◆背中にナイフ

 愛海は、カバンの中に手を突っ込んでいた。


 ……ま、まずい。


 あの中にはナイフが仕込まれているんだ。一歩間違えれば、殺人事件だぞ。



「お、おはよう、紫藤さん。こんなところで会うなんて偶然だね」

「偶然じゃないよ。待っていたの」

「へ……。誰を?」


「君だよ、君。早田くんを」


「…………ッ!」



 やば……愛海の表情が酷く曇る。

 だが、愛海は紫藤さんの前に立って睨みつけていた。



「おはようございます、紫藤さん。悪いんですが、お兄ちゃんは、わたしと登校するので」

「ええ。でも、私は今偶然ここを通りかかったので」


 ちょ、まて!

 さっきと言ってること違うぞ!

 俺を待っているって言ってなかったか……!?


 急に変わるとか、どういうことだ。


「意味わかんない。邪魔しないでよ」

「邪魔だとか、そういうのは早田くんが決めることです。ね?」


 ねって、言われても……ウーン。紫藤さんを邪険に扱うわけにはいかないし……。


「その、紫藤さんも――うわッ」


 背中にナイフを突きつけられている気がする……まさか!!

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