◆ヤンデレvsヤンデレ

 昼食を終え、食堂を出た。

 人気の少ない裏庭へ向かうと、そこで紫藤さんとバッタリ会った。


「……待っていたよ、早田くん」

「し、紫藤さん。なぜここに」

「偶然だよ」


 本当かな。

 怪しいけどな。


「そうか、じゃ、俺は愛海とゆっくりするから……」


 俺の耳元では愛海が「浮気したら刺す」と囁いていたので、紫藤さんを誘うことは出来なかったというか……自殺行為だった。


 なので俺は紫藤さんをスルーしようとしたの――だが。



「愛海さん、早田くんを脅すのはダメでしょう」

「……っ! なによ、あんたに関係ないでしょ」

「関係はある。同じクラスだし、隣の席だもの」


「こっちは兄妹だもん」


「義理でしょ。血の繋がりのない兄妹じゃない」


 二人はバチバチと火花を散らして、今にも衝突しそうだった。俺は、ピリピリした空気感に負けて口すら動かなかった。……クソ、どうすりゃいい。


 だが、驚く光景が目の前にあった。


 あの愛海が涙を零し、目を腫らしていた。



「…………っ」



 愛海、まさか……。

 その瞬間、俺の中で怒りが芽生えた。紫藤さんのことは嫌いじゃない。でも、これはやりすぎだ。



「紫藤さん……!」



 しかし、直後――愛海が走って逃げてしまった。



「あらら。愛海さん、その程度だったんだ」

「紫藤さん、酷いじゃないか」


「酷いって何が。恋は遊びじゃないんだよ」

「……っ!」



 なぜか怒られて俺は言い返せなかった。とにかく、愛海を追いかけるべきだ。俺は踵を返して全力で走った。

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