4、

 それからしばらくなんでもないことを話して、いつの間にか夜が更けていった。一時を過ぎたところでさすがに寝ようということになり、俺たちはそろって布団にもぐった。酔いのせいでふわふわしている高瀬は新鮮だった。今日の高瀬は俺の知らない顔をやたらと見せてくる。その度に嬉しいような、少し悔しいような気持ちになるのは、どうしてだろう。

「なあ、真崎」

 隣の布団から、高瀬が声をかけてくる。

「なんだよ」

「また読んでくれないか」と彼は本を渡してくる。

「もう一人で読めるだろ」

「真崎の声で、聴きたいんだ」

「甘ったれめ。飲みすぎだ」

 憎まれ口をたたきつつも、本を受け取ってしまうのだから、俺もたいがい人がいい。

 俺はおもむろに読み聞かせを始めた。数ページを読み終わらないうちに、高瀬は小さな寝息を立て始めた。俺は本をそっと閉じ、高瀬の安らかな寝顔を見下ろす。

 ――なあ、高瀬。

 俺も知らないことが怖いと思うことがある、と言ったら、彼は笑うだろうか。

 正確には、知りたい、と思うことが怖い。高瀬はどんな手の温度をしているのか。それ以外にも、言うに憚られることも含めて、知りたがる自分がいる。それが怖い。

 ――いや、正確には、それが受け入れられるかどうかが怖いのだ。

 臆病な俺は、寝ている高瀬を起こさないよう、そっと手のひらに触れる。彼の手はほんのりと温かい。その時、高瀬の手が不意に、俺の指を包んだ。いつの間にか起きていた高瀬は、俺を見て静かに笑った。

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高瀬、旅に出ないか 澄田ゆきこ @lakesnow

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