第81話 81、連合軍との戦い 

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 翌朝、宿の前を多数の兵士たちが通り過ぎて行った。

行き先は大原国の方向だった。

マリアが窓から眺めても兵列はずっと先にもずっと後にも続いていた。

指揮官は馬に乗っていたが、歩兵が主体の軍隊だった。

歩兵の後からは輜重隊の荷車が延々と続いた。

 マリア達は軍隊が見えなくなると宿を出立し、軍隊とは反対方向に向かった。

街道沿いの人家がなくなると街道を外れ、木立の陰から大空に上昇し、町を大きく迂回して大原国の方向に向かった。

高空から邪馬台国軍を見、信貴国軍を見、そしてマリシナ軍を見た。

マリア達はマリシナ軍の後方に下り、マリシナ軍に加わった。

 信貴軍近くの5000頭の軍馬は居なくなっており輜重の荷車は増えていた。

信貴国から新たな輜重隊が到着し、その輜重隊は軍馬を信貴国に運んで行ったのだ。

マリアは1300のマリシナ軍を街道から見晴らしのいい丘の頂(いただき)に移動させた。

マリシナ兵士は米を炊(た)かなくても食べることができるので水を必要としなかった。

 信貴国軍は臨戦態勢を取っていた。

盾を周囲に立てた荷車を街道の幅いっぱいに4列に並べ、その前方に2000の鉄砲隊を3段で鏃(やじり)の形に配置している。

鋒矢(ほうし)の陣だ。

竜騎兵400は鏃の両端に200騎ずつ配置された。

信貴鳶高は100騎の竜騎兵と共に中央にいるらしい。

形的には弓矢の矢で、鏃(やじり)が鉄砲隊、矢柄(やがら)が輜重隊になる。

 邪馬大国軍は信貴国軍から2㎞ほど離れており布陣の最中だった。

およそ1000人単位の軍勢が12群、街道を中心に横に広がっている。

横1列に並んでいるわけではなく、前、後、前、後とジグザグに軍団を配置しているようだった。

 それぞれの軍団は長槍隊、弓隊、短槍隊、騎馬隊から構成されており、軍団一つが小国における軍の構成となっていた。

また、軍団ごとの兵士の軍服は統一されておらず、各軍団の旗指物(はたさしもの)の模様も違っていた。

どうやら、属国の軍団は前列に並び、邪馬大国軍は後列に並んでいるようだった。

尤も損害が出る先陣を属国の軍にさせ、属国の兵士が退却するのを邪馬台国軍が見張っているという構図だ。

 信貴国軍2500が蜂矢の陣を敷いたので、邪馬台国軍12000は横一列から端の軍勢が前進し、鶴翼の配置に移って行った。

尤(もっと)も、信貴軍の左手後方の丘の頂上にはマリシナ軍の黒い軍団1300が見えたので、信貴国軍左前方の敵軍は挟み撃ちを恐れてかあまり前進しなかった。

 信貴国軍はゆっくり前進を始めた。

信貴鳶高は敵軍の構成が属国と宗主国の混成軍団だと見破ったのだろう、最初の鉄砲の斉射ではジグザグに並んでいる正面敵軍の後方の軍勢に向かって射撃した。

2000発の斉射は壮観だった。

戦場に大音響が鳴り響き、正面敵の1000人軍の兵士と馬の半数が倒れた。

10秒後の2000発の斉射で邪馬台国の軍団の一つが壊滅した。

 次の2000発の斉射は10秒後、正面斜め右後方の邪馬台国軍に向けてなされた。

其の1000人軍団も4000発の斉射で壊滅した。

次の斉射は正面斜め左後方の邪馬台国軍に対してなされた。

その1000人軍団も4000発の斉射で壊滅した。

2分余りの、戦闘とは言えない戦いで邪馬台国軍の3軍団3000人が壊滅した。

 戦線の前方に出ていた属国の軍団は前進を止めた。

自分たちの斜め後方にいた邪馬台国軍の兵士も馬もあっという間に倒されてしまった。

兵士は後ろに吹っ飛び、盾は破壊されその後ろの兵士を倒していった。

馬は倒され、弓隊も槍隊も関係なく倒されていった。

敵が前方の自分達ではなく後方の邪馬台国軍を狙っているのは明らかだった。

まだ矢も届かない距離からの攻撃で、しかも盾も役に立たなかったのだ。

敵の兵器が自分たちに向けられたら皆殺しになるのは明らかだった。

 信貴軍の次の攻撃は左右の敵に対して行われた。

左右1000丁ずつの鉄砲が属国の軍ではなく邪馬台国軍に対してなされた。

邪馬台国軍5軍団が壊滅すると属国軍は戦意を失ったようだ。

信貴国軍がゆっくり前進を始めると最初は正面の属国軍が後退し、それに触発されるように左右の属国軍が後退し、退却の波は伝搬し次々と退却していった。

もう後ろにいる邪馬台国軍を気にすることもなかった。

邪馬台国軍と争えば生き残ることができるかもしれないが、信貴国軍と戦えば必ず殺されるのだ。

 残った邪馬大国軍1000人大隊は混乱した。

味方の属国軍は次々と退却していく。

邪馬台国軍の5大隊は壊滅した。

しかも自分たちは鶴翼の陣形の最先端にいる。

完全に孤立してしまったのだ。

 そんな邪馬大国軍に信貴国軍の竜騎兵400騎が襲いかかった。

それを迎え撃つように邪馬台国軍から騎馬隊100騎が飛び出して来た。

竜騎兵はそれに対して突撃しないで騎馬を止め、銃剣付き長銃400丁で馬を撃った。

馬は倒れ、馬上の騎手は放り出された。

馬のない騎馬隊は歩兵と同じだ。

竜騎兵はゆっくりと次弾を長銃に装填し、戦線を整えて敵に向かってゆっくり接近し、地上にいる騎兵100人を撃ち殺した。

 竜騎兵は弓隊や槍隊に対しては接近しなかった。

長い戦線を形成し、大きく周囲を回りながら同士討ちをしないように長銃を撃った。

敵は逃げ出すこともできなかった。

徒歩では馬の囲みを突破することはできない。

立っている兵士の数は次第に減り、そして全員が倒れた。

竜騎兵400騎は生死確認を行わずに本隊に戻った。

 信貴鳶高は軍を直ちに前進させた。

騎馬隊を先行させ、敵輜重隊の敗走を追撃させた。

敵輜重隊は混乱していた。

後退してきた属国兵士6ヵ国6000人が輜重隊に加わったからだった。

 輜重隊(しちょうたい)は7ヵ国の輜重隊から構成されていた。

邪馬大国と属国6ヵ国だった。

先頭が邪馬台国の輜重隊で、属国の輜重隊はそれに続いていた。

後退して来た無傷の属国軍兵士は自国の輜重隊も後退させようとした。

そこでは順番は守られなかった。

最後尾から順に後退すれば問題は少なかっただろうが、そうはならなかった。

全体を指揮する指揮官が居なかったからだ。

6ヵ国の騎馬隊、歩兵、輜重隊兵が入り乱れ混乱した。

 信貴国軍の騎馬隊が鉄砲を撃ちながら接近して来ると、最初に最も近い邪馬大国軍の輜重隊兵士は荷車を捨てて逃走した。

守ってくれるはずの自国兵士が居なかったからだ。

それが後方での混乱に輪をかけた。

 信貴国騎馬隊は前方の混乱を見て突撃することは止めた。

乱戦になることを避けたのだ。

混乱しているとはいえ、相手の数は6000以上だ。

そんな中に400の騎馬隊が入っていくのは得策ではない。

2000の鉄砲隊が近づくのを待てば相手は自然と四散する。

騎馬隊400は街道の両側に1列に展開した。

 信貴国鉄砲隊2000は輜重馬車と共に街道を進軍した。

信貴国鉄砲隊が敵輜重隊の300m手前まで進軍すると敵軍は荷車を放棄して四散逃走した。

自国の輜重隊兵士を連れて街道を外れ、近くの丘を目指した。

右の丘を目指したのが2国の2大隊2000、左の丘を目指したのが3国、3大隊3000だった。

輜重隊の一番後ろに居た国は自国の輜重隊を引き連れて街道を後退した。

邪馬大国の輜重隊兵は既に街道のずっと先を逃走していた。

 信貴軍は敵輜重隊の荷車に到着すると荷車を街道外に移動させ、諸所に集め、馬車馬を外してから馬車に火を着けた。

軍隊は食糧なくして戦うことはできない。

丘の上の敵軍5大隊は馬車が燃えるのを見ると町の方向に進軍を開始した。

幸い、半日の距離に味方の町がある。

草原を暫く進んだら街道に戻ればいい。

信貴軍は輜重隊を連れて進んでいるから追いつかない。

 信貴鳶高はそれを見てほくそ笑(え)んだ。

邪馬台国の属国を痛めつけるつもりはなかった。

邪馬台国の属国は信貴国の属国にするつもりだった。

多数の馬車馬を引き連れて信貴国軍は軍を進めた。

 信貴鳶高は町に竜騎兵2小隊20騎を偵察として派遣した。

竜騎兵は銃剣付き長銃を構え、注意深く町の通りを行き来した。

町にはどこの軍勢も残っていなかった。

町の住民も反抗的な行動を取らなかった。

 町の住民は多数の兵士が町を通り過ぎて自国に敗走して行ったことを知っていた。

南の朱雀(すざく)の方向に行った軍勢もあったし、北の蓬莱(ほうらい)に向かった軍勢もあったし、邪馬台国の首都の方向に向かった軍勢もあった。

要するにそれらの軍勢は負けたのであり、敵は強かったということだった。

 信貴鳶高は大原国側の町外れに軍勢を駐屯させ、町の制圧を始めた。

町にある邪馬台国の役所を占拠し、町から出る街道に関所を設けた。

信貴国に伝令を送り、役人と軍勢2000を呼び寄せた。

軍勢2000は槍隊、弓隊、騎馬隊、そして100人の鉄砲隊から構成されていた。

小国の軍勢と同じ規模だった。

信貴鳶高は十分な金を出し、駐留地に急遽(きゅうきょ)、兵舎を建設させた。

二つの街道が交差するこの町を信貴軍の駐留地にするつもりだった。

 マリアはマリシナ軍を小川が流れている広い場所に移動した。

そこは信貴軍が駐屯した場所だった。

マリアはその地を駅馬車の中継基地にしようと思っていた。

街道の諸所に中継基地を作り、そこにはマリシナ軍が駐留するという構想だった。

マリアは兵士を豪雷国に派遣し、十分な金を出して安い製材を大量に購入し、駐屯地に兵舎を建設した。

 兵舎建設は兵士が行った。

兵士は力が強く空中も浮遊できるので建設は容易だった。

休みなく、終日働いた。

駐留基地は方形で、周囲に高い丸太の塀を囲(めぐ)らせ、4隅には監視用の櫓(やぐら)も建てた。

短期間に街道沿いに大きな駐留基地ができた。

信貴軍が町に作った駐留基地よりも早く完成し、大きさも大きかった。

 マリアが行った駐留基地の建設はハイエナ行為だった。

信貴軍が邪馬大国軍12000を打ち破って邪馬台国の支配力が及ばなくなった空白の土地に強力な軍隊を擁(よう)する基地を建設したのだ。

信貴鳶高としてはいい気分のものではない。

マリアは釈明しなければならなかった。

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