第83話 83、邪馬大国の都への進軍
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長岡国、豪雷国、信貴国での宣伝走行をし終わって駅馬車業は始まった。
駅馬車は最初のうちは信貴国と辻堂町の間の官吏の行き来に使われた。
豪雷国ー信貴国、長岡国ー信貴国の利用もあった。
大原国が信貴城下に屋敷を構えるようになると大原国ー信貴国も利用されるようになった。
そしてマリシナ兵が常駐する駅馬車中継基地もいくつか作られた。
駅馬車の速さを速歩から駈歩に変えたからだ。
そしてそれはマリシナ国民が生物人間の世界に確固とした場所と役割を築くのに貢献した。
辻堂町の信貴軍駐屯地は邪馬大国制圧に大きな役割を持つようになった。
兵站線が短くなったからだ。
多くの食料弾薬が駐屯地に運び込まれ、軍は駐屯地から出撃できるようになった。
駐屯地を作ってから1年後、信貴鳶高は2500の軍勢を引き連れ辻堂町から街道沿いに北の蓬莱(ほうらい)に向かった。
信貴軍の駐屯地がある辻堂町は邪馬大国の支配が無くなり、どこの国の施政下にも入っていない。
信貴国の役人は入っているが、今のところ税金もない。
当然各国の密偵が入り込んで信貴軍の動向を見張っていた。
信貴軍の動きは直ぐに蓬莱国に伝わったのであろう。
蓬莱国軍は国境で待っていた。
規模は1500だった。
国境線に沿って展開し臨戦態勢を取っていた。
信貴軍2500は国境の前500mで止まり、蓬莱国と同じ程度の巾に鉄砲隊を展開した。
2000の鉄砲隊を真ん中に両端を200の竜騎兵が位置した。
信貴鳶高は軍の中央に100の竜騎兵と共に居た。
信貴鳶高は軍を横一線に並べて前進させ相手戦線の200mで止めた。
蓬莱国軍は鉄砲の威力を十分に知っているはずだ。
鉄砲は邪馬台国軍1000を短時間で壊滅させた。
それも蓬莱国軍の後ろに位置していた軍勢をだ。
数に劣る蓬莱国軍の横一線の布陣を見れば相手は勝とうと思っていないようだった。
玉砕を覚悟しているように見える。
信貴鳶高は軍使を派遣させた。
一騎の竜騎兵が銃剣の先に白旗を付け、相手戦線の30mまで接近し大音声で言った。
「拙者は信貴国騎馬隊隊長の大隅雪風と申す。軍使として来た。前方の軍勢に伝えたいことがある。代表は出て来られよ。身を守る武器を持って出て来られよ。・・・ここは貴軍の弓隊の射程範囲にある。安心して出て来られよ。」
一人の騎馬武者が弓隊の間を通って大隅雪風の前5mで止まって言った。
「拙者は蓬莱国騎兵隊隊長の清水泉水と申す。口上を述べられよ。」
「我らは邪馬大国を討つためにこの地に来ている。邪馬大国は属国の長岡国に豪雷国を討つように命じた。豪雷国は信貴国の属国である。信貴国は邪馬大国を討つことにした。・・・蓬莱国軍が先の戦(いくさ)に参軍していたことは知っている。我が軍は前方の貴軍を討たず後方の邪馬台国軍を討った。前方の軍が属国の軍であることを知っていたからだ。戦いの帰趨は貴殿も知っている通り我が軍が勝った。我らは邪馬大国との戦における貴国の意思を知っておきたい。我らは邪馬台国の都に攻め上り邪馬大国を滅ぼすつもりだ。邪馬台国の属国である貴国が邪馬大国を助けるのか否かは重要なことだ。邪馬大国に味方するつもりなら邪馬大国を討つ前に蓬莱国を壊滅させておかなければならない。日和見(ひよりみ)は許されない。信貴国は蓬莱国が信貴国の属国になることを提案する。邪馬台国の属国であった長岡国と大原国は信貴国の属国となった。蓬莱国が信貴国の属国となれば蓬莱国国主はこれまで通り国を治めることができるが、国主の家族は信貴城下で暮らし、国主は国許と信貴国を半年毎に暮らさなければならない。我らは属国を守る。侵略されたら援軍を送る。繰り返すが信貴国は蓬莱国が信貴国の属国になることを提案する。・・・以上だ。よく検討し決断されよ。期限は今から2日後だ。その間に邪馬大国に援軍を要請してもよい。城の防御をかためても良い。2日後に結論を聞こう。以上だ。」
「口上は承(うけたまわ)った。提案を検討し返事する。2日間は国境を越えないのだな。」
「そのつもりだ。良い結果になることを期待する。」
信貴軍軍使は馬を数歩後退させ、反転させ、自軍に駆け戻った。
蓬莱国軍からの弓矢は放たれなかった。
2日後、蓬莱国は信貴国の属国になることを伝え、軍勢は蓬莱城に引いた。
信貴鳶高は蓬莱国に入らず、信貴軍を辻堂町の駐屯地に引き返させ、直ちに役人を蓬莱国に派遣した。
蓬莱国に属国加入の詳細な説明をするためと蓬莱国軍の動きを監視するためだった。
たとえ蓬莱国が裏切って役人が殺されてもたいしたことではない。
数日後に信貴鳶高は南の朱雀国(すざくこく)に軍を進めた。
朱雀国も国境線に軍を展開させていた。
信貴鳶高は軍使を派遣し、軍使は口上を述べ、朱雀国は信貴国の属国になる道を選んだ。
信貴軍は駐屯地に戻り、役人は朱雀国に派遣された。
これで邪馬台国の属国8ヵ国のうち4ヵ国が信貴国の属国となった。
残りの属国4ヵ国は邪馬大国首都の先だった。
信貴鳶高の次の目標はいよいよ邪馬大国首都の城だった。
マリアは蓬莱国に駅馬車の駅を作るために蓬莱国に行った。
蓬莱国が信貴国の属国になることに同意し、信貴国から役人が来ている時は設置の好機だった。
ドサクサに紛れて何でもできる。
マリアは蓬莱城下の外(はず)れにマリア陸送を立ち上げ、人力車10台、駅馬車1台を送り込み、3小隊30人の兵士を常駐させた。
車娘20人と駅馬車御者護衛兵10人だった。
もちろん宣伝走行が蓬莱城下で行われた。
着飾った娘を乗せた人力車5台が先頭で、娘4人を乗せた6頭立て駅馬車が続き、最後は娘人力車5台だった。
それを見た信貴国からの役人は安心した。
役人にとって人力車と駅馬車は馴染みの交通手段だった。
信貴城下では人力車も駅馬車も城下を走っている。
そして、そこに乗っている娘達は恐ろしく強いマリシナ国兵士であることを知っていた。
「人力車と駅馬車か。あれは便利だ。信貴の城下でも走っておる。信貴国に行くには駅馬車が便利だ。安全だし速い。」
信貴の役人は隣にいた蓬莱国の役人に自慢げに説明した。
「だが、引いているのは若い娘ではないか。それに御者も娘だ。あれで安全なのか。」
「娘達はマリシナ国の兵士だ。恐ろしく強い。信貴国もマリシナ国には絶対に勝てない。信貴城はあっという間に落城させられ金鉱を取られてしまった。」
「そんなに強いマリシナ国は危険ではないのか。」
「不思議なことに国を奪う野望を持っていないのだ。簡単に征服できるのにな。・・・あの駅馬車の御者席に乗っている若衆姿の娘がいるだろう。あれがマリア殿と言ってマリシナ国の国主だ。うちの殿もあの娘には頭が上がらん。」
「綺麗な娘ではないか。」
「あんな顔をして平気で人を殺させる。その国の法律で罰しようとすると軍勢を引き連れて強訴する。豪雷国ではそうだった。要求を受け入れるか然(しか)らずんば城を落とすと脅すわけだ。」
「それでは犯罪者ではないか。」
「国の中の法律では強訴はご法度だな。だが国と国の間に法律はない。」
「確かにそうだ。だがやられた方はたまらんな。」
「だが、強訴するのにはそれなりの理屈が通っているのだ。強訴しても当然の時にしかしない。」
マリアは朱雀国にもマリア陸送を立ち上げた。
朱雀国と辻堂町との距離は長かったので途中に中継基地を作ってマリシナ兵を常駐させた。
今や広い範囲に亘って街道沿いに駅馬車の中継基地が建設され、マリシナ兵が常駐した。
荒野の中継基地ではマリシナ軍の砦が隣に作られた。
砦は高い塀で囲まれた方形で4隅に外に突き出した見張り櫓(やぐら)があった。
攻撃者は簡単には塀に近づけない構造だった。
それでも駅馬車の中継基地だという名目だった。
信貴鳶高は3500の軍勢を引き連れて邪馬大国の首都に向かった。
鉄砲隊3000と騎馬隊500の構成だった。
前回、邪馬大国の騎馬隊10000の急襲を受け危うく直近まで接近された。
10000までの騎馬隊急襲に対処できるように鉄砲隊1000を加えたのだ。
マリアはまたもや娘達10人を連れて戦争見物に信貴軍の後をつけた。
邪馬大国は既に多数の兵を失っている。
最初は騎馬隊1000だった。
次は長槍隊と弓隊500と騎馬隊3000だった。
その次は騎馬隊10000。
最後は混成の6大隊6000だった。
およそ20000の兵と15000余りの軍馬を失っている。
普通にはかなりの痛手のはずだ。
邪馬大国の城は町と一体になっていた。
高さが20mもある石壁で囲まれた町があり、町の中に城があった。
石壁は延々と30㎞以上続いており、町の直径は10㎞以上だった。
石壁の外には耕作地が広がっているが、建物は耕作のための小屋であり人間は住んでいなかった。
ほとんど全ての人間が石壁の中に住んでいた。
辻堂からの街道は石でできた巨大な門に入っていた。
旅人は必ず巨大な門を通らなければならない。
そうしたくなければ石壁に沿って15㎞以上を歩かなければならないし、それは胡乱(うろん)な者として誰何、捕縛されるだろう。
「何とも厄介な城だな。城ではなく都と言うわけだ。」
信貴鳶高は地平線まで続く巨大な都を見て呟(つぶや)いた。
鉄砲は巨大な石壁を破壊できない。
花火迫撃砲を使っても石壁はびくともしないだろう。
花火が石壁の中に落ちたとしてもそこに敵兵がいたのかどうかも分からない。
内側が全く見えないのだ。
30㎞にも亘る城を3500の軍勢で囲むことはできない。
たとえ信貴国の全兵力10万の軍勢を連れて来たとしても難しい。
石壁の都は食料を十分に備蓄しているはずだ。
石壁の中では食料も生産できるだろう。
都全体で一つの国になっているのだ。
石壁には10以上の巨大な門がある。
敵はいつでも門から出撃できる。
抜け道もあるかもしれない。
城の外、ずっと遠くに多数の騎馬隊を隠しているかもしれない。
信貴鳶高は平原の戦いとは違うことを認識した。
巨大な城を落とすには攻城兵器が必要であり、攻撃には多数の犠牲者が出るだろうと推測した。
そもそも城壁の中にある城の位置も分からないし、城壁内の町の様子も分からなかった。
城壁内を見ることができる高い丘も辺りにはなかった。
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