第77話 77、邪馬大国軍との接触 

<< 77、邪馬大国軍との接触 >> 

 邪馬大国は大原国と同じような草原の国であったが、そこに生えている草は大原国のような背の高い草ではなく背の低い草だった。

草原に兵を潜ませることができず、遠くまで見通せた。

地形は大小の丘から成っており、丘に兵を忍ばせることができた。

街道は丘の裾(すそ)に沿って通っており、先は見通せなかった。

 「何ともいやらしい地形だな。」

信貴鳶高は呟(つぶや)いた。

信貴鳶高は先の丘の頂上毎に竜騎兵の1小隊10騎を登らせながら軍をゆっくり進めた。

竜騎兵は先行して丘に登り、味方軍勢が通り過ぎると輜重隊の最後部に下(くだ)ってから部隊に戻った。

輜重隊のさらに後ろには後を付けている股旅姿のマリア達が見えた。

竜騎兵はそれを見て何となく安心感を持った。

 2時間ほど進むと果たして邪馬大国の軍勢が現れた。

丘の陰に潜んでいたのだ。

丘の上の竜騎兵は一つ先の丘上に一列に並んだ騎馬が現れ、丘を駆け下って来るのを見つけた。

竜騎兵は丘を駆け降り軍勢出現を伝えた。

 信貴鳶高は直ちに鉄砲隊を輜重隊の位置まで後退させた。

相手は馬術に長けた騎馬兵だ。

しかも敵は散兵戦線を作っている。

軍勢が囲まれるのは目に見えていた。

 鉄砲隊は輜重隊の両側面20mに1000人、3列の陣を敷いた。

前後はそれぞれ200の竜騎兵が鉄砲隊に両側を挟まれて陣取った。

要するに輜重隊を中心に密集隊形を取ったのだ。

輜重隊はその進行を止めなかった。

速度は以前より遅かったが前進を止めなかった。

無傷で軍隊が進み、邪馬大国の城まで到着すれば戦闘は市街戦になる。

止まったら囲まれたまま夜になって敵に夜襲される。

 邪馬大国軍は信貴国軍が止まらなかったので攻撃をかけてきた。

左側真横から一線になって突撃し、敵の直前で右に方向を変え、斜め前の敵だけを短弓で射るのだ。

敵は横に進む正面の敵を射るので側方はガラ空きになる。

人の革鎧(かわよろい)に弓矢は通らない。

馬の革垂(かわだ)れも弓矢は通らない。

長槍の中に入っていかない限り馬も人もやられることはない。

何よりも馬の突進に歩兵は恐れを抱く。

 信貴軍は敵が突撃してきたので止まり、迎撃体勢を取った。

敵の数はおよそ1000。

距離はおよそ300mだった。

襲歩で駆けてくるから時速80㎞。

13秒で到達する。

 信貴軍は敵が200mに達した時に鉄砲を斉射した。

200mの距離は9秒で到達できる距離だ。

1秒ごとに333発が発射され、9秒間、3000発が発射された。

鉄砲隊に近づけた騎馬兵は居なかった。

全ての馬は倒され、落馬して立ち上がっている兵は個別の射撃で倒された。

全滅だった。

輜重隊の反対側にいた鉄砲隊1000は動かず1発も撃たなかった。

 後方の竜騎兵200が敵の生死確認をした。

馬で踏みつけ、うめき声を出したら銃剣で突き刺した。

捕虜は居なかったし、重傷者は進軍に重荷だった。

生死確認が終わると信貴軍は元のように竜騎兵、鉄砲隊、輜重隊の順になって進行した。

 しばらく進むと街道の前方に邪馬大国の軍勢が待っていた。

最前線は街道の両側の二つの丘の上にまで延びていた。

街道に陣取る軍は長槍隊と弓隊で、そこから伸びる戦線は短弓を持つ騎馬隊で構成されていた。

 長槍隊と弓隊はおよそ500、騎馬隊は1000という数だった。

信貴軍が前進を止めると両側の丘の上にも敵軍が現れた。

騎馬隊で、その数は片方1000で合わせて2000。

信貴軍は3500の敵に三方から囲まれた。

 信貴鳶高は前と同じように輜重隊を両側から挟むように布陣させ、前後を竜騎兵に守らせた。

丘の上の邪馬大国騎馬隊は突撃せず、戦線を伸長し、信貴軍後部に大きく回り込んで行った。

信貴軍輜重隊後方300mに後をつけていたマリア達は困った立場になった。

邪馬大国騎馬隊に遠回りに囲まれてしまったのだ。

 「囲まれてしまったわね。まあしょうがないか。」

マリアは呟いた。

「娘達、戦うわよ。辺りに石はない。拳銃を出しなさい。後方の騎馬隊を突破します。空を飛んではいけません。地上を走って戦線を突破し、包囲の外に出ます。」

「はい、マリア姉さん。」

 マリア達は後方に突撃した。

全力で大地を蹴って走った。

その速さは馬の襲歩よりも早かった。

数秒で戦線に近づき拳銃を撃ちながら突っ走った。

マリア達が包囲の外に出るとマリア達が通った街道に動くものはなかった。

 娘達が使った拳銃は6連発回転式拳銃で両手に拳銃を持っていた。

一人が12発、11人で132発だった。

常人が撃てないほどの強力な拳銃で馬の首を貫き、背後の騎手をも貫いた。

鉛銃弾には鉛の先が割れないように鉄のキャップが埋められていたのだ。

 戦線を突破したマリア達を邪馬大国軍は追わなかった。

あっという間に100人ほどの騎馬兵が11人の娘達によって殺されたからだった。

それにすでに包囲網の外300mにいた。

馬よりも早く動いたのだ。

邪馬大国軍は街道の死体を残して再び信貴軍を包囲した。

 信貴軍は応戦体勢を取り終えるとゆっくりと前進した。

包囲されても気にしていないようだった。

邪馬大国軍は信貴国軍が早い動きを見せなかったので包囲を次第に狭く厚くしていった。

邪馬大国軍の弓隊と長槍隊との距離が200mになると竜騎兵200騎の銃剣付き長銃が一斉に発射された。

100人余りの敵兵が倒れた。

10秒後に再び発射され100人余りの敵兵が倒れた。

10秒後に再度斉射され100人ほどが倒れた。

最初の斉射で周りの兵士が倒れたので生き延びた兵は盾に隠れたのだが銃弾は盾を貫き後ろの兵士を倒した。

 槍隊と弓隊は混乱した。

弓が狙えない距離から轟音を発して何かが飛んできて兵士を倒していく。

盾に隠れても役に立たない。

敵の必殺の武器に対して隠れ場もなく身を晒(さら)しているのだ。

一人の兵士が逃げ出すと他の者も一斉に逃げ出した。

逃げ出した兵士は100人に満たなかった。

 竜騎兵は長槍隊弓隊の両横に延びて展開していた騎馬隊に対しても発砲した。

騎手を狙う必要はなかった。

的の大きな馬を狙えば良かった。

馬のない騎手は続いてくる鉄砲隊の狙われやすい的になる。

狙われた騎馬隊は戦線を解いて丘に駆け上った。

 竜騎兵はそれを追わず、前進し、長槍弓隊の生死確認をした。

生き残りを殺し、馬から下り、死体を道の外に引きずって並べた。

邪馬大国軍の作戦は失敗し、信貴国軍の前方の敵は居なくなった。

邪馬大国の軍3000は襲って来なかった。

作戦の再構築を必要としたのだ。

 邪馬大国は広い国だった。

土地が痩せており、人々は小さな集落を作って生活していた。

邪馬大国がそれらの集落を併合し広大な国を作った。

面積が大きいことは外敵からの防衛にも役立った。

敵は首都に来るまでに時間がかかった。

必ず邪馬大国内で宿営をしなければならなかった。

 輜重隊を含めた3000人余りの人馬を宿営させることは大変なことだ。

ましてや敵国内での野営だ。

夜襲も想定しなければならない。

しかも敵が信貴軍を遠巻きに包囲している状況で、相手は騎馬兵で接近時間は短い。

包囲している方は休めるが包囲されている方は休めない。

 信貴鳶高は夕刻にまでは間があったが、小川が流れている比較的広い場所を宿営地とした。

輜重隊の荷車を人間10人が並ぶことができる間隔を取って横に一列に並べ、荷車の車輪の下に石を敷いて車高を高くし、荷車の四隅に竿を立てて固定し、竿の先端に横竹を固定し、長い布を横竹の上を通して張った。

荷車を丈夫な柱とした長い天幕が出来上がった。

天幕は上からの矢を防ぐことができる。

そんな天幕が5列でき、長さは50mになった。

 荷車の長さは4mだから荷車1台当たり20人の兵士が夜露を凌(しの)げ、横になることができる。(雨の時は惨めだが)

100台の荷車では2000人が休める。

馬は5頭を入れることができたので100台の荷車では500頭の馬を休ませることができる。

 信貴軍の輜重隊は250台の荷車から構成されていた。

500人の輜重隊兵士と250頭の荷馬だ。

全軍3000人と500頭の馬は250台の荷車があれば夜露を防げるはずだった。

輜重隊の兵士は荷車の下で眠り、荷車を引く馬は野宿させればいい。

 通常、宿営地は広い方がいい。

夜襲を受けても損害は少なく、全体が襲われることがないからだ。

周囲を防塁で囲み諸所に見張りの歩兵を配置する。

 だが信貴鳶高は宿営地を縦横250m200mの矩形とし、人馬は中央に密集させた。

中央に輜重隊の荷車250台が矩形に並び、その周囲50mは何もない空間で、外周を竜騎兵100騎がゆっくり周回して見張った。

宿営地の外周はおよそ1000mだから竜騎兵は10m間隔でゆっくり周回することになる。

100騎の竜騎兵は2時間ごとに交代する。

500人の竜騎兵では10時間の見張りを続けることができ、8時間の休息時間を取ることできる。

 竜騎兵は重装騎兵だ。

馬は脚と目と口鼻を除いて弓矢が通らない布で覆われている。

騎手は鎧を着ているし、左手には肘には小さな盾を付け手綱を取り、右手には銃剣付き長銃を持つ。

左右の腰には短銃が差されている。

弓矢では顔や手に当たらない限り倒されない。

10m間隔でゆっくり周回している竜騎兵の見張りを歩兵が夜襲して倒すことは難しい。

騎馬で夜襲してもすぐに見つかり、重装騎兵に騎馬の恐怖を与えることもできない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る