第74話 74、長岡城攻め 

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 長岡軍の戦闘部隊はほぼ壊滅した。

1時間にも満たない戦いだった。

竜騎兵は後方の輜重隊に襲い掛かった。

騎馬の速度を利用し、輜重隊の側を短銃を撃ちながら通り過ぎ、再度隊列を整え、弾を込めた。

輜重隊兵士は投降した。

 信貴鳶高は豪雷国の司令官に伝令を送った。

輜重隊の荷車と捕虜を引き取るように要請したのだ。

豪雷国の軍勢はあまりにあっけない味方の勝利に唖然(あぜん)としたが、隊伍を整え、信貴鉄砲隊を通り過ぎ、数千もの死体が延々と横たわる修羅場を通り、輜重隊に達した。

信貴竜騎兵隊は豪雷国軍と入れ替わり鉄砲隊の後ろに引き返して来た。

 「マリア殿、どうだった。」

信貴鳶高は傍(かたわら)のマリアに言った。

「お見事でした、鳶高様。味方の損害は無しですね。」

「やはり鉄砲の威力は凄いな。だがこれは地形に依るところが大きい。今回は平原だから勝てたのだ。山間地ではこうはいかないだろうな。」

「少し時間がかかるでしょうね。」

 「このまま長岡まで軍を進めた方がいいかな。」

「ふふっ、不意打ちを注意しながら進めればいいのではないですか。元々そのおつもりだったでしょうから。」

「マリア殿にはお見通しのようだな。」

「信貴国が多量の米と荷車と集めていたことは報告を受けております。」

「マリア陸送情報部の報告だな。」

「そうかもしれませんね。」

 信貴鳶高は豪雷軍の司令官を含めて軍議を開いた。

「今回はほとんど無傷で勝利を得ることができた。このまま長岡国を制することにする。その準備はできているつもりだ。豪雷軍はそれに協力してほしい。」

「どのような協力をすれば宜(よろ)しいのでしょうか。」

 「囮(おとり)になってほしい。」

「囮ですか。・・・具体的にはどうするのですか。」

「戦わない先鋒になってほしい。我が軍の鉄砲隊は見た通り強い。だが不意打ちには弱いと思う。進軍中に横から騎馬隊の襲撃を受けたら数秒で対応するのは難(むつか)しい。豪雷軍は先鋒となって敵と対峙してほしい。敵と出会ったら適当に戦って輜重隊(しちょうたい)の位置まで退却してほしい。戦わないで退却しても良い。その間に信貴軍は戦う準備ができる。後は信貴軍が敵を打つ。」

「分かり申した。どうやら生贄(いけにえ)にはならないようで安心しました。」

 信貴国豪雷連合軍は街道を通って進撃を開始した。

豪雷軍2000は先頭を進んだ。

騎馬隊100、短槍隊100、長槍隊100、弓隊200が一単位500となり、4単位が進軍した。

もともと長岡国が豪雷国に侵略したのだから豪雷国が反撃するのは当然の事だ。

 信貴国軍2500は豪雷国軍の後に続いた。

2000の鉄砲隊は密集隊形を取り、前後を200の竜騎兵が囲んで進んだ。

信貴鳶高とマリア達は100の竜騎兵に守られ最後尾を進んだ。

「すまんのう、マリア殿。高いところから見下ろして話をしている。疲れんか。」

馬に乗った鳶高が地面を歩いているマリアに声をかけた。

 「お気遣いありがとうございます。疲れはいたしません。周りから見えなくて都合がいいと思います。でも遠くが見える陸の筏船(いかだぶね)のような物もあっていいですね。」

マリアは鳶高を見上げて言った。

「背が高くて頑丈で安全な物ということだな。」

「左様にございます。でも筏船と違って重くなれば取り回しが困難になり結局は馬を使わざるを得なくなります。鉄砲が出たらそれはだめですね。」

「そうか。また聞かせてくれ。・・・それは何と言うのだ。」

「戦車と申します。」

「戦車か。いい響きだ。」

 豪雷、信貴軍団は途中の妨害なしで長岡城下に着いた。

町の人々は通りを通る軍団を見てあわてて物陰に隠れた。

豪雷軍が長岡城の大手門前に到着すると大手門は閉じられていた。

長岡城は平地に建てられた小さな城だった。

城の周りは石垣と堀で囲まれていたが、堀の幅は狭く石垣も高くはなかった。

湖の周りの国の城と同じような規模だった。

 「ようこんな小さな城で他国を攻めようと考えたものだな。」

信貴鳶高はマリアに言った。

「どこかから強(し)いられたのかもしれませんね。」

「まあ、いずれわかるだろう。」

 豪雷国軍2000は500ずつに纏(まと)まって掘りにかかる4つの橋の近くに陣を敷いた。

信貴軍は大手門の前に左右に分かれて陣を敷いた。

鉄砲隊1000と竜騎兵200ずつだった。

いずれも街に伏兵が潜んでいる可能性があるから兵の分散はしなかった。

 信貴鳶高はマリアに言った。

「本来なら信貴城のように城の周りを焼き払ってしまうのが本手であろうが、ここでは周りからの攻撃はないように思う。マリア殿はどう思う。」

「町の人はこちらの軍勢を見てから慌(あわ)てて物陰に隠れました。自然の動きのように見えました。」

 「拙者もそう思った。マリア殿、今回は城攻めがあるだろうと思って準備したものがある。最近開発した。」

「何でしょう。」

「大手門の後ろを攻撃する物だ。マリシナ軍の爆裂弾は作れなかったので打ち上げ花火を使うことにした。導火線の長さを調節すれば地表で爆発させることができる。」

「迫撃砲ですね。」

「迫撃砲と言うのか。まあ、見ていてくれ。」

 鳶高は側近に命じ、輜重隊から1台の荷車を引いて来させた。

鉄砲隊を大手門の左右に配置させ、盾で防がせ、迫撃砲を組み立てた。

迫撃砲は内径が10㎝で長さが1mほどの鉄の筒が木製の架台に乗せられた物だった。

鉄の筒は地面に接した厚い木台に埋め込まれていた。

鉄筒の角度は変えることができるようになっていた。

 準備ができると火薬包みの火薬を鉄筒に入れ、花火玉を入れ、火の点いた導火線を投げ込んだ。

爆音と共に花火玉は斜めに打ち上がり、大手門の内側に落ちて爆発した。

3台の迫撃砲から花火玉が発射され、2個が大手門の内側に落ち、一つは大手門の直前に落ちた。

大手門前に落ちた花火玉からは多数の鉄片や鉛玉が飛び散り、掘りに沿って左右に待機していた鉄砲隊の盾にめり込んだ。

 「うむ、まだ完全と言える物ではない。着地点に少しムラがあってな。」

信貴鳶高は言い訳した。

「でも威力は素晴らしい物です。鉄砲も命中率は重要ですが1発で敵を倒せる威力があるから強いのです。そのうち狙った的(まと)を当てることができるようになります。」

マリアは励(はげ)ました。

その後、花火玉は大手門の内側に落ちるようになった。

 「次はどうなさるのですか、鳶高様。」

マリアが聞いた・

「・・・うむ、投降を呼びかける。」

「おやまあ。」

「そう言うな。今回は本格的な攻城準備はしていなかったのだ。梯子(はしご)も準備してない。」

「夜になったら大手門を開けてやってもいいですよ。」

「いや、申し出はありがたいが、マリア殿の手は借りない。まあ、見ててくれ。」

「了解。」

 信貴鳶高は軍使を出した。

長銃剣の先に白布を付けた竜騎兵が大手門の橋の半ばまで駒を進め大声で言った。

「拙者は信貴国騎馬隊の大隅と申す。長岡城の武士(もののふ)に伝えることがある。代表は出て来られよ。身を守る武器を持って出て来られよ。・・・繰り返す。拙者は信貴国騎馬隊の大隅と申す。長岡城の武士(もののふ)に伝えることがある。代表は出て来られよ。身を守る武器を持って出て来られよ。」

 暫(しばら)くして大手門が開き、馬に乗った武士が出て来た。

大手門はすぐさま閉じた。

馬に乗った武士は前進し、軍使の10m前で止まって言った。

「拙者は長岡城の守備隊の佐竹三之丞と申す。口上を述べられよ。」

「拙者は信貴国軍騎馬隊の大隅雪風と申す。信貴国軍は豪雷国軍の援軍である。同胞、豪雷国が長岡軍に侵略されたので参戦した。・・・豪雷国に侵攻した長岡軍5000は壊滅した。信貴国2500との1時間ほどの戦いだった。信貴軍の戦死者はなく負傷者2人だった。長岡軍は輜重隊の一部を除き全滅した。信貴、豪雷連合軍がこの地に来たのは侵略に対する報復である。大義は我らにある。・・・栄枯盛衰は武家の常(つね)。この度(たび)は長岡に武運なく負けに至った。勧告する。降伏せよ。これが拙者の口上である。」

 「口上は承(うけたまわ)った。検討し返事いたそう。」

「返事を申すのではなく、返事をするとは今後のそちらの行動がその返事であると見てもいいと言うことだな。」

「いかい失礼を申した。検討しその結果をご返事申そう。」

「長岡が援軍を呼ぶ可能性がある。返答の期限を定められよ。」

「二日後のこの時刻にご返事致す。その時は『致す』場合がある。」

「了解した。良い結果になることを期待する。」

大隅雪風は後ろを見せないように馬を後退させ橋の袂(たもと)まで距離を取った。

佐竹三之丞もそれを見て馬を大手門前まで後退させ、反転して門に入った。

 2日間の待機が生じた。

山野の待機よりも街中で待機するのは楽だ。

適当な家を接収して使うことができる。

水はあるし夜露を凌ぐ屋根がある。

接収された家の家人としてはそれは理不尽な行為であるが圧倒的な力の前に泣く泣く従わざるを得ない。

そこではその街の法は存在しない。

 マリアと娘達は股旅姿で街に出かけた。

城の近くは慌(あわただ)しかったが城から離れた街は平常の営みが行われているように見えた。

マリア達は茶店に入り、団子と煎餅を注文し、お茶を飲んだ。

「マリア姉さん、この町でも賭場はあるんでしょうか。」

「あると思うわ。でも今夜開くかどうかは分からないわね。軍隊が来ているから。」

「開くといいですね。」

 「あんたら初めてここに来たんかい。」

新しい茶飲み土瓶を交換しながら店の主人が言った。

「ええ、こっち方面にはこれまで来たことがありやせんでした。」

「何とも悪い時期に来たもんだな。豪雷の軍隊がお城を攻めに来た時とはな。」

「まったくです。あっしらのような渡世人は平和な世の中でしか生きることができやせん。渡世人は平和の象徴ですよ。」

 「なかなか簡単には同意できそうにないが、本当かもしれん。人間、生き死にが関(かか)わっていたら博打なんてしないからな。」

「この街(まち)で賭場が開かれていたらこの街は平和ってことですね。」

「そうかのう。それも簡単には同意できそうもないがな。」

「ヤクザは意地汚いですから賭場は開かれるかもしれませんが、真っ当な客は来ないのかもしれやせんね。」

「それが真っ当な客ってわけだ。」

「ごもっとも。」

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