第6話

 摩耶さんと再会した入学式から、早二週間が経過した。奇跡とも呼べる運命的なイベントを乗り越えた俺と、その想い人である摩耶さんの関係は……一ミリたりとも進んでいなかった。


「……は? 嘘でしょ?」

 昼休み。もはやたまり場となった空き教室にて、アイネが信じられないかのような表情で俺を見つめる。その驚きようは本物で、メロンパンを食べる手が止まってしまうほどだ。ちなみにアレは俺が買ってきたものだ、立場的にもアイネには敵わないからな。

 まあそれはそれとして。

「えぇ、はい……自分でも信じられないと思っているのですが……」

 さすがの俺も申し訳なさで胸がいっぱいになり、つい敬語になってしまう。当然のことながらアイネの顔は見ることができない、「絶対に堕とす」と豪語しておいてこの結末だからな。

 しかしながらアイネは怒っていない……というか呆れていた。あんな引きつった顔のしたアイネは、それなりの付き合いの俺でも初めて見た。

「え、だって2週間よ? 2週間もあればもうやりたい放題でしょ? それこそ棒が擦り切れるくらいズ……」

「一応女の子なんだから言葉を慎もうな!」

 超えてはいけないラインを越えそうだったので、俺は即座にアイネの言葉を制す。いくら夢魔族同士の会話とはいえ、今は人間界で人間の姿で溶け込んでいる。もう少し女子高生らしい発言を心掛けてほしいものだ。

 ただその俺の行動にすら、アイネは苦言を呈す。もちろん止められたことに対してではない。

「……そんなんだから、あの女と一切関係が進められないのよ。これだから長年拗らせたヘタレは面倒ね」

「くっ……だいたい間違ってないから否定もできない……」

「どうせこの2週間、その女とイベントらしいイベントなんて起きていないのでしょ? ここまで関係が停滞しているからね」

 と、俺の性格を熟知しているアイネがそう決め付ける。客観的に考えてもそう思うのは当然のことだ。人間の間で流行っているラブコメマンガなら、毎日がイベントだらけだろうし。そう考えるとやはり物足りない気もする。

 だがしかし、そのアイネの決め付けに対し、俺は異を唱えたい。ただしこれ以上にないほど、悲しすぎる異ではあるが。

「い、いや……全くイベントがなかったわけじゃないぞ? 一回だけ惜しいところまではいったし……」

「ふん、どうかしら? どうせまた一緒に帰ったとか、お昼を一緒に食べたとか、そんなところでしょ?」

「残念ながらそんなんじゃないんだよ……アイネはドン引きするかもしれないけど、本当に惜しい場面があったんだよ」

「そ、なら話しなさいよ。昼休みは精気を吸い取るのに一番適した時間、その貴重な時間をユーマに割いてるの。面白くなかったら承知しないわよ」

「なんで面白さを期待してるんだよ……」

 あと聞きたくもなかった一流サキュバスのアイネの性事情が垣間見えた。確かに昼休みは高確率で姿が見えないと思っていたが、そんなことをしていたとは……情けない限りだけど、俺には真似できないな。

 まあいいや。とにかく今は俺の話だな。別に面白い話でも何でもない、気分としては自白しているのと同じ気分だった。

「……あれはつい一週間ほど前のことだったな……」

 思考を巡らせて、俺はその時のことをアイネに説明した。

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