第39話 39、各国での対応
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マリアは薩埵国の兵士を見て近づいて言った。
「マリア一家のマリアでございます。薩埵守恒殿様にはマリア一家の立ち上げにご尽力いただき感謝しております。この度、湖を周回する廻船業を立ち上げました。本日は初日の試乗会です。薩埵国のこの場所には毎日この時間と夕方に30分間だけ停泊する予定です。よろしきお取り計らいを願い奉ります。」
「うむ。話はサーヤ殿から聞いた。拙者は火付け盗賊改め方の大岩十三だ。殿は良いことだとおっしゃられた。重武装の船団が毎日周回するのは沿岸の安全にも寄与すると思われる。」
「廻船が軌道に乗りましたらこの近くに待合所を造ろうと思います。薩埵の殿様にはマリアは海賊の襲撃を心待ちにしているとお伝えください。」
「了解した。そう伝えよう。襲撃を受けたら海賊の本拠を叩くと言うことだな。」
「左様にございます。」
「了解した。」
連結船団は30分後に出発し白雲国に向かった。
龍興興毅がマリアに言った。
「マリア殿は薩埵の殿様と知り合いなのか。」
「はい。薩埵守恒殿様には強訴させていただきました。大手門を開け、城の橋を爆破し、20人ほど殺しました。」
「凄まじい強訴だな。何を強訴したのかな。」
「関所の全員を殺し関所を灰塵にしたことと101人の捕り手を殺したことを不問にせよと迫りました。薩埵守恒殿様は不問にしてくれました。それと関所は無くすとおっしゃりました。福竜国との国境の関所は無くなっているはずです。」
「確かに無くなっている。関所破りと100人殺しか。強い軍隊を持てば何でもありだな。」
「それが国というものです。」
「確かに。」
サオリが平手造酒のところに行って言った。
「平手先生、さっきの座頭さんが市さんです。居合抜きとサイコロ読みを教えていただきました。」
「うむ。何となく存在感があったな。座頭でもしっかり生きているんだ。拙者も博徒の客人でゴロゴロしてるのはいかんな。」
「平手先生は浮浪雲みたい方だと思います。腕は立つし、人に好かれるし、そのうちいい就職先が見つかりますよ。」
「何をしたらいいのかな。」
「そうねえ、・・・問屋場や人足寄せ場がいいかしら。」
「人材派遣業だな。自分は働かないのだから楽かもしれん。」
「そうですね。」
筏船連結船団は1時間ほどで白雲国の渡し場に到着した。
白雲国は山から流れる大河によって2つに分離されている。
河には綱が張られ、人々や馬や荷車は大型の筏で河を渡る。
当然、料金が取られる。
お金を節約したい旅人は河の下流の浅瀬に張られた綱を伝って裸で河を渡る。
渡し船の桟橋は防衛のためか、城のある側ではなく河を挟んで城より遠い河口近くにあった。
連結船団が渡し船の桟橋近くの湖岸に接岸すると渡し小屋からサトミと大野政五郎(大政)が出て来た。
サトミは娘姿をしていた。
マリア達と護衛兵が上陸するとサトミと大政が近寄ってきて言った。
「マリア姉さん、いらっしゃいませ。お久しぶりです。」
「久しぶりね。どう、上手くいってる。」
「細々と過ごしております。」
「そう、ヤクザは何と言ってもお金儲けをしなければ生きていけないわね。渡しの利権は白鷺一羽親分が独占しているのね。」
「はい。」
「分かったわ。此処には筏船1艘と3小隊30人を派遣します。待合室付きの兵舎を建てなさい。渡し小屋の近くがいいわね。それから河の反対側にも同じような兵舎を建てなさい。お金は出します。」
「どうするのですか、マリア姉さん。」
「マリア廻船の停泊地には人と共に荷車と馬が乗り降りするの。だから待合室が必要。そこで問題になるのが大河でしょ。馬や荷車は上流で渡り筏で渡るしかできないわね。それでは遠方から来たお客は不便になる。だから河口の両側に寄港地を作り、その間を筏船で結ぶの。兵士はその船頭ということ。白雲の城から何か言ってきたら殿様に強訴してあげるわ。停泊時間は30分だから乗客は土産物を買うかもしれないからここの景気はよくなるかもしれないわね。」
「上流の渡しは大雨が降ると川止めになります。湖なら大雨が振っても運行できると思います。」
「そうね。この辺りはだんだん賑やかになると思うわ。海賊も襲ってくるかもしれないけどきっと返り討ちね。」
マリア達は少し早めに出発し、大河の対岸、湖畔の小道が河に沿って街道に行く曲がり角の近くの湖岸に接岸し、辺りには何もないことを確認してから次の寄港地の大石に向かった。
「マリア姉さん、白鷺の親分は渡しの利権の半分をサトミに渡さなかったのですね。」
イビトがマリアに不満顔に言った。
「そのようね。もともとサトミの一家は河の反対側に新しい一家ができないようにするためだったから。でも河口の渡しが始まったら河の上流の今の渡しは寂(さび)れると思うわ。うちは安いし、大雨が降っても川止めはないからね。・・・廻船を利用するお客は只にしたらいいわね。」
「廻船の発着時間が決まっていることが重要ですね。」
「そうよ。時計の針のようにね。」
大石の渡し場では狛犬大五郎と稲荷崑太郎と養女のコヨリと絹問屋絹文の文左衛門と使用人が待っていた。
マリア達が上陸すると皆近づいてきて最初にコヨリが言った。
「いらっしゃい、マリア姉さん。お待ちしておりました。予定時間ぴったりみたいです。」
「今のところ順調よ。コヨリも元気そうね。」
「はい、みんなに親切にしてもらっています。」
「狛犬の親分、福竜の殿様のご尽力で廻船業を立ち上げました。1日に2回筏船の連結船団がここに停泊します。軌道に乗りましたら此処に待合室付きの兵舎を建てるつもりです。」
「荷車と馬と人か。それにすげえ数の兵士が乗っているんだな。鍋田を滅ぼした軍勢かい。」
「強い兵士達ですが、一応、船頭と言うことになっております。」
「海賊が襲って来れば海賊を滅ぼし、その国の兵士が妨害したらその国を滅ぼすってことかな。」
「ふふふっ。そうなるかもしれませんね。」
絹文の文左衛門が言った。
「マリアさん、先日は娘を助けていただきありがとうございました。狛犬の親分さんからマリアさんが今日来られると連絡を受けました。一見しただけですが、荷車は12台で馬も詰めれば12頭が乗れるようです。護衛の兵士もとんでもなく強いそうですね。ぜひ利用させてもらおうと思っております。運賃は如何程でしょうか。」
「ふふふっ。廻船は福竜国を朝7時に時計回りと反時計回りに出発し、反時計回りでは薩埵、白雲、大石、石倉、五月雨に接岸し夕方6時に福竜に戻ります。接岸時間はおよそ30分間です。運賃は荷車も馬も人も1駅100文(2500円)です。例えば、荷物を積んだ荷車を馬が引いて人間が一人ついて大石から五月雨に行く場合には600文(15000円)になります。」
「えらく安いですね。」
「ふふふっ、ご贔屓(ひいき)に。待合室ができれば出船時刻と到着時刻を掲示するつもりです。」
「了解しました。利用させていただきます。」
マリア達は次の寄港地の石倉国の渡し場に向かった。
大石国と石倉国の間にはマリシナ国があるので航行距離は2倍近くになり、時間も相応2倍になる。
「あれがマリシナ国ですな。他の国と違って湖の近くまで耕作地が広がっていますな。」
龍興興毅がマリアに言った。
「ふふっ。マリシナ国の国民はみな働き者ですから。」
「それと海賊の襲撃もないからですな。」
「まあ、襲っても奪うものは米俵と娘だけですから。・・・龍興様、少しお聞きしてよろしいでしょうか。」
「何かな。」
「湖の周囲の国々では1両小判と1分金と1朱金と1文銅銭が使われております。それらの貨幣はどの国が供給しているのでしょうか。」
「うむ、金か。・・・ある意味で福竜国が供給源になっている。福竜国から山を越えると水量が多い河に出会う。おそらく湖の水が福竜の下を通って湧き出しているのだな。河の先は信貴国になっている。大きい国でな。金鉱があるらしく貨幣を作っていると聞いたことがある。この辺りで使われている金貨はほとんど同じだから全て信貴国の金貨だ。福竜は信貴国と交易しているから信貴国の金貨が入ってくる。湖を取り巻く山を越える道は福竜国だけにある。だから金貨の供給源は福竜国だと言えないこともない。」
「さよですか。この湖は大昔に巨大な火山の火口にできた湖だと思います。温泉も諸所に出るようです。そんな場所なら金鉱脈もあると思いますが各国は金を採掘していないのでしょうか。」
「この辺りのどこの国も小国で貧しいからな。貨幣を作る余裕も野望もないだろう。」
「それなら、いずれ時が過ぎれば湖の外の国々では群雄が割拠して覇を唱えるようになり、やがてこの辺りの国々は征服されるということですね。」
「・・・ずっと先の話だと思う。」
「福竜の殿様は何かお考えのようですね。」
「そうかもしれん。」
マリア達が乗る連結筏船船団はマリシナの中央あたりで時計回りに廻って来た連結筏船船団と出会った。
時計回りの船団は停泊寄港予定地では接岸せず30分間海上で停止してから次の寄港地に向かっていたのだ。
互いの筏の兵士は手を振った。
マリアは船団に大きな音を出すものを着けようと思った。
法螺貝は持ち運びが容易だが音量が小さいし吹くのが難しい。
太鼓は大きな音を出すが持ち運びが困難だし水に濡れると良くない。
マリアは巨大なシンバルのような銅鑼(どら)を連結艦隊に着けようと思った。
太鼓より重いが水に濡れても問題なく、誰でも連打できる。
闇夜にも便利だろうし、互いに確認するのが容易だ。
慣れてくればアクティブソナーのように反射波で相手艦位置が判るかもしれない。
石倉の渡し船の桟橋には2艘(そう)の渡し船が泊まっていた。
丁度、渡し船が到着した時だったらしい。
連結筏船船団は桟橋のマリシナ国側の岸辺に接岸し護衛の兵士達が上陸した。
桟橋の山側の岸辺には湖岸を廻(めぐ)る小道がなかったからだ。
小道は渡し場から直角に曲がって石倉の城下町に続いている。
街道にとっても、湖岸の小道にとっても石倉国は袋小路になっているのだ。
渡し場の小屋の前には馬に乗った武士と10人の手下が整列していた。
渡し船で胡乱(うろん)な輩(やから)が石倉城下に入ることを警戒しているのだろう。
以前この渡し場に来た時には渡し船は来ていなかったし、役人もいなかった。
渡し船が到着する時刻に合わせて出動しているのかもしれない。
役人達は直ちにマリシナ廻船の護衛兵10人と対峙した。
上陸した護衛兵の数は10人で役人の10人と同じだったが、護衛兵と同じ姿をした兵士30人が連結筏船船団に乗っていた。
数的に圧倒されている。
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