国家君主アルドは今日も国家の為にお嫁さんとイチャイチャする

ふなもり

序章

残された時間は少ない。


「アルド、私の最期の言葉を聞いてくれるか」

「何を言っているのです、父上。そのような弱音を吐かないでください。まだ父上にはこの国を治めていただかないと!」


やせ細った体、青ざめた父上の表情から理解できた。

しかし、その早すぎる終わりを俺は受け止めることが出来ず、自分に言い聞かせるように父上を励ました。


「お前の子供を見る前に逝ってしまうのはとても心残りだ」

「父上、まだ、希望を捨てないでください!」

「正直、要領がいいとは言えないし、勉強もサボってばかりで憂いはかなりある」

「父上!!!」

「だが、王としての在り方、力は充分に身につけさせたと思っている」

「父上っっ……!!!」


 頭の中が真っ白になっていた俺は父上の言葉など全く頭に入ってこず、ただ父に縋るだけだった。

 けれど、そんな中でも覚えていることはあった。


「アルド、私の代わりに、この国を、エルメをどうか盛り立てていってくれ」

「はいっ……命に代えても守り抜くと、誓います」


 父上は俺の拳に手を重ねる。握る力ももはやないのだと思うと、俺の拳を握る力はより強くなていった。心の中で、俺は父上に誓う。

——リーマ大陸の全てを見渡しても恥ずかしくないような誇れる国家にする。

 言葉にすれば、堪えていた涙が溢れてしまうだろうから、心の中で。


 それから間もなくエルメ国王グランズが亡くなった。収穫祭の前日、心地よい風が吹く暖かな日のことだった。

 死の間際の顔はひどく穏やかなものだった。

 


「遂にこの日がやってきたか」


 アルドは王城の窓から、外の様子を見下ろしながら呟く。


「父上、俺はあなたの期待に応えられているでしょうか」


 エルメ国王グランズが亡き後、アルドは齢17歳の若さで王に即位し、エルメのために力を費やした。父に立てた誓いを果たすために。

 アルドは勉強が嫌いだったので、難しいことはあまり分からなかった。それでも幼い頃からの忠臣と共に土地を開拓して、特産品を作り、国を守るための兵力を整えてきた。

 アルドの献身の甲斐もあり、民からは慕われ人口も増え、国に活気が出てきた。その評判は遠くの国にまで聞こえるほどである。


「不出来な息子を許してください……でも、俺は結婚などしたくないのです。相手とは会ったことも話したこともないし」


 若くして王につき、奮う才能は国を富ませ、その行動は名声として遠方にまで轟く。

 生き馬の目を抜くような世界の権力者たちは誰しも、才能ある若物を自分の手元に置いておきたいのが心情である。若さ、才能、名声、それらを併せ持ったアルドに舞い込むのは途方もないほどの縁談であった。

 しかしアルドは、来た縁談は全て断っていた。エルメの発展だけを考える上であまり重要ではなかったから。


「今はそんな色恋などよりもエルメのことを考えないといけないというのに」


 ファンファーレが聞こえる。城下に暮らす民は浮かれていた。笑顔が溢れ、いつにもまして賑わいを見せている。

 アルドは辟易しながらも、自分が今日結婚することを直視するしかなかった。


「それに一人ならまだしも三人も妻にするなんて!」

「陛下、婚姻前でナイーブになる気持ちは分かるけど、そろそろ式が始まるから準備をしておくれ」

 

 今まで腹の中で溜まっていた感情を吐き出すように、アルドはつい声を荒げてしまった。

 それと同時にフーリは部屋に入り、式の準備を催促した。


「そもそもお前が縁談を持ってこなければ俺はここまで悩むことはなかったんだ」

「はいはい、そうだね、私が悪いね」

「適当に流すのを止めろ!」


 フーリはアルドが幼い頃からの側近であり、アルドの足りていない頭脳労働をしている。そして今回の縁談を取り決めたのも彼女であった。

 彼女の提案ということもあって、アルドは今回の結婚式を取り決めたが、文句の一つは言わないと気が済まなかった。

 

「じゃあ、このまま結婚式取り消します?」

「一回言ったものを取り消すなんて恥ずかしいから出来る訳ないだろ!」

「んじゃ、あとはちゃちゃっと準備をよろしくお願いしまーす」


 アルドの言葉を聞いたフーリは計画が上手くいったときのような、いたずらっぽい笑みを浮かべて部屋を後にする。

 あまりの早い身のこなしにアルドは何も言うことが出来ず、立ち尽くした後、準備に取り掛かった。

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