クエスト達成!

 ゴブリンの巣窟、最奥の大広間のど真ん中で大の字で寝ている俺は、しばらく疲労回復に専念しつつ周りを警戒していた


 大広間の出入口の方から、気配が近づいてくる…黒い少女か、はたまたゴブリンか


 次第に大きくなってくる足音に寝ている場合ではないと、大分疲れが取れてきた俺は立って近づいてくる何者かに警戒する


 …服装が黒く目立つ格好をしていて、更に黒髪で小柄な少女がこっちへ向かって来ていた


 「…アッシュ、身体はもう平気?」


 「さすがに三十分も休んでればな。そっちは平気?」


 「うん」


 コクっと頷き、"異空間"から次々と俺の目の前に、立派な装備の数々が重なっていき小さな山となった


 「これは…リオの持ち物ではないな?ここで見つけたのか?近くの集落を襲っただけではこんなに装備は集められないよな」


 「あちこちの部屋にあったから回収したの。…ギルドに持っていこうと思うんだけど、その前に欲しいのがあれば取って?」


 「ふむ…」


 いいのだろうか、きっと誰かの装備品も混ざっているかも知れないのに


 「ほんとは全部ギルドに送らなきゃだけど、言わなきゃバレないし…名前が彫ってあるものは避けてね」


 「わかった」


 正直装備品は前々から欲しかった

 名前が刻まれていないものは、落し物リストに無い限りギルドに寄付されるので、過度に遠慮せず品定めをする


 武器は今持っているナイフ三本がしっくりきているのでスルーする


 軽装の鎧、効果のあるアクセサリーを探す…


 探しているうちにふと気になる物が見つかった


 「なぁ、これって…」


 「ワイバーンの鎧だね」


 「ワイバーン…」


 この鎧には見覚えがあった


 「これは父がモンスターを討伐しに行く時、いつも着ていく鎧にそっくりだ」


 「アッシュのお父さん、商人じゃなかったの?」


 「いやそれが、たまにギルドとは別で父の仲間から依頼されたモンスター討伐も請け負ってるんだけど…この鎧って前に父に聞いた時、市場で出回ってない貴重な鎧だって言ってたや」


 「確かに、市場とか他の冒険者や討伐隊にここまでワイバーンの鱗を踏んだんに使った鎧は見た事ない…」


 「…製造者の名前も無しか」


 気になるけど、俺が装備するには重く感じるし、とりあえず後にする


 「アッシュ」


 「ん?」


 真面目なトーンで名前を呼ばれたので、ルーラーの方を見てみると何やら黒い大きめのコートを持って、目を輝かしこちらを見ている…


 「これ…カッコいい」


 「流石に着ないぞ、目立つし動きにくそう」


 …ショックを受けたのか、見せたロングコートを持ちながらその場を立ち尽くす黒い少女


 「着たくないって訳じゃないんだけどな、目立つのはなるべく避けたい」


 「…君のお父さんの息子だから?」


 「察しがいいな」


 「これでも…いい女だから」


 ぎこちなくドヤる


 「………」


 「無言はやめてね」


 さて、再び目の前にある装備を漁ろう




 「———どうだろ?」


 「似合ってる」


 少女は満足気に頷く


 黒い鉱石で加工し厚みが指の関節の半分くらいに薄く、つや消しも施してある軽い鎧を選び装備してみた


 目立たない訳ではないが、これくらいの鎧なら冒険者や討伐隊に纏っている人は多い


 それにカッコいい…気に入った


 「美的センスどうなってるんだろうな俺ら」


 「?」


 カッコつけ(厨二病)の変わったファッションを纏っている黒い少女に負けず劣らず、自分自身この黒い鎧を気に入ってしまった




 色々と効力のあるワイバーンの鱗でワイバーンの形に削って作られたネックレスを首に掛け、もう欲しいのがないのでルーラーに山積みになっている装備品を異空間に仕舞わせた


 「それどこに仕舞ってるんだ?」


 「異空間の貯蔵庫だよ」


 入ってみる?と促される


 「奥に進むと快適な空間があるよ」


 「あ、後でね…」


 とにかく今はゴブリンの巣窟から出たい




 「ご苦労さまです!流石勇者さまですね!」


 「ふふ、そう褒めるな」


 「勇者…?」


 クエストクリアの報告をしに街に戻ってギルドへ向かい、今に至る


 「あら、知らなかったのですか?付き人さん」


 およそ二十歳くらいのギルドの案内人が、不思議そうな目で俺を見ている


 「初めて聞きましたよ…」


 「…隠しててごめん」


 と耳元でささやき声で謝ってきた


 「知られたくなかったんだろうし、気にしてないよ」


 優しく諭すも内心驚いている


 勇者で黒い少女は「あ、これをお願い」と、ギルドのカウンターの脇の何も無いスペースに巣窟内で見つけた装備品の数々を出してく


 「…それは、巣窟内にあった装備品ですね。随分と多いですね…」


 対面してるギルドの案内人は手際良く遠距離連絡可能な文字式連絡機を使い、どこかに機械メールを送った

 恐らくはギルド本部だろう


 その後テキパキと大きな袋に装備品を詰め込んでいく案内人


 働き者だなー


 「これ全部で間違いないですか?」


 少女に確認


 「うん、問題ない」


 腕を組み、クールに言い切った


 「それじゃ、これらはギルド本部に送りますね。ご協力感謝します♪」


 「フッ…」


 「———でさ?リオちゃんはこの男の子は誰なの?…彼氏さんかな?」


 「か、かれ———っ!?」


 顔を真っ赤にして慌てふためくリオと呼ばれた黒い少女


 困っているようなのでフォローする


 「彼氏じゃないですよ。この子とは…気の合う友達です」


 小さくコク、コクと頷くリオ


 「んー、君、名前は?」


 「アッシュと申します」


 「アッシュ君かぁ…この子の反応見てどう?脈アリだと思わない?」


 「………」


 そう言われてみればそうなのかな…?


 「この子のこと、よろしくね」


 「ちょっと、サヤちゃん…!」


 リオはほんのり顔を赤らめながらサヤと呼ぶ案内人を睨む


 このふたり、仲がいいんだ…ちょっとした安心感を抱く

 こうして見るとリオも普通の女の子なんだな


 サヤさんはリオの両肩を掴んでこっちを見る


 「こういうとこも可愛いよね?」


 「はぁ…もう好きにして」


 疲れ果てていた



 その後三人でワイワイ話していると、窓の向こうは暗くなっていた

 時計を見ると針は二十時を回っている


 「二人とも、そろそろ家に帰らないとね?」


 サヤさんから家に帰れと促された


 「そうですね、父も戻ってると思うので俺も宿に戻ります」


 先程三人で話してる中、父が商売人として親子でこの街に来たことを話した

 …言いにくい部分を伏せながら


 「ま、待って」


 「ん?」


 リオに引き留められた


 「私も連れってって」


 「え…?」


 …リオの事を考えれば納得がいった


 危うく俺の父から貰った危険薬物を摂取してしまうとこだったのだ、父に言いたいことは山ほどあるだろう…それとも捕らえてギルドの警察に突き出す気かな

 後者だとして自分の父親だろうと、俺は納得してしまうだろう


 「わかった、一緒に行こう」


 「きゃーっ!あのリオが彼氏さんとお泊まりだなんて大胆!」なんて大騒ぎしているサヤさんを無視して店を出ようとするリオ


 「ありがとうございましたサヤさん。また会いましょう」


 「うん!…今度会う時は結婚式場でね!」


 あはは…


 頭を掻きながら、リオと一緒に店を出た



 「ごめん、サヤちゃんうるさくって」


 「でも話していて楽しかったよ」


 「…それと、改めて私が勇者であること隠しててごめん」


 「気にしてないよ、寧ろ勇者だからこそリオに出会えた」


 「…そうだね」


 少しの静寂

 リオは足を止めて空を見上げた


 「私、嫌われてるんだ」


 勇者なのに?なんて口にしたら変だろうか


 「勿論"私としての友達"はサヤちゃんがいるけど、勇者としては応援してくれる人は沢山いるなか、よく思わない人も結構いるの…仕方ない事だと自覚はしてるんだけどね」


 「そ、そんなこと———」


 すると突然通りかかった男性が足を止めてこっちを見た


 「お前、約立たずで偉そうな勇者サマじゃん!」


 リオを見て毒づいた


 「約立たず…?」


 「ああそうさ、こいつはつい先日のオーバーロード種の討伐依頼で…ってお前は———」


 「…?」


 俺の顔を見るなり目を靴から頭まで上下に見ている…こうジロジロ見られるの気分が悪いな


 「お前———ガネイル=ホフマンの息子、アーネスト=ホフマンじゃねぇか?」


 「なっ…!?」


 そのアーネスト=ホフマンこと俺は本名を当てられ、驚いてしまった


 まさかコイツ、裏の世界の人か?


 「アーネスト=ホフマン…聞いた事ある。まさかアッシュが…?」


 リオまでも俺の本名に驚いている様子


 「はーはっはっは!!コイツはお笑いだ…!クズ同士でデキてたとはな!」


 流石にピキっときた


 「お、お前…俺に文句を言うのはいいけど、リオにまで———」


 「もういい…行こう?」


 そう言って俺の手を握り、強引にこの場を後にした…



 さっきの事もあり、お互い口を閉ざしたまま寝泊まりしている宿へ向かう


 無事に到着し、受付人にリオを部屋に招き入れる事の了承を得た

 更に父が部屋にいるか受付人に確認をし、戻っていないと言われた



 …泊まっている部屋に到着


 お邪魔します…とリオが部屋の中へ入り、備え付けの椅子に座らせ、父が戻る間リオと喋ることにする


 「君があのホフマンの息子、アーネスト=ホフマンなんだね…納得した」


 「僕らの名前はリオにも届いていたんだね」


 「うん…勇者だもの」


 勇者———昔、パーシヴァルと名乗る剣士が現れ、戦う事が決して得意でもないのに何度もモンスターと戦っては敗走し、傷が癒えたらまた挑み…何度も何度も戦っていくうちに強くなり、やがて勝利をもぎ取る。それを繰り返していくうち、魔王と戦えるまでに成長して、見事に魔王を討伐し…世界に平和をもたらした。そしてパーシヴァルを勇者と認定した


 勇者というのはそのパーシヴァルと、その血を引く者が勇者と呼ばれる


 その肩書きは並大抵のプレッシャーではない。人々を護り、クエストが発行されていればクリアし、困っている人がいれば助ける使命がある。失敗でもすれば、さっきみたいに理不尽にボロクソに言われるのだろう…


 「私、勇者である事を誇りに思うし、みんなの為に手伝いをしたり、クエストこなしていくの嫌じゃない」


 「うん」


 「でもそれって、私じゃなくてもできるから…だから結局私がやらなくても誰かがやってくれるなら、勇者(わたし)って意味あるのかな」


 「大ありじゃないか。だってリオが"誰か"なんだから…"意味ある誰か"なんだから」


 「…その言い回し、カッコいい」


 しょぼくれていたリオの顔がキラキラしだしたのもつかの間、再び俯いてしまった


 実感がないから…だろうか


 どれだけの人がリオに救われたか、話を聞いてるだけの俺でも想像はつくけど、クレーマーばかりを相手にしてきて、助けられた人たちの声を聞いていないから実感がないのではないだろうか


 ギルドでクエストを受けるあまりに…


 それでも、ギルドの利便性もあるのは間違いないし、どうにかリオにお前はスゴいやつだと実感を味合わせたい


 色々考えているうちに沈黙が続いてしまい、話しかけにくい雰囲気になってしまった…




 「私らしくもない」


 するとリオは両手で顔をペちん!と叩いた


 「私は闇の勇者…ブラックルーラー。全ての魔を払い、世界を黒に染めてやる」


 謎のポーズをし、不敵な笑みを浮かばせてこっちを見る


 変わってるけど気の強い子だっていうのが改めてわかった


 「ほんと…お前は勇者だよ」


 「フッ…」


 満足気に目を閉じ、玄関へ向かった


 「…君の父に会おうとしたけど、やめる」


 「ど、どうして?君を殺そうとしたのに」


 「問い詰めたところで、何も変わらないから」


 「…リオはそれでいいのか?」


 リオは小さく微笑んだ


 「こうして生きてるんだからそれでいい…お邪魔しました」


 ドアノブを回し、部屋から出ていった黒い少女


 俺はそれを黙って見送った

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