第一章-クリークタウン-

奇妙なギルド

 月が山の向こうへ沈んだ時間、俺は目を覚ました


 同じテントで寝ていた人を起こさずにそっと近くの草原まで来て、空を見上げた

 

 白く点々と輝く小さな光が無数にあった


 こうして見上げていると、いつか一緒に夜空を見たあの人の事を思い出す



 ———思い出しながら見上げていると、遠くから草の上を歩いてくる音が聞こえてきた

 …先程まで一緒に寝ていた人の気配が近付いてくる


 俺は安心して夜空をずっと眺める


 「…気付いてるのに、無視して空見てる」


 寝巻きから、いつもの格好のVネックで黒の短いブラウスと、その下に赤いインナーワンピース、トップスインナーが白でアームカバー(恐らく)が黒、白と黒の動きやすそうなシューズに黒いハイソックス、そして親指と人差し指、中指穴が空いてる黒い手袋をしていて赤い十字架のネックレスをさげている、小柄の黒髪ショートな少女が顔の近くまで寄って見下ろしている


 当然、顔の近くで見下ろしているので、ワンピースの内側に見える、可愛らしい水色のショーツが視界に入る


 夜中とはいえ、君が俺の姿が見えてるという事は俺からも水色が見えるくらいの明るさなんだぞ。もう少し警戒してほしいものだ


 「…見えてるぞ、水色の」


 「君が私の事気にかけないから、見せてるの」


 …衝撃の発言


 「———っていうのは冗談。てっきり影になると思ってた」


 「眼福でした」


 「…ばか」


 少女は俺の横に座って、空を見上げた


 「あの無限にある小さい光はなんだろうね?」


 「小さな太陽みたいなものだと俺は思う、太陽ほど輝いてはないけど光ってるし」


 「…私は、イルミネーションだと思う。遥か向こうの天井に誰かが飾ったの」


 「俺らの遥か届かない空の向こうに?」


 「うん。きっと神様が飾ったんだね」


 神…俺らの遥か足元にも及ばない存在、生き物たちを作った存在


 そして全てを破壊する存在


 「私が信じる神様は、素敵なものを見せてくれる」


 「…そうなんだ」


 ———東の山から大きな光が上り始め、俺たちを照らす


 すると、俺の身体が輝きはじめ、髪色が赤色に薄く光り、目の色が琥珀色へと変化した


 少女はそんな俺の姿を見て、目を輝かせていた


 「な、何それ、カッコいい…」


 そんな事言われたら少し照れてしまうが、この姿を見て不気味だとは思わないのかな


 「暁方にこうして太陽の光を浴びると、自然とこうなるんだ」


 「…羨ましい」


 「そうかな、でも不気味じゃない?」


 「ううん、寧ろ絵本に出てくる英雄みたいでカッコいいよ」


 変わった子だ。俺と父はこの姿を見て不気味がってたのに


 「もしかして、アッシュの高い身体能力はこの力を蓄えて発揮してる?」


 アッシュこと俺は、少女の察しの良さに感心した


 「そうだよ。だから蓄えてる力を全部使ったら戦えなくなる」


 「なるほどね」


 辺りは暁により朱に染っている


 日が昇り、辺りが通常の色を取り戻した時、俺の身体は元に戻る


 「リオも起きたことだし、三十分後に目的地に向かうとしようか」


 リオという少女はコクっと頷き、元に戻るまでの三十分間会話しながら俺の身体を観察していた




 二時間後


 目的地の"トワイライトタウン"まで思ったより遠く、あと五時間以上かかるので進路上通るであろう町に、休憩がてら寄ってみることにした



 「———常闇より現世を照らす禍々しき光…ダークライトカタストロフィ」


 リオが変わった呪文を終え、暗い光が遭遇してる四体のゴブリンたちを襲った


 「町の近くにモンスターがいるなんて珍しいな」


 「もしかしたらゴブリンの巣窟が近くにあるのかも」


 ともかく、町に行けばギルドで巣窟の捜査とか発行されているはずなので、この話は町に行ってからにした


 「それにしても、リオの魔法は豊富だなぁ」


 するとリオは右手で左目の上から親指、人差し指、中指を広げて"いつもの"謎のポーズをとった


 「くくく、私は無限に魔法を編み出せる"無限の魔女"……インフィニティブラックウィッチとも呼ばれている」


 普段はクールだけど、時々こういう現象が起きてしまうのはある意味病気か


 これをふざけてやってないとこが、個人的に好きなとこではある。てか無限の魔女なのに"ブラック"付け足したし、誰が呼んでたんだ


 「編み出せるって言ってたけど、普通はそんな編み出す事なんてできるの?」


 支援魔法しか使えない俺にとっては想像がつかないけど、魔法士などはそんな自分で自在に超常現象を起こすことができるのだろうか


 「賢者クラスでも難しいと言われてるけど、私なら編み出す事が可能」


 フッ…とドヤ顔をキメた黒い少女


 何気におよそ十四歳で賢者クラス以上の事ができるなんて、恐ろしい才能の持ち主だ…


 これが勇者の血を受け継いだ者なのか


 「アッシュの"暁の力"と私の"無尽蔵の魔法"があれば敵無しね」


 「リオは剣技もかなりレベル高いじゃないか」


 「一応、オールラウンダーだから」


 腕を組みクールに言ってみせた少女は、やはり俺より強い


 「俺も負けてられないな」


 「アッシュはそのままでいいと思うけど」


 そう言われても俺だって男だから、せめてリオと肩を並べて戦えるくらいには強くなりたい

 いざっていう時の為に強くなりたい


 「アッシュが子供の頃来ていた先生は、どんな人だったの?」


 この世界は八歳から十二歳もの間、誰しもが教育を受ける事になっている


 俺の時は家に先生が訪れるタイプが主流だったけど、ここ最近学校なるものが増えてきているらしく、そこに行けば少人数の教師で沢山の子供たちに教育を受けさせる事が出来るらしい

 子供たち同士のトラブルが起こりそうな気もするが、先生も楽そうで画期的ではありそう


 それはさておき、先生が訪れるタイプでも普通は日によって先生が変わるけど、俺は八歳の時から成人する間ずっと同じ先生がついていた


 因みにこの世界の成人と認める歳は十三歳だ


 「いい先生だったよ。八歳からずっとある一人の先生が、毎日友達のように接してくれてた」


 「付きっきりの先生だったなんて珍しいね」


 「田舎だったからさ、それでも遠くから毎日遥々来てくれて俺は嬉しかった。その人にも色々と戦い方を教わったけど、どちらかというと父から稽古を受けてた」


 「アッシュのお父さん、とても強かった」


 リオは一度俺の父と戦ったことがある

 というか、父の計画でリオを殺しそこなった時に、俺より強いリオが一方的に攻撃されただけである


 「厳しかったけど、父は父で昔からギルドでは発行されない過酷なクエストで鍛えられたらしいから、その経験が引き継がれると思うと嬉しかったし誇りに思ってる」


 「立派な人なんだ」


 「リオを殺そうとした愚かな殺人者でもあるけどね」


 今思っても普段コソコソと闇商人している父が、何であんな大胆な犯行をしたのか全くわからない


 「…私が勇者である事と関係あるのかな」


 リオも事件当時の事を思い出していたようだ


 リオ=パーシヴァルは勇者の血を引く正統の勇者で、人々を助け、困難なクエストをこなしていく立派な少女だ


 そんなリオを依頼でか何かわからないけど、父は消しかけようとしていた


 「もうあの時の事は気にするな。それより今の事を考えよう」


 「…そうだね」


 「ほら、見えてきた」


 俺が指を刺した方向に町があった


 小さい町で、あの中で一際目立つ建物と言えば、この町のギルドだった


 「なんというか…」


 「この町に合わないね。ギルドの建物」


 石でできているギルドの建物の周りには、木造でできた建物しかなかった…


 ギルドのは休憩スペースがあるので、とりあえず休んでから町を見て回ることにした



 ギルドへ辿り着き、休憩スペースで俺たちが席に着くと、カウンターから案内人の男性がこっちへ近付いてきた


 「冒険者さんたちですね?」


 「はい、どうしたんですか?」


 「ええ、良ければ是非ギルドのクエストを受けてくれると助かります」


 わざわざこっちに話しかけたという事は、相当急を要するクエストなのだろうか


 「…どういう内容ですか?」


 「この町付近のゴブリン退治をお願いしたいのです」


 対面に座っていた少女が謎のポーズを決め、案内人に問う


 「放置していたらゴブリンが大量発生した…ってことでしょうね?それでロード級が発生しないようある程度討伐しろと?」


 案内人はそのリオのポーズに一瞬驚いたがつかの間、元の表情に戻り頷く


 「その通りです。ギルド本部に何度も要請しているのですが、討伐隊がこちらの町まで手が回れないらしく、こうしてお願いをしているのです」


 そこで疑問に思ったので口にしてみる


 「ここの町の冒険者に頼んだらいいのでは?」


 「実は、この町に冒険者なんて一人もいないんです…」


 リオは鋭い視線で案内人を見る


 「いくら何でも、一人もいないなんて事あるはずない」


 案内人は焦りを見せた


 「その…元々いたのですけど、皆旅立たれまして…」


 「………」


 嘘は言っていなそうだけど、何か隠してそうな感じがした


 「何か事情があるのはわかった。軽く町を見回ったらやる事にする」


 「あぁ、助かります!」


 …悪意は感じられなかったので、クエストを受けた




 ギルドを出て町を見て回る事にした俺たちは、意外にも小さな町ながらに活気で溢れかえっていた


 リオはふと屋台に並んでいる衣装コーナーを見て、ピーンっとリオの頭に猫耳が立ったかの様に見えた(幻覚である)

 何か興味あるものでも見つけたのかな


 リオは見つけた物を手にし俺の顔を見た


 「アッシュ、これ何か知ってる?」


 黒い布に包帯のような布がグルグルに巻かれてある物だ。うーん…


 「全くわからない」


 「…はぁ」


 今ため息つかれた?


 「これはね、"闇騎士物語"の主人公が腕につけてるものでね、この白い封印具を巻いてないと自分の中にある"ダークマナ"が暴走するやつ」


 「闇騎士…え?」


 理解できなかった、何の話をしているんだろう


 「"闇騎士物語"。…聞いた事ない?」


 「ごめん、聞いたことないや」


 「はあぁぁっ……」


 大きくため息をつかれた。理不尽だ


 「…今度貸してあげるから、ちゃんと読んで」


 「わ、わかった」


 なぜそんな怒ってるんだこの子は。相変わらず考えてる事がわからない


 「店主よ、これを一つ」


 「お嬢さん…これは狂抑制具と言ってね、これは絵本に出てくるような代物じゃないんですわ」


 店主のおじさんが頭をポリポリと掻きながら申し訳なさそうに告げた言葉に、リオは凍りついた


 「………」


 「で、でも、見た目はカッコいいから、お嬢さんに合うかもね」


 「…一つください」



 何だかんだ満足しているリオを横目に、町の人に違和感を感じていた


 「…町の近くにまでゴブリンが大量発生しているのに、みんな普通に過ごしてるね」


 そう、ゴブリンを討伐してくれる人達がいないのに、こんな普通に暮らしてるのはおかしい…


 「だけど、ギルドの案内人は割と焦ってた様子だったな」


 「なにか"きな臭い"ね」


 俺たちは疑問を抱きながらも、町の外へ行きゴブリン討伐を開始した

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