闇商人

 あれから俺は、見送った後疲れからかテーブルに座ったまま寝てしまった


 起きた時には朝で、ベッドの上に寝ていた

 父が戻ってきて移動してくれたのだろうか


 その父に言いたいことが山ほどあったけど、昨日と同様朝から父の姿はなく置き手紙と金貨十枚が置いてあった


 明朝にはここを発つ

 早めに寝ておくように


 手紙にはそう書かれていた



 軽くコーヒーを飲んでから宿から出た


 腕時計を見ると、約十時三十分に針が回っていた

 とりあえず"いつも通り"父が戻るまで適当に街中を歩く事にする



 昨日会った黒い少女を思い出す


 きっと今頃は人助けやクエストをこなしているんだろうな

 勇者というのはそういう役職みたいなものだ


 ちょっと変わってるけど正義感が誰よりも強い事を俺は知っている

 昨日みたいな大変な仕事はそうないだろうから、リオならひとりでも大丈夫だろう


 とはいえ手伝ってあげたい


 少しでもあの子の負担を減らそうと思い、ギルドへ赴く



 昨日来たギルドに到着したが、何やら様子がおかしい…ギルドの前に結構な人だかりが出来ていた


 詳しそうに説明している人に耳を傾ける


 「———だから嘘じゃねぇって、あの勇者と商人が揉めてるんだよ、ずっと」


 リオと商人が?…商人って父の事か!?


 嫌な予感がして人だかりを掻き分けてギルドの中へ入る




 しゃがんで気配を殺し、静かに店内に入りる…

ギルドの人は居るけど、客は皆外へと避難したようだ。他にいるのは騒動の中心人物の父とリオだけ


 ゆっくりとテーブルの下へ行って父とリオの様子を見る


 「あなたはなぜ、私を殺そうとしたの?」


 「依頼のため…そして私のためだと先程申し上げましたが?」


 「それだけじゃ納得できない…!」


 「まだまだ若いですな。納得できる、できないはどうでもいい事ではありませんか」


 一呼吸置き


 「理不尽に殺されるのもまた、人生というものです勇者殿」


 「それを抗うのもまた人なのでは?」


 「貴殿ではどうやっても昨日のゴブリナーには勝てず、更にハイポーションと偽った"危険な薬"まで用意したというのにまだ生きていらっしゃる」


 父はギロッとリオを睨んだ


 「少々目立つ事をするが、私の手で貴殿を葬って差し上げよう…」


 強烈な殺気…懐に手を伸ばしたところで、俺は気配を消したまま接近し、父の首元にナイフを下ろす


 キィイン……


 すんでのところでナイフは父の小刀に阻まれた


 「…何のマネかな、アーネストよ」


 「父よ、貴方はやり過ぎです」


 「首元を狙ってきたという事は私を殺す気かね?」


 本当は脅す程度に突きつけたかっただけだが———


 「———はい、俺は貴方を殺す気でいます」


 「そうか…」


 父に隙はなく、しばらく硬直状態が続く


 「…だが、私はどうしてもあの勇者を討たねばならぬのだ!」


 キィン…!


 俺のナイフを弾き、父は俺に背を向けたままリオの元へ猛スピードで駆けていった


 俺も全速力で駆ける


 父は懐から"青く真四角の瓶"を取り出した


 "バブル"…生物に浴びせれば瞬時にドロドロに溶かしてしまうという超危険な薬だ


 「死んでもらうぞ…!」


 「っ…!」


 リオは壁際まで後退するが、退路はなく焦りを覚え硬直してしまった


 俺はこのままでは間に合わないと判断し、全身に力を入れ———"暁の力"を使った


 そして一瞬で父の背後へと行き


 回し蹴りを腹部にヒットさせ、横へ吹っ飛ばし壁にぶつけた


 リオと引き剥がしたが油断はせず、リオの前に立ち父を見る


 「うぐっ……はぁ…はぁ……」


 相当なダメージが入ったのか、呼吸が乱れた


 父は口を開く


 「その力はもう使うな…強力な力を得られるかも知れぬが、自分の身体に何が起きるかわからない…はぁ……」


 父は呼吸を整えて身だしなみのチェックを終え、ゆっくりと出口へ向かう


 「お前が宿へ戻ってき次第、早々に帰るぞ…少々目立ち過ぎた」


 そう言い残し、ギルドから出ていったのを確認したので、"暁の力"を解除した



 「大丈夫か?リオ」


 「君のその力…」


 「ああ…体質なんだ、魔法の力ではなくて」


 「…カッコよかった」


 あれだけの事があって、何よりも僕の持ってる力の方に興味があるのは相変わらずだなと思った


 もう一度"暁の力"を使ってみる


 身体に纏っている魔力が高まり発光し、髪が若干赤く光って、目の色が琥珀色へと変化した


 「おぉ…」


 子供がマスコットの着ぐるみを見るような感じで、リオはまじまじと俺の姿を見ている


 「この力は、一時的に身体力、魔力が大幅に高まるけど、タイムリミットがあってね…力を使う度にタイムが縮まって早く終わってしまうんだけど…終わった後はかなり疲れちゃうんだ」


 頬を掻きながら言った


 「ここぞって言う時に使うんだね」


 リオはなにか納得したように微笑んで目を伏せた


 俺たちが話し合っているうちに、昨日話し合ってたギルドの受付嬢、サヤさんと別に二名の受付人の男性がこの騒動の後始末をしていた




 壊してしまった備品と壁を魔法で修繕し、何とか元に戻したところで周りは何事もなかったかのようにギルドは普通に運営していた


 もしかしたらこういう事態に慣れているのだろうか


 「よくある事だからね~」


 「サヤさん…」


 「あれが、アッシュ君のお父さんかぁ」


 父とのやり取りを見聞きされていたので流石にバレてしまった…知らない人に聞かれてもいいように本名で呼ばないでくれるのは有難い


 「…すみません」


 「大丈夫よー。さっきみたいな騒動なんて先週もあったし、慣れてるの」


 カランカラン…とギルドの入口からドアチャイムが鳴った


 こっちに歩いてくるのはリオの姿だった


 「外にいた人たちに事情を話して、何とか散らばせたよ」


 後で聞いた話、商品を偽造した悪徳商人と揉め合いになったというシナリオで納得させたという


 「ご苦労さま~リオちゃん♪」


 なでなで…ペシっ


 撫でられたリオはサヤさんを睨んだ


 サヤさんはこっちに近づいて耳打ちをしてきた


 「ギルドに報告はしておいたけど、きっと"指名手配犯だけにしておく"でしょうね」


 「それはギルドにとって父は必要な人物だからですか?」


 薄々気付いてはいた。家にギルドからの手紙などが沢山届くのだから、闇商人の父とギルドが繋がっていることを


 「もしかして、今回の事態もギルドからの依頼だったりするのかな」


 「父は顔が広いですから、何とも…」


 「そうだよね~…あとさ———」


 ふたりでこしょこしょと話しているうちに、リオがくいくいっと俺の服の裾を引っ張り耳元で———


 「…ばか」


 ———構ってくれない拗ねた猫みたい




 今度はリオも交じって、普通の会話にチェンジした


 会話しながらさっきサヤさんに言われたことを考え、手紙を書くことにした


 「…サヤさん、手紙書いてもいいですか?」


 「……はい!紙でしたら———」


 サヤさんはカウンターへ戻り、紙とペンを取り出した


 「はいコレ!書き終わったらあの手紙ボックスに入れずにアタシに言ってください!」


 休憩終わりそうだし、ついでに仕事に戻っちゃうね!と言ってカウンターに戻っていったサヤさん


 そんなサヤさんの事を目で追っていたらリオが顔を近付けてきた


 「サヤちゃんみたいな子がタイプなの?」


 「へ…?」


 タイプ…好きな女性のタイプの事か


 「そういう目で見てないよ」


 「ふ~ん」


 リオは納得がいっていないような顔をしつつも着席した

 そのタイミングで俺は手紙を書き始める


 「じゃあ、どういう子がタイプ?」


 「タイプかぁ…」


 一時期考えた事があったけど、結局わからなかった


 「そういうのちょっとわからないかも…彼女欲しいとは思うけどね」


 「…なるほど」


 何が"なるほど"なのだろうか


 「リオって俺の事好きなの?」


 「………」


 考えてる…もしくはフリなのか分からないけど、沈黙が続くなら言わなきゃ良かったと思った


 「…どっちがいい?」


 「んん…??」


 予想外な答えに疑問を抱かざるを得ない


 「それは…リオの気持ち次第じゃないの?」


 「そうだけど、なんて言えばいいか…」


 はい か いいえ じゃないの?


 「あー、あーそこのお客様」


 話を聞いていたのか、仕事を放棄してサヤさんはこっちにやってきた


 「そういう話をするには、ロマンチックな場所(ロケーション)や雰囲気(ムード)を考えてくださいね」


 確かに…流れ的にとはいえ、こういう話はギルドでするものではないな


 「すみません、サヤさん」


 「謝るなら私じゃなくてリオちゃんですよ」


 「え?…いや、私は全然気にしてない」


 「ごめん、リオ」


 「………」


 「…さて、アッシュ君も手紙書いてるし…って終わったの?あまり書いてない様子だったけど」


 「これくらいでいいんです…じゃ、後はよろしくお願いします」


 「はいは~い…"こちらこそよろしく"ね♪」


 サヤさんはたん、たん、たんと軽くスキップしながら仕事に戻って行った


 「…アッシュは誰宛に手紙を書いてたの?」


 「俺の父だよ」






 がさこそがさこそ…


 「これでいい?」


 「…あともう一つ魔除けランタンを持っていこう」


 俺とリオは長旅の準備をしていた

 父のノウハウで野宿する為の持っていくアイテムを教えてもらい、更に実践済みだったのでその経験にならって準備を進めていく


 「まさか…アーネストが私のクエストに付き合ってくれるなんて思わなかったよ」


 「…そろそろ親離れしなくてはと思って」


 「十五だし、まだ早いと思うけど」


 この世界はどの国も十三歳から成人として認められている

 とはいえ独り立ちする人は稀で、まだまだ二十、三十歳くらいの人には敵わないので簡単な仕事やクエストをこなして経験を積む人が殆どだ


 「リオは俺の一つ下じゃないか。なのに俺より頑張ってるから…頑張らないとなと思って」


 「私はそれが使命だから」


 とクールに淡々と言ってのける


 「アーネストはお父さんに挨拶しなくていいの?」


 「いいよ、顔合わせにくいし、それに…」


 無理やり帰らせて二度とリオに会えなくなりそうだから


 「俺は、リオと一緒にいたいって決めたから」


 「ええっ!?」


 しまった…これじゃまるで———


 「———違う、プロポーズのつもりで言ってるわけじゃなくて…その、一緒にいたいって……」


 あれから俺は、見送った後疲れからかテーブルに座ったまま寝てしまった


 起きた時には朝で、ベッドの上に寝かせられていた

 父が戻ってきて移動してくれたのだろうか


 その父に言いたいことが山ほどあったけど、昨日と同様朝から父の姿はなく置き手紙と金貨十枚が置いてあった


 明朝にはここを発つ

 早めに寝ておくように


 手紙にはそう書かれていた



 軽くコーヒーを飲んでから宿から出た


 腕時計を見ると、約十時三十分に針が回っていた

 とりあえず"いつも通り"父が戻るまで適当に街中を歩く事にする



 昨日会った黒い少女を思い出す


 きっと今頃は人助けやクエストをこなしているんだろうな

 勇者というのはそういう役職みたいなものだ


 ちょっと変わってるけど正義感が誰よりも強い事を俺は知っている

 昨日みたいな大変な仕事はそうないだろうから、リオならひとりでも大丈夫だろう


 とはいえ手伝ってあげたい


 少しでもあの子の負担を減らそうと思い、ギルドへ赴く



 昨日来たギルドに到着したが、何やら様子がおかしい…ギルドの前に結構な人だかりが出来ていた


 詳しそうに説明している人に耳を傾ける


 「———だから嘘じゃねぇって、あの勇者と商人が揉めてるんだよ、ずっと」


 リオと商人が?…商人って父の事か!?


 そんな気がして人だかりを掻き分けてギルドの中へ入る




 しゃがんで気配を殺し、静かに店内に入りる…

ギルドの人は居るけど、客は皆外へと避難したようだ。他にいるのは騒動の中心人物の父とリオだけ


 ゆっくりとテーブルの下へ行って父とリオの様子を見る


 「あなたはなぜ、私を殺そうとしたの?」


 「依頼のため…そして私のためだと先程申し上げましたが?」


 「それだけじゃ納得できない…!」


 「まだまだ若いですな。納得できる、できないはどうでもいい事ではありませんか」


 一呼吸置き


 「理不尽に殺されるのもまた、人生というものです勇者殿」


 「それを抗うのもまた人なのでは?」


 「だが、貴殿ではどうやっても昨日のゴブリナーには勝てず、更にハイポーションと偽った"危険な薬"まで用意したというのにまだ生きていらっしゃる」


 父はギロッとリオを睨んだ


 「少々目立つ事をするが、私の手で貴殿を殺してみせよう…」


 強烈な殺気…懐に手を伸ばしたところで、俺は気配を消したまま接近し、父の首元にナイフを下ろす


 キィイン……


 すんでのところでナイフは父の小刀に阻まれた


 「…何のマネかな、アーネストよ」


 「父よ、貴方はやり過ぎです」


 「首元を狙ってきたという事は私を殺す気かね?」


 本当は脅す程度に突きつけたかっただけだが———


 「———はい、俺は貴方を殺す気でいます」


 「そうか…」


 父に隙はなく、しばらく硬直状態が続く


 「…だが、私はどうしてもあの勇者を討たねばならぬのだ!」


 キィン…!


 俺のナイフを弾き、父は俺に背を向けたままリオの元へ猛スピードで駆けていった


 俺も全速力で駆ける


 父は懐から"青く真四角の瓶"を取り出した


 "バブル"…生物に浴びせれば瞬時にドロドロに溶かしてしまうという超危険な薬だ


 「死んでもらうぞ…!」


 「っ…!」


 リオは壁際まで後退するが、退路はなく焦りを覚え硬直してしまった


 俺はこのままでは間に合わないと判断し、全身に力を入れ———"暁の力"を使った


 そして一瞬で父の背後へと行き


 回し蹴りを腹部にヒットさせ、横へ吹っ飛ばし壁にぶつけた


 リオと引き剥がしたが油断はせず、リオの前に立ち父を見る


 「うぐっ……はぁ…はぁ……」


 相当なダメージが入ったのか、呼吸が乱れた


 父は口を開く


 「その力はもう使うな…強力な力を得られるかも知れぬが、自分の身体に何が起きるかわからない…はぁ……」


 父は呼吸を整えて身だしなみのチェックを終え、ゆっくりと出口へ向かう


 「お前が宿へ戻ってき次第、早々に帰るぞ…少々目立ち過ぎた」


 そう言い残し、ギルドから出ていったのを確認したので、"暁の力"を解除した



 「大丈夫か?リオ」


 「君のその力…」


 「ああ…体質なんだ、魔法の力ではなくて」


 「…カッコよかった」


 あれだけの事があって、何よりも僕の持ってる力の方に興味があるのは相変わらずだなと思った


 もう一度"暁の力"を使ってみる


 身体に纏っている魔力が高まり発光し、髪が若干赤く光って、目の色が琥珀色へと変化した


 「おぉ…」


 子供がマスコットの着ぐるみを見るような感じで、リオはまじまじと俺の姿を見ている


 「この力は、一時的に身体力、魔力が大幅に高まるけど、タイムリミットがあってね…力を使う度にタイムが縮まって早く終わってしまうんだけど…終わった後はかなり疲れちゃうんだ」


 頬を掻きながら言った


 「ここぞって言う時に使うんだね」


 リオはなにか納得したように微笑んで目を伏せた


 俺たちが話し合っているうちに、昨日話し合ってたギルドの受付嬢、サヤさんと別に二名の受付人の男性がこの騒動の後始末をしていた




 壊してしまった備品と壁を魔法で修繕し、何とか元に戻したところで周りは何事もなかったかのようにギルドは普通に運営していた


 もしかしたらこういう事態に慣れているのだろうか


 「よくある事だからね~」


 「サヤさん…」


 「あれが、アッシュ君のお父さんかぁ」


 父とのやり取りを見聞きされていたので流石にバレてしまった…知らない人に聞かれてもいいように本名で呼ばないでくれるのは有難い


 「…すみません」


 「大丈夫よー。さっきみたいな騒動なんて先週もあったし、慣れてるの」


 カランカラン…とギルドの入口からドアチャイムが鳴った


 こっちに歩いてくるのはリオの姿だった


 「外にいた人たちに事情を話して、何とか散らばせたよ」


 後で聞いた話、商品を偽造した悪徳商人と揉め合いになったというシナリオで納得させたという


 「ご苦労さま~リオちゃん♪」


 なでなで…ペシっ


 撫でられたリオはサヤさんを睨んだ


 サヤさんはこっちに近づいて耳打ちをしてきた


 「ギルドに報告はしておいたけど、きっと"指名手配犯だけにしておく"でしょうね」


 「それはギルドにとって父は必要な人物だからですか?」


 薄々気付いてはいた。家にギルドからの手紙などが沢山届くのだから、闇商人の父とギルドが繋がっていることを


 「もしかして、今回の事態もギルドからの依頼だったりするのかな」


 「父は顔が広いですから、何とも…」


 「そうだよね~…あとさ———」


 ふたりでこしょこしょと話しているうちに、リオがくいくいっと俺の服の裾を引っ張り耳元で———


 「…ばか」


 ———構ってくれない拗ねた猫みたい




 今度はリオも交じって、普通の会話にチェンジした


 会話しながらさっきサヤさんに言われたことを考え、手紙を書くことにした


 「…サヤさん、手紙書いてもいいですか?」


 「……はい!紙でしたら———」


 サヤさんはカウンターへ戻り、紙とペンを取り出した


 「はいコレ!書き終わったらあの手紙ボックスに入れずにアタシに言ってください!」


 休憩終わりそうだし、ついでに仕事に戻っちゃうね!と言ってカウンターに戻っていったサヤさん


 そんなサヤさんの事を目で追っていたらリオが顔を近付けてきた


 「サヤちゃんみたいな子がタイプなの?」


 「へ…?」


 タイプ…好きな女性のタイプの事か


 「そういう目で見てないよ」


 「ふ~ん」


 リオは納得がいっていないような顔をしつつも着席した

 そのタイミングで俺は手紙を書き始める


 「じゃあ、どういう子がタイプ?」


 「タイプかぁ…」


 一時期考えた事があったけど、結局わからなかった


 「そういうのちょっとわからないかも…彼女欲しいとは思うけどね」


 「…なるほど」


 何が"なるほど"なのだろうか


 「リオって俺の事好きなの?」


 「………」


 考えてる…もしくはフリなのか分からないけど、沈黙が続くなら言わなきゃ良かったと思った


 「…どっちがいい?」


 「んん…??」


 予想外な答えに疑問を抱かざるを得ない


 「それは…リオの気持ち次第じゃないの?」


 「そうだけど、なんて言えばいいか…」


 はい か いいえ じゃないの?


 「あー、あーそこのお客様」


 話を聞いていたのか、仕事を放棄してサヤさんはこっちにやってきた


 「そういう話をするには、ロマンチックな場所(ロケーション)や雰囲気(ムード)を考えてくださいね」


 確かに…流れ的にとはいえ、こういう話はギルドでするものではないな


 「すみません、サヤさん」


 「謝るなら私じゃなくてリオちゃんですよ」


 「え?…いや、私は全然気にしてない」


 「ごめん、リオ」


 「………」


 「…さて、アッシュ君も手紙書いてるし…って終わったの?あまり書いてない様子だったけど」


 「これくらいでいいんです…じゃ、後はよろしくお願いします」


 「はいは~い…"こちらこそよろしく"ね♪」


 サヤさんはたん、たん、たんと軽くスキップしながら仕事に戻って行った


 「…アッシュは誰宛に手紙を書いてたの?」


 「俺の父だよ」






 がさこそがさこそ…


 「これでいい?」


 「…あともう一つ魔除けランタンを持っていこう」


 俺とリオは長旅の準備をしていた

 父のノウハウで野宿する為の持っていくアイテムを教えてもらい、更に実践済みだったのでその経験にならって準備を進めていく


 「まさか…アーネストが私のクエストに付き合ってくれるなんて思わなかったよ」


 「…そろそろ親離れしなくてはと思って」


 「十五だし、まだ早いと思うけど」


 この世界はどの国も十三歳から成人として認められている

 とはいえ独り立ちする人は稀で、まだまだ二十、三十歳くらいの人には敵わないので簡単な仕事やクエストをこなして経験を積む人が殆どだ


 「リオは俺の一つ下じゃないか。なのに俺より頑張ってるから…頑張らないとなと思って」


 「私はそれが使命だから」


 とクールに淡々と言ってのける


 「アーネストはお父さんに挨拶しなくていいの?」


 「いいよ、顔合わせにくいし、それに…」


 無理やり帰らせて二度とリオに会えなくなりそうだから


 「俺は、リオと一緒にいたいって決めたから」


 「ええっ!?」


 しまった…これじゃまるで———


 「———違う、プロポーズのつもりで言ってるわけじゃなくて…その、一緒にいたいって……」


 自分で言ってて気付く

 プロポーズとそんな変わらない事を


 俺、リオの事好きなのかな…いや、好きなんだろうな


 それが恋としてなのかわからないけど


 「アーネスト…いや、アッシュ…でいいかな」


 アッシュ、そうだ、俺はアーネスト=ホフマンを捨てなければならない


 父とは手紙でだけど縁を切ったのだ

 だから、これからはアーネスト=ホフマン改めアッシュとして生きて行こうと決めたんだ


 リオは突然謎のポーズを決めた


 「…私と一緒に来る気はない?」


 そう言われて考えるまでもなく俺は躊躇わずこう答えた


 「———ああ、勿論」


 それだけ言って、差し出された手を握り返す



 その時見たリオの顔は照れながら微笑んでいた

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