第78話 78、1万対2千5百の戦い
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結局、邪馬大国軍の夜襲はなかった。
信貴鳶高は1日分の食料を準備させ進撃を開始させた。
邪馬台国軍はすぐに現れた。
正面の街道、丘の上、そして後方の街道に騎馬隊が信貴国軍を囲むように現れた。
昨日よりは騎馬隊の厚みが厚くなっていた。
援軍が来たようだった。
その数はおよそ1万ほどだった。
丘の上に陣取る騎馬群と街道に陣取る騎馬群の距離は微妙に違っていた。
突撃した時に同時に信貴軍に到達するようにしているのだろう。
邪馬台国軍は数に勝(まさ)っており、白兵戦を仕掛けるように見えた。
信貴軍2500と邪馬大軍10000だ。
乱戦になれば数の多い方が勝つ。
騎馬の技量も自信があるのだろう。
信貴軍は輜重隊の荷車を4列に並べ、輜重隊兵500は荷車に乗って予備の鉄砲を構えた。
腕は鉄砲隊兵士より劣っているが、狙って数を撃てば当たるものだ。
鉄砲隊は荷車に背を接し身を下げた。
信貴軍の戦線はおよそ300mになった。
信貴軍鉄砲隊は乱戦を望まなかった。
乱戦になりそうになったら荷車と荷車の間から鉄砲を撃つつもりだった。
後退はあり得なかった。
周囲は囲まれている。
負ければ死だ。
遠くでドラの音が聞こえ、それに応呼して色々な方向からドラの音が聞こえた。
邪馬大国軍10000は一斉に突撃を開始した。
距離はおよそ500m。
速度は襲歩で80㎞(毎秒22m)。
100mを4.5秒で進む。
敵の数が多かったので信貴軍は敵が300mに近づいた時に発砲した。
馬を撃てば良かった。
1秒ごとの3秒で鉄砲隊と竜騎兵、合わせて2500の鉄砲が発射され、2秒の間をおいて再び2500発が発砲された。
多くの馬が倒れ、4000騎ほどが倒れた。
敵騎6000は200mにまで近づいて来ていた。
敵が100mにまで近づく次の5秒間で鉄砲隊と竜騎兵隊は5000発の銃弾を敵に浴びせた。
敵騎馬隊の4500騎ほどが倒れ、残りは1500騎になった。
邪馬台国の騎馬隊に囲まれている信貴軍の戦線は300mの2倍の600mだ。
敵の包囲網はまだ2騎から3騎がいる厚みがあった。
「鉄砲隊。荷車の下にもぐれ。あとは個別射撃。」との命令が発せられた。
鉄砲隊兵は3秒で荷車の下に移動し、銃を構えた。
その時には眼前の敵は荷車の横にまで到着していた。
邪馬大国騎馬隊の武器は短弓と長槍だ。
弓は離れた敵を打ち、長槍は走りながら突き刺す。
敵歩兵(鉄砲隊)と乱戦になれば勝算がある。
荷車に達した邪馬大国騎馬隊は白兵戦の相手が荷車の下に潜って居なくなっており、4台の荷車は飛び越すことができず、たとえ飛び越えてもそれは反対側の味方に加わるだけだ。
長槍でも短弓でも馬の上から荷車の下の歩兵を殺すことはできない。
騎馬隊は荷車が邪魔になって馬を止めた。
鉄砲隊は荷車の下から近くの騎馬を狙い撃ちした。
後装式の鉄砲は狭い空間でも弾を装填できる。
2000の鉄砲隊が3発ほどの射撃を終えると眼前から立っている騎馬兵は居なくなった。
竜騎兵の場合、同じように敵騎馬隊は数を減らしながらも竜騎兵に接近できた。
竜騎兵に突撃した騎馬隊の武器は短弓ではなく長槍だった。
重騎兵に弓は通じない。
長い矛(ほこ)を持った敵兵もいた。
竜騎兵は敵が接近するとその場で待つことはせず眼前の敵に突撃した。
長銃を発射し、短銃を発射し、もう一回短銃を発射してから戦場を駆け抜け、銃に弾を装填してから再び戦場に突撃した。
結局400の竜騎兵が5発の弾を撃った段階で近くの敵は居なくなった。
手傷を負った竜騎兵は居たが死人はなかった。
結局、5分間ほどの戦いで邪馬台国軍10000の騎馬隊は壊滅した。
「少し危なかったな。これからは4台の荷車は2台ずつにして間を開けた方がいいかな。・・・だが2台では飛び越されてしまうな。ふうむ。」
信貴鳶高は呟(つぶや)いた。
敵兵の生死確認は今度も竜騎兵が行った。
400騎の竜騎兵が左右300mに亘って1列に並び、10000の死体をゆっくり確認してゆく。
馬で踏みつけても声を出さなければ死体、うめき声を出したら銃剣で刺し殺した。
倒れていた馬はそのままにした。
無傷の軍馬は捕獲した。
信貴国軍は5000頭ほどの軍馬を得た。
信貴鳶高はため息をついた。
軍馬は高価で1頭25両(250万円)以上で売れる。
5000頭なら125000両(125億円)だ。
信貴国に持っていけば5000の重騎兵ができることになる。
臆病な馬を戦闘できる馬に調教することは難しい。
銃剣長銃と短銃で武装する竜騎兵にとって武術の技量はそれほど問題にされない。
戦場で動くことができる馬が一番重要なのだ。
5000頭の軍馬をこのまま放置するのは勿体無いし、5000頭の世話をするのは大変だ。
250台の輜重隊荷車の後ろに20頭を繋(つな)げば軍と共に運べないことはないが、それでは戦闘時に素早い移動が不可能になる。
信貴鳶高は軍隊の後ろからつけているマリアに相談することにした。
信貴鳶高は100騎の竜騎兵を連れて500m後方のマリアのところに行き、馬を下り、マリアに言った。
「どうだった。マリア殿。」
「お見事でございました。輜重隊の荷車を上手に使いましたね。」
「まあ、幸運だった。敵が10000だったから何とか全滅することができた。敵が20000だったら2500対10000の白兵戦になってこっちが全滅するところだった。」
「そうですね。鉄砲の威力を知った敵は次は油と火矢で荷車を燃やすかもしれませんね。あるいは歩兵が丈夫な盾を持ってゆっくりと近づいてくるかもしれません。」
「まあ、その時は花火迫撃砲を使うつもりだ。」
「ふふっ、そうですね。武器は進化するものです。」
「マリア殿たちはあっという間に敵の囲みを破ってしまったが、何を使ったのだ。」
「見られてしまいましたか。・・・連発短銃を使いました。」
「連発できる短銃か。何連発なのだ。」
「ふふふっ、興味の虫がでましたね。・・・6連発です。威力も見たいでしょうね。」
「是非とも見せてほしい。」
「まっ、いいでしょう。・・・娘たち、小石を拾って合図で上に投げなさい。大きさは5㎝程度、高さは10mです。」
娘たちは少し苦労して草原から小石を拾い、マリアの「投げろ」の言葉で上に投げた。
マリアはそれを見てから、左手で道中合羽を左に開き、右手で左腰に差してあった銃を引き抜き、連射し、銃を腰に戻した。
空中の10個の小石は頂点付近で6個が飛び散り4個が地上に落ちた。
マリシナ軍の輪動式拳銃は引き金を引くだけで輪動が回転する型(ダブルアクション)だった。
「凄い腕だな、マリア殿。あまりに早くて銃を抜くのが見えなかった。」
「居合抜きと同じ速さです。居合いと違って離れた相手を倒すことができます。」
「見せてくれんか。」
「だめです。マリシナ軍の秘密兵器ですから。」
「分かった、諦(あきら)めよう。だが少し分かった。6発の弾は円筒に入っていて回転して撃つのだな。」
「左様にございます。」
「信貴に帰ったら刀匠に相談しよう。・・・ここに来たのはマリア陸送に頼みがあるからだ。」
「何でございましょうか、鳶高様。」
「軍馬5000頭が捕獲できた。12万両の価値がある。それを信貴国に運んでもらいたい。」
「・・・我らは戦争見物を続けます。運ぶとしたらマリシナ国から兵を呼ばねばなりません。それでは信貴国から兵を呼ぶのと変わりません。信貴国から馬を運ぶための兵士を呼んだ方がいいと思います。弾丸と食料の補給も、それから荷車も必要だと思います。」
「確かにそうだが、鉄砲隊無しで輜重隊をここまで来させるのは危険すぎると思う。補給は欲しいが弓隊や槍隊などの歩兵はいらない。重荷になるだけだ。」
「そしたら輜重隊の護衛をしましょうか。山街道のマリシナ国からここまでの護衛です。輜重隊の兵士は帰りに5000頭の馬を連れて行けばいいと思います。マリシナ国は傭兵の国です。馬子は仕事ではありませんが、護衛は傭兵の仕事に含まれると思います。」
「ふーむ。マリシナ軍がこの地に来ると言うことだな。邪馬大国が輜重隊を襲って逆に全滅したら好都合だし、邪馬大国はマリシナ国の敵になるわけか。・・・マリア殿、輜重隊護衛の料金は如何程じゃな。」
「ふふっ、そうですね。人の命は100両でしたが馬は1両としましょうか。5000頭の馬の命を守るための馬子兵の護衛をするわけです。鳶高様、護衛の料金は5000両でございます。」
「了解、護衛を頼む。料金は先払いにしよう。ワシが負けたら取りっぱぐれになるからな。山街道のマリシナ国で先払いする。」
「宜しゅうございます。それでは早急に伝令を遣(つか)わしください。私も連絡しておきます。」
「馬はいらんか。」
「不要です、鳶高様。」
「伝令を出したら我らは宿営できる場所まで進む。ここは寝心地が悪いからな。馬はそこまで運んでおく。」
「了解。」
信貴鳶高は馬に乗って自陣に戻って行った。
「どうじゃ、隊長、其方(そち)は投げた小石を短銃で当てることができるのか。」
鳶高は途中で後ろの騎馬隊隊長に言った。
「当たることはあるかもしれませんが、6回続けて当てることは難しいと存じます。」
「あの娘たちは短銃でも達人なんだな。」
「そう思います。それに発射音は我々の短銃よりもずっと大きな音でした。相当強力な銃だと思います。」
「マリシナ国はいつも一歩先を行ってるな。」
信貴鳶高は伝令として竜騎兵1小隊10騎を派遣した。
竜騎兵は馬から装甲を外し、自分の鎧も取り、軽装で出発した。
マリアは人影がなくなると伝令を派遣させた。
娘は空を飛んで消えた。
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