2、
大晦日の朝に待ち合わせ、夕方には宿についた。呆れたことに、高瀬は必要な荷物とは別に、本だけの鞄をぶら下げていた。中身は五冊ほど。これでも選りすぐった方なのだろう。何が「おれは本が好きじゃないかもしれない」だ。
新幹線の中でも、土産物屋が並ぶ観光街でも、高瀬はどこかそわそわとしていた。祖父と二人で部屋にこもりきりだった高瀬は、修学旅行くらいしか旅行の経験がない。高瀬は始終落ち着かない様子で、けれど今までになく楽しそうで、ようやく普段の様子に戻ったのは宿に着いてからだった。座椅子に座って煎茶を飲みながら、俺は言った。
「わかったろ。この世に俺たちが知らないことなんて山とあるんだ。すべてを知り尽くせるわけがない」
「うん。思い知った」と言って、高瀬はやっと穏やかな顔をした。
「疲れたけれど……楽しかった」
高瀬は小さく息をつき、微笑んだ。
「まだまだこれからさ。晩飯もあるし、風呂だって入ってない」
「そうか。まだ、あるのか」
高瀬が嬉しそうなので、俺もどこかほっとした心地だった。無理やり連れてきてしまったことで俺も緊張していたらしいと、その時ようやく悟った。
間もなく晩飯の時間が来た。食事処に行くと、「真崎様」と書かれた半個室に通される。卓上にはぎっしりと小皿が並んでいた。「こんなにあるのか」と高瀬が驚いていた矢先、さらに鮎の焼き物が運ばれてきて、高瀬はますます目を丸くした。おかしくて仕方ない。けらけら笑う俺を見て、「そんなに笑わなくてもいいだろ」と高瀬は頬を赤くし、不貞腐れた。
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