◆台所にある包丁

 学校を出て、家へ帰った。

 茜色に染まっているはずの空は、不気味に血の色を表現していた。……なんだか物騒な空だな。


 ――帰宅すると、なぜか両親は不在だった。


 テーブルの上には『父さんと母さんは旅行に行きます。しばらく帰ってこないので二人で生活してね』と置手紙があった。


 ……ちょ、マジかよ!!


 愛海と二人きりか。


 少し不安になるけど、愛海は笑顔だった。


「やったね、お兄ちゃん」

「そうだな。二人きりだなんて滅多にないよ」


「えっちなこといっぱいできるね」


 台所にある包丁を握る愛海。

 そんな風に脅されると怖いんですけど……。


「まてまて。俺たちの間柄に凶器はいらないだろ」

「だって、お兄ちゃん……すぐ浮気しちゃうもん。裏切ったら殺すしかないよね」


 イカン。

 紫藤と出会ってから、病み病みが酷過ぎるな。必殺・手繋ぎ!


「愛海、お兄ちゃんの言うこと聞け」

「……ぅ。うん」


 包丁を置いてくれた。

 ふぅ、刺されるところだった(汗)


 だが、そのタイミングでスマホが鳴った。鳴るはずのないスマホが!


 気づけば愛海は包丁を握っていた。


 ちょ、危ね!



「女じゃないって」

「……見せて。見せてくれないと信じられない」


「う、それは……待ってくれ」

「やっぱり、他の女なんだ……お兄ちゃん、浮気したんだ。浮気……浮気……。許さないよ、そんなことしたら絶対に許さない……」


 あわわわ……。

 頼むから女子ではないことを祈りたい。


 俺は恐る恐るスマホをチェック。


 すると――。



『言い忘れていたけど、お夕食はカレーだから温め直して食べるのよ~』



 と、母さんからメッセージがあった。



 だけど、その瞬間目の前に刃が――って、なんでええええええ!!


「愛海、母さんだ! 母さんからのメッセージだって!!」

「お母さんだって女じゃん!!」


「馬鹿。親だ。さすがに親ならいいだろ!?」


「…………むぅ。分かった」



 渋々納得する愛海。

 もう女なら、誰だろうと容赦ないってことか。恐ろしい妹めっ。



「それよりメシにしよう」

「うん、お兄ちゃんと一緒にご飯、楽しみ」



 とりあえず、セーフだな。

 俺はカレーを温め直した。

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