「殺されるくらいなら戦いまさあ。あっしらは強いですぜ。試してみますか。」

「・・・まあいい。たった11人で目立つ風体で娘だ。たとえ信貴軍の隠密だったとしてもどうこうできるものではない。あとは役人が何とかするだろう。」

「それが宜しゅうございやす。どうぞ鋸壁(きょへき)での見張りをお続けください。」

「ほんとに図太い娘だな。」

「あっしらは図太いのが好きなんでさ。」

「・・・いやはや何とも。マリシナのマリアか。」

「正確にはマリア・ダルチンケービッヒって言うんでさ。」

 暫くして5人の役人が到着し、マリア達は街の中の番所に連れて行かれた。

番屋は少し遠かったのでマリア達は街の様子を眺めることができた。

木造家屋は比較的少なくレンガや石でできた家が多かった。

この辺りは街外れに近いせいかもしれない。

そして火攻めは難しいかもしれない。

 「生国姓名と目的を申せ。」

番屋の役人は上り框に腰掛けて土間に片膝を着けて控えているマリア達に言った。

マリアはゆっくり立ち上がり、三度笠を外して土間に置き、道中合羽をゆっくり脱ぎ、たたんで三度笠に置き、拳銃が入った振り分けの柳行李(やなぎごうり)をその上に置き、腰を中腰に落とし、右手を手の平を上にして突き出し、左手を膝に置いて言った。

「お控えなすって。当御番屋の土間三尺三寸を借り受けまして、稼業、仁義を発します。御番屋内での仁義は初めてでございますがゆえ前後間違いましたる節はまっぴらご容赦願います。手前、生国生湯の水も分からねえ捨子。石倉の隣、隠れ村で育ちました。姓は無く名はマリア。稼業、用心棒。昨今の駆出し者で御座います。今回、遊侠の運に恵まれ戦見物をするべく御当地に参りました。以後、万事万端、我ら11名。暖かく受け入れくださりますようお願いなんして、ざっくばらんにお頼み申します。」

 「要するに隠れ村のマリアという用心棒の渡世人で戦見物に来たということだな。」

「左様にございやす。」

「戦見物なんて初めて聞いた。戦場は危険な場所だ。法律も役人も居ない力だけの場所だ。お前達にその力があるのか。」

「戦うことにも逃げることにも自信があるからこそ戦見物ができるのでございやす。それゆえ稼業を用心棒としておりやす。」

 「そんなに強いのか。」

「薩埵国では100人以上の捕手(とりて)を皆殺しにいたしやした。」

「棒を持つ捕手と槍を持つ兵隊は違うぞ。」

「つい先日、運悪く邪馬大国の軍勢に囲まれましたが突破いたしやした。」

「お前達は信貴国と邪馬大国の戦いを見たのか。」

「しっかりと見物させていただきやした。」

「ここには情報が入ってこないのだ。どんな戦いを見たのだ。」

 「最初は大原を過ぎたあたりでございやした。邪馬大国の騎馬隊1000が丘の陰から信貴国2500に襲いかかりましたんで。信貴国の鉄砲隊2000がそれを全滅させやした。まあ初戦で1000対2500ですからね。・・・次は街道を塞ぐ長槍隊と弓隊の500、その左右に展開する騎馬隊1000が現れましたんで。信貴軍が止まるとそれを待っていたかのように両側から2000の騎馬隊が現れて信貴軍を囲みやした。今度は3500対2500でさ。ところが信貴軍が前方の長槍隊と弓隊を鉄砲で倒すと騎馬隊1000は丘に移動し、そこの2000と合流し、丘の向こうに消えてしまいました。ここまでが1日目でございやす。」

 「なんだ、結局、邪馬台国は騎馬隊1000と長槍弓隊500がやられたのか。」

「左様です。予想が違ったんでしょうな。でも翌日はもっと激しい戦がありました。」

「どうなった。」

「聞きたいですか。」

「早く話せ。」

「ここから先を聞きたければお代をいただきます。なにしろあっしらが命懸けで得た情報ですからね。それに野宿もしましたし。」

「何を言っておる。早く話せ。」

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