第70話 70、天守閣での身の上話 

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 二人は歩き始めた。

後ろを股旅姿の娘達が続き、その後を10人の侍が続き、最後を鳶高の馬が続いた。

「して、最初はどこに行くのかな。」

信貴鳶高が言った。

「あてはございません。人力車10台を格納できる空き家か土地を見つけるためでございます。」

「ということは信貴の城下でも人力車業を始めるということだな。」

「左様にございます。豪雷国では人力車が走っており、最近では豪雷と福竜の長距離路線も開始されました。」

 「人力車の乗り心地は良かった。駕籠より視線が高いから気持ちがいい。料金はどれくらいだ。」

「基本的には駕籠の半額です。人数が半分ですから。」

「半額か。それでは人気が出るな。・・・坑夫の10倍賃金といい、駕籠賃の半額とか、マリア殿は奇抜なことを考えるようだな。」

「儲けは確保致します。」

 15分ほど歩き探したが適当な物は見つからなかった。

信貴鳶高が言った。

「マリア殿、こんな探し方では効率が悪い。もっといい方法がある。」

「どうするのですか。」

「町のことは町役人が一番良く知っておる。番屋の町役人に聞いた方が早い。」

「確かにそうですが、理由を根掘り葉掘り説明しなければなりませんでしたので躊躇(ちゅうちょ)しておりました。鳶高様にお願いしても宜しいですか。」

「喜んで引き受けよう。」

 信貴鳶高はマリアを連れて番屋に入って行った。

番屋では上り框(あがりかまち)に腰掛けてお茶を飲んでいた3人の町役人がいた。

役人は高価そうな服装の鳶高と股旅姿のマリアとの急な出現で一瞬戸惑ったが、開けられた引き戸の向こうの家臣達を見て直ぐに鳶高を城主だと認識した。

「鳶高じゃ。聞きたいことがある。」

 3人の役人は湯呑みを床に置いて土間の隅に移動し平伏して言った。

「何でございましょうか、殿様。」

「駕籠屋が開店できるような広い空き家を探しておる。広い倉庫があるような家がいいな。あるいはそんな建物を建てれるだけの広い土地でも良い。心当たりはあるか。」

「はい、番町(ばんちょう)に米問屋だった井筒屋の空き家がございます。井筒屋は新しく店を出しましたので現在は空き家になっております。裏には米を保管していた大きな倉庫がございます。・・・広い土地といえば彦三町(ひこそまち)に広い更地がございます。半年前の火事で6軒の家屋が全焼し現在は更地になっております。お城に近く、人気がある土地のようでございます。それと城下外れの大幡町(おおばたまち)にも広い土地があります。こちらの方は城下の中心から離れて人気がないようでございます。小さい空き家や土地は他にたくさんありますが、広い家や広い土地はその3カ所だけだと思います。」

 「マリア殿、どうかな。」

「どれも良さそうな物件ですね。これから行って決めてしまいましょう。お金に糸目はつけません。マリシナ国はお金持ちですから。ふふふっ。」

「そうするか。・・・これ、其方(そのほう)ワシらをそこに案内してくれんか。」

「はっ、かしこまりました。」

 町役人が腰低く先導し、マリアと鳶高がそれに続き、それぞれの後ろに股旅姿の娘達10人と屈強そうな家臣10人が続き、最後に手綱を引かれた馬が続いて城下町を歩いて行った。

それは異常な行列だった。

 最初に行ったのは番町米問屋だった。

マリアは一目でその家を気に入った。

間口が広く、土間もひろく、広い裏庭と広い倉庫がある家だった。

 「鳶高様、これに決めました。他の場所に行く必要はありません。」

「そうか、それは良かった。ワシがこの家を押さえておいてやろう。他の者が家を買わないようにな。」

「ありがとうございます。お願いいたします。」

「物件が決まったところでどうじゃマリア殿、そこら辺の店に入ってお茶でも飲まんか。少し疲れた。」

「そう致しましょう、鳶高様。今日は少し暑いようですね。」

 二人が入った店はそれほど小さい店ではなかったが、娘達10人と供侍(ともざむらい)10人が入るといっぱいになった。

本来、鳶高だけなら供侍全員が店に入ることや同席することはなかったろうが、娘達10人が店に入ったので供侍も10人が店に入ったようだ。

 「マリア殿。マリア殿は今日はこれから何をする予定だ。」

鳶高は三色団子の最初のピンク色粒を食べながら言った。

「特に予定はございません。物件探しには1日いっぱいを予定しておりました。鳶高様のおかげで早期に適切な建物を見つけることができました。今日のこれからの予定はございません。」

マリアはお茶を飲みながら答えた。

 「そうか。それならワシと話をせんか。本当はマリア殿を城に連れて行って鉄砲隊を見せて自慢したい所だが、何か子供じみておるんでな。自重する。マリア殿にバカにされることが目に見えるようだ。・・・マリア殿にはワシが老いさらばえて死ぬまでの未来を聞かせてほしい。マリア殿は未来が見えるようなのでな。」

「まあ、私にはそんな力はございません。」

「話は何でもいいんだ。マリア殿と話すとこの身がゾクゾクするのだ。」

 マリアはため息を吐(つ)いて言った。

「宜しゅうございます。世間話を致しましょう。場所は天守の最上階がいいですね。今日は爽(さわ)やかな風が吹いております。風が気持ちいいことでしょう。」

「そうか。天守での話は久しぶりだな。早速行こう。」

「お団子と水筒を用意した方がいいですね。」

「そうだな。亭主、団子2人前を土産にしてくれ。水筒は城に着いてから用意できるだろう。」

マリアは娘達の団子代を支払ったが鳶高は財布を持っていなかったので供侍が支払った。

 マリア達は外堀の橋を渡り、大手門を通り、内堀を越え、陸橋を渡り、天守閣への階段を登り、分厚い天守の扉の前に着いた。

供侍の一人が二人に先行し、諸所の関門の門衛に事情を話したので支障なく通過できた。

マリアは娘達に言った。

 「私は鳶高様と最上階で話します。お前達はこの辺りで遊んでいなさい。誰も天守閣の中に入れてはいけません。」

「分かりました、マリア姉さん。」

娘達は喜んだ。

娘達は信貴城を攻撃した時には参加していなかった。

お城の中に入るのは初めてのことだったのだ。

 二人は天守閣の急な階段を上がり、最上階の扉を全開し、風を通してから最上階回廊の端に腰掛けて話を始めた。

「何をお話ししましょうか、鳶高様。」

「マリア殿の生まれを教えて欲しい。」

「仁義の口上を述べてもだめでしょうね。・・・鳶高様、私が生まれた所はここからずっと離れた場所です。この天守閣は夜には綺麗な星が見えると思います。私はそんな星の近くを回る星で生まれました。」

 「夜空の星は太陽と同じだそうだな。遠くにあるから小さい。」

「左様にございます。その星は光の速さでこの星から進んだとすると300万年もかかる距離にあります。私はそこからこの星に来ました。」

「光にも速さがあるのか。」

「ございます。1秒間で30万㎞を進む速さです。ですから厳密に言えば私が見る鳶高様のお姿は過去のお姿と言うことになります。」

「そう言うことになるな。」

 「鳶(とび)は空を舞いますがどこまでも高く飛べるわけではありません。空気がなくなっていくからです。高いほど空気が薄くなって来ます。およそ5㎞毎(ごと)に半分になります。2里半も上がれば空気は四半分になり我々は生きていくことができません。鳶も飛べません。我々が地面に引きつけられるように空気も地面に引かれるのでそうなります。」

「我らは狭い範囲で生きているのじゃな。」

「左様にございます。」

 「ということはマリア殿は空気の無い所を飛べる船に乗って来たのじゃな。」

「左様にございます。空気がない場所を宇宙と言います。宇宙は海で星は小島です。宇宙を飛べる船は宇宙船と言います。私は宇宙船に乗ってこの星に来ました。」

「宇宙を飛べる船を造る星なら進んでいるのだろうな。マリア殿が後装式の鉄砲の次は連発銃で、その次は速射銃だと言えた理由が分かった。その星ではそんな鉄砲歴史があったからだな。」

 「左様にございます。人間はどこでも同じだと思います。鉄砲が出てくれば鉄砲を防(ふせ)げる丈夫な盾が作られ、そんな盾が出れば盾を吹き飛ばす大砲が作られるようになり、盾で防げなくなれば遠距離から攻撃できる兵器を開発します。」

「マリア殿の星の最終兵器とはどんな物なのだ。」

「攻撃兵器は分子分解砲という兵器でございます。人間も建物も塵に変えてしまう兵器です。この星なら1分もかからず消してしまうことができます。」

「それでは盾も役に立たないのではないのか。」

 「はい、その通りです。最終の盾は7次元シールドと言って何物も通さない幕のような物です。分子分解砲も通りません。星を消すことができる分子分解砲と何物も通さない7次元シールドを張った宇宙船は互いに争っても相手を破壊できないので勝負は着きません。ですから畢竟(ひっきょう)互いの星を攻撃することになります。星全体を7次元シールドで囲むことはできません。ですから分子分解砲を防ぐことができず星は消されます。争えば互いの母星が消えてしまうのです。とても争(あらそ)おうとは思いません。」

 「要するに、どちらの兵士も殺されないが兵士が住んでいる町と城は無くなってしまうのだな。」

「左様にございます。」

「そんな戦争はしたくないな。」

「見かけ上の平和が保たれます。」

 「そんな強力な武器を持っているのに何故(なにゆえ)マリア殿はこの星を征服しないのだ。」

「ふふっ、何故(なぜ)でしょうね。原因と理由は色々あると思います。」

「理由だけではなく原因と理由か。話してくれんか。」

「原因の一つは我らは人数が少なく増えることができません。我らは死にませんが限られた人数では発展は望めません。理由の一つは心根が優しいからです。ふふふっ。簡単に人を殺しておりますが攻撃されない限り反撃しません。別の理由として、我らは生活には困っておりません。僅かな食料で生きていくことができます。・・・鳶高様はなぜ他国を征服しようと思うのですか。」

 「征服の理由か。・・・優越感だろうな。同じ人間だからより上に立って他の人間を見下(みくだ)したいのだ。同じ人間を自分の意のままに動かせることは至上の悦(よろこ)びだ。男も女もな。別に生活が苦しくて征服するわけではない。」

「それが理由かもしれません。我らは鳶高様とは違う人間です。征服し支配しても優越感は生じないからかもしれません。・・・鳶高様は女も支配したいのでしたね。結婚なされたのですか。」

 「いや、まだ結婚はしていない。二人の妹は嫁(とつ)いで行った。」

「そろそろご結婚の年齢ですね。」

「なかなかこれぞという娘が居なくてな。候補の娘が目の前に出てくると娘の隣にマリア殿が立っておるのだ。娘はマリア殿に敵(かな)うはずがない。」

「まあ、ありがとうございます。私は高く評価されているのですね。」

「結婚できるものなら結婚したいと思っている。」

 「結婚しても私を支配することはできませんよ。」

「恋は盲目(もうもく)と言うからな。支配されてもいいと思っている。」

「鳶高様は同族の娘と結婚し子孫を残すべきです。それがこの世界の発展の理(ことわ)りです。」

「そうは言ってもな。」

「お団子でも食べましょうか。」

「そうしよう。」

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