◆仕込まれたGPS

 動揺しているとトイレに誰か入ってきた。



「ここにいるんでしょう、小野木おのぎさん」



 んなッ!

 紫藤さん、なんでここが分かったんだ。

 さすがの愛海も慌てていた。


「ちょ、なんで……」

「それより、そこに早田くんもいるの?」


「い、いるわけないでしょ。お兄ちゃんはもう教室へ向かった」

「それはありえない。だって、そこにいるって分かるもの」


 だから、なんで分かるんだよ!

 紫藤さんは超能力者か何かなのか!?


「くっ……」

「早くトイレから出た方がいい。私が叫ぶ前にね」


 ここまでか。

 俺は愛海に合図してトイレに出るよう指示した。残念がる愛海だったが、リスクは負えないと判断したようだ。


 だけど、トイレに出る前の十秒ほど――愛海は俺に必死に抱きついてきた。


 こうされると可愛げがあって困った。



 トイレを出ると、紫藤さんと目があって気まずかった。



「大丈夫。私は気にしないから」



 そう言ってくれたけど、そうなのか!?



「紫藤さん、このこと……」

「う~ん、早田くん次第かな。私とお話してくれるなら考える」

「分かった。それくらいでいいなら安いものさ」

「うん。じゃあ、教室で」


 余裕の表情で女子トイレを後にする紫藤さん。本当に、どうして俺たちの居場所が分かったのかな。


「あの女……まさか」

「どうした、愛海」

「お兄ちゃんちょっとカバン見せて」


「カバン?」


 愛海は俺からカバンを強引に奪い取り、中身をチェックした。なにも出てこないと思うが――出てきてしまった。

 見覚えのない小さな端末が。


「これ……GPSだよ」

「は!? GPSって位置情報を知れるヤツじゃん」

「そ。これでお兄ちゃんの居場所を把握していたんだ。だから、トイレにいるって分かったんだよ」


 ……ま、まさか紫藤さんも愛海と同じタイプ!?

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