第82話 82、マリア陸送の駅馬車
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マリアは娘達を連れて町に行った。
元の邪馬大国役所を警備していた兵士に言った。
「あのー、ちょっとお願いがあるのですが、ここの責任者に会わせていただけやせんか。あっしはマリシナ国のマリアと申しやす。」
「マリシナ国のマリアってあのマリシナ軍の大将か。」
「そうです。」
「暫く待ってくだせえ。」
そう言って兵士は建物の中に入って行った。
男が役所から出て来てマリアに言った。
「マリシナ軍のマリア殿ですか。ここの警備隊長の大友一樹と申します。何用でしょうか。」
「信貴鳶高様にマリアが会いたいとお伝え願えますか。」
「現在殿がどこに居られるのかは拙者には分かり申さん。伝言は上に伝えておく。どこかで待っておられるか、後刻再び来られたらよかろう。」
「分かりました。後刻参ります。」
その時、道の先から騎馬群が近づいて来た。
先頭は信貴鳶高で、他の騎馬は竜騎兵だった。
マリアが鳶高を見ていると鳶高はマリアの前で止まり、下馬して言った。
「マリア殿、会いに来たのか。町を視察していたところだ。」
「鳶高様の戦いを見せていただきました。お見事な作戦でした。」
「うむ、何か邪馬大国が威張っているようだったのでな。先に邪馬大国軍を叩(たた)いたら属国軍は逃げ出してくれた。」
「そうでしたね。」
「話があるんだろ。中で聞こうか。中の役人は外を警備させる。」
「娘達も外の警備に着かせます。」
役所の役人は二人にお茶を出してから外に出た。
外では役人と娘達が周囲を警備し、竜騎兵は辺りを巡った。
「して、何かな。」
上り框(かまち)に腰掛けた信貴鳶高が隣に座ったマリアに言った。
「街道に新たな駐屯地を作ってしまいました。さぞご不興の事だと推察いたします。権力の空白地帯に基地を作ったのはハイエナ行為でございました。」
「あれはどうするつもりなのじゃ。」
「駅馬車、あるいは郵便馬車の中継基地にするつもりです。」
「駅馬車とな。想像できるがどんなものじゃ。」
「人と書簡を運ぶ馬車でございます。6頭立ての大型高速馬車で、お客の他に御者と護衛が乗り込みます。この町の名前は「辻堂町」だそうでが、辻堂町から大原国までの距離は歩けば2日がかかります。人力車で走るには長すぎます。それで1日で行き来できる馬車を考えました。乗り心地が良いようにバネのついた重い車体にします。そのため6頭立てになります。こんど作った駐屯地は馬車の中継基地で、馬車馬を替えます。安全のためにマリシナ兵士を常駐させるつもりでございます。」
「確かにな。邪馬大国は広い。辺りは草原で、耕作地はなく無人だ。守りは町を中心にした点にならざるをえない。それが線になるのだな。」
「左様にございます。この辻堂町からは東に進めば邪馬台国の首都で、南は朱雀国(すざくこく)、北は蓬莱国(ほうらい)国に至るそうです。それらの国々にも駅馬車を通すつもりです。途中にはマリシナ軍が常駐する中継基地ができることになります。もちろん、駅馬車は信貴国にも福竜国にも行くことになります。」
「この辺りの国が信貴国の属国となればそれは容易だろうな。」
「ふふふっ、それはそうですね。」
「まあ、そう言うな。マリア殿なら信貴国が属国にしようがしまいが駅馬車業を強引に開くことができることは分かっている。だがそれではちょっと都合(つごう)が悪いのだ。マリア殿の駅馬車が開かれたら、その国は独立した国になってしまう。そんな国を信貴軍が攻めたらその国はマリシナ軍を雇うかもしれない。マリシナ軍に勝てるとは思えんからな。できれば属国にした国で駅馬車業を開いてくれないか。」
「当面は信貴国、豪雷国、長岡国、大原国、辻堂町で開通させようと思います。」
「マリシナ国は入らないのか。」
「山街道のマリシナ国には中継基地を設(もう)けようと思います。」
「ふふっ、了解した。・・・ところで駅馬車には馬がいるだろう。敵の輜重隊の馬車馬が100頭ほどいるのだが、買わんか。馬の世話が少し重荷でな。」
「馬喰(ばくろう)殿様になりましたか。如何程(いかほど)ですか。」
「うむ。信貴国での相場は軍馬25両、馬車馬10両だ。100頭1000両(1億円)でどうだ。」
「宜しゅうございます。この町の相場より少しお高いようですね。駐屯地まで運んでいただけるのなら買いましょう。」
「よし、売買成立じゃな。ふふふっ儲かった。」
「鳶高様はここに居座るおつもりですか。」
「暫くな。まだ基地ができておらんから動けない。ここは要所だからしっかり押さえておかなくてはならん。邪馬台国の兵力は未だ分からんが、騎馬隊10000と歩兵6000の全滅は少しは痛手だろう。もっと大きな痛手は属国の信頼低下だな。邪馬台国は8ヵ国を属国としておる。長岡国と大原国を含めて8ヵ国だ。長岡は信貴国に入ったし、大原国はこちらに入るだろうから『だった』と言うべきだな。残りの属国6ヵ国の目の前で邪馬台国軍6000が短時間で全滅された。それを見て属国は逃げ出したわけだが、それを邪馬台国が咎(とが)めて罰を与えることができるかどうかが問題だな。属国6ヵ国は揃(そろ)って反抗するかもしれん。」
「今頃、属国は必死になって信貴国の属国制度を調べているでしょうね。」
「善政は敷いておくべきだな。ふふふっ。」
「まあっ、しょってますね、鳶高様。」
「そんなこんなもあってな、暫(しばら)くここに居座る。」
「了解。駅馬車を作りましょう。湖畔の国には腕のいい馬車造りがおります。すぐにできるでしょう。町外れには仮の終着駅を作ります。」
「見させてもらおう。」
マリアは辻堂町の郊外と大原町の城下町の外れ駅馬車の駅を建てた。
信貴国、豪雷国、長岡国の駅は人力車があるマリア陸送にした。
駅馬車の乗客とすれば降りた場所から人力車に乗れれば便利だ。
どこの駅も10頭ほどの替え馬が必要だったが、それは近くの厩(うまや)で飼えばよかった。
駅馬車は福竜、五月雨、石倉、大石、白雲、薩埵、信貴、豪雷、長岡の人力車職人に案を示し競わせて造らした。
100両(1000万円)を渡し、期日内に造らせた。
駅馬車要件は1、乗り心地が良いこと、2、丈夫なこと、3、御者と護衛は雨に濡れないこと、4、多少の荷物を積むことができることだった。
また、最も良くできた馬車には600両、次点は300両、3席は100両を与えるとした。
マリシナ国はお金持ちなのだ。
金鉱からできる金貨は世に流通させなければならない。
意匠を凝らした6頭立て用駅馬車が9両出来上がった。
それぞれの駅馬車には「福竜号」、「五月雨号」、「石倉号」、「大石号」、「白雲号」、「薩埵号」、「信貴号」、「豪雷号」、「長岡号」と名付けられ車体にその名前が記された。
駅馬車の御者と護衛は赤色服を着たマリシナ軍兵士が乗った。
二人の体重は600㎏になるのでバネに載った車体は十分な重さになり乗り心地は良くなった。
緩衝バネの構造は馬車ごとに異なっていた。
曲げた板バネ構造もあったし、コイルバネもあったし、両方を付けた馬車もあった。
実際に馬車が使われるようになれば良い馬車は残り、悪い馬車は消え去ることになる。
ちなみに、600両の賞金を獲得したのは「白雲号」で、300両貰ったのは「五月雨号」、100両受け取ったのは「信貴号」だった。
ある晴れた日、6頭立て駅馬車9台が辻堂町を走った。
着飾った娘が馬車に乗り笑顔を振りまいた。
各馬車には馬車の名称が記された旗が立てられ、窓には「信貴 ー 辻堂」と記された看板が吊るされていた。
町にいた信貴鳶高は竜騎兵を使って馬車群を止めさせ、先頭車の御者席に乗っていたマリアを見上げて言った。
「これが駅馬車か。6頭立てともなると壮観だな。」
「ようやく準備ができました。鳶高様。今日は宣伝走行でございます。」
「全部の馬車が違う形だな。どうしてじゃ。」
「各国の人力車を作る匠(たくみ)に競わせて造らせました。屋根の上にある旗の名前が作った国を表しております。この馬車は白雲国での馬車で『白雲号』です。」
「信貴のもあるようだな。」
「信貴は第3位で、賞金は100両でした。」
「御者と護衛はマリシナ兵か。」
「左様です。ですが兵士ほどの武器は持っておりません。連発銃と爆裂弾と脇差が武器でございます。」
「車高が高いな。御者も護衛も顔しか見えん。それに馬車も丈夫そうだ。」
「防御のためもあります。馬車の板には薄い鉄板が挟まれてあります。弓矢はもちろん鉄砲弾も通りません。」
「まるで戦車だな。」
「そこまではいきません。馬に革鎧を被せればそれに近くなりますが、馬は馬車馬ですから。・・・車輪を覆えば何とかなりますかね。」
「信貴ー辻堂と書かれてあるが信貴まではどれくらいで行けるのだ。」
「朝、ここを出発すれば夕方には信貴城下に到着できます。料金はまだ決めておりません。」
「それでは早馬より早いではないか。」
「高速駅馬車ですから。」
「信貴から官吏を呼ぶのに丁度いいな。安全にその日のうちに到着できる。」
「ご利用をお待ちしております。」
高速駅馬車は大原国に向かった。
途中のマリシナ軍の駐屯地で馬車馬を替えた。
マリアにとって大原城下は通過しただけの街だった。
町をゆっくり宣伝走行させていると町役人が両手を広げて馬車列を止めて言った。
「待て、待てい。これは何じゃ。」
マリアが御者台の上から役人を見下ろして言った。
「お役人様ですね。この馬車はマリア陸送の高速駅馬車でございます。今日は宣伝走行です。朝方、辻堂町で走行してきました。このあと長岡、豪雷、信貴の城下での宣伝走行をする予定です。高速駅馬車は辻堂町から信貴城下を1日で走ります。大原城下での乗降場所は町外れにあるマリア陸送の大原駅でございます。」
「マリア陸送の高速駅馬車か。最近できた多数の馬を飼っている店だな。」
「左様にございます。馬車馬は速歩か駆足で走りますから駅毎での馬の交替が必要です。」
「分かった。街中ではゆっくり安全に走れ。」
「了解しました。」
「ところで朝方、辻堂で走ったと言ったな。信貴軍はどうなっているのか知っておるか。」
「知っております。」
「教えてくれんか。」
「辻堂郊外に駐屯地を造りました。」
「信貴軍は邪馬台国軍に勝ったのか。」
「お役人様、知りたいお気持ちは良く分かります。でもマリア陸送は情報活動は致しません。どうなったかは駐屯地を作ったことからご推察ください。高速馬車に乗って辻堂の町で聞くのも良い方法だと思います。」
「むむっ、分かった。」
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