◆包丁とナイフ

 まったりした時間を過ごし、お店を出た。

 愛海の機嫌もすっかり良くなった。

 ニコニコして俺の腕に縋りついていた。


「次はどうするかな」

「どこでもいいよ~。ラブホテルでもいいし」

「そ、それは無理だろ。お金もないし」

「じゃあ、家でする?」

「馬鹿。エロ方面は禁止だ」


「むぅ。だって、早くお兄ちゃんの初めて奪わないと、誰かに奪われちゃうもん」

「大丈夫だよ。その心配はない」


 安心させ、俺は足を進めた。この先にショッピングモールがある。その中にあるゲーセンにしよう。


 歩き始めると、曲がり角で見知った顔が現れた。



「やあ、待ってたよ」

「し、紫藤さん!?」



 ……嘘だろ、なんでこんなところに!!


 突然でびっくりしたぞ。



「あ、あなた……どうして」

「どうして? そんなの決まってる。早田くんが勝手に帰っちゃうから、追いかけてきたの。そこの邪魔者を排除する為にね」



 死んだ目で愛海を睨む紫藤さんは、包丁を向けた。……きょ、凶器を持っているだなんて。


 愛海は愛海でナイフを取り出すし……。



「先輩さん、もうお兄ちゃんに関わるの止めて」

「それは無理ね。早田くんがいないと、私……死んじゃうから」

「はぁ? 意味分かんない。お兄ちゃんは、わたしのお兄ちゃんなの!」


「私はね、早田くんに命を救われたの……」

「命を?」

「駅のホームから身を投げ出そうとしていたところをね」



 ……半年前、紫藤さんは死のうとしていた。そこを俺が止めたんだ。それ以来、話すようになって俺に依存するようになっていた。

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