癖になるスポーツジム
とらまる
癖になるスポーツジム
我が田舎町に
最近念願のスポーツジムがオープンした
とにかく
コンビニすらやっと最近1軒オープンしたような町だから
スポーツジムなど夢のまた夢
会社の健康診断でメタボを指摘されてから
仕方なく3駅隣のK市にあるスポーツジムまで車で出掛けていたのだから
徒歩で通えるこのスポーツジムのオープンは
何より嬉しい
ことある度にメタボ腹に嫌みを垂れている妻の洋子も
徒歩圏内で通えるスポーツジムが開店することを伝えると
一緒になって喜んでくれた
早速開店初日に出向いてみた
雑居ビルの2階
今まで友人のお父さんが経営していた洋服屋が入っていた場所だ
新型コロナの影響かどうかは知らないが
どうやら潰れてしまったのだろうな
中に入ると受付カウンターには筋肉ムキムキの若い男性が
満面の笑みを浮かべて対応してくれた
まずは体験入店からでも良いですよ、と言われたが
もうK市のジムまで通う気はサラサラ無いので
即契約
入会金は開店仕立てなので今なら0円
しかも2ヶ月間は無料
やったぜ、ラッキー
身長、体重、腹囲を計測して自分に合ったプランを考えてくれる
K市のジムではそんなことしてくれなかったぞ
先程受付にいた男性がインストラクターも兼ねているようで
中のフィットネスマシンの使い方を教えてくれる
これもK市のジムには無かったものが多い
最後に言われたのがミネラルウォーターが飲み放題
何でも身体に良いイオンをふんだんに取り入れてくれているらしい
素晴らしいね
もうマイボトルに水を入れて通わなくてもいいってことか
このジムで鍛えまくるぞ!
その日以後、松原国男は毎日、ジムに通い続けた
仕事が終わったら、即ジムに直行
休みの日は朝からジムに入り浸り
そんな努力のせいか
彼のメタボ腹はあっと言う間にシックスパックに変貌し
彼の上腕二頭筋、大腿四頭筋もボディビルダーのように肥大化した
会社内でも国男の身体の変貌に皆、驚き
中には彼の肉体美をインスタにあげる同僚まで現れた
妻の洋子はすっかり男らしくなった夫を惚れ直し
友達には夫の自慢話に明け暮れるようになった
そんな周りの変化を嬉しく感じた国男は
もっと、もっと鍛えたい
もっと、もっと筋肉をつけたい、と思うようになり
時には1日8時間以上もジムでトレーニングすることもあった
ジムに入会してから2ヶ月ほど経った頃だろうか
国男は仕事を休み、ジムに通う日々が多くなって行った
さすがにそれはやり過ぎだろう、と
会社の同僚や上司、そして妻の洋子も
ジム通いを控えるよう、国男に忠告したのだが
全く忠告を無視し
逆に彼のジム通いはますますヒートアップして行った
「おい、松原君。いい加減にしたまえ。
もう職場に10日間も来てないで丸1日ジムにいるだと?
どういうことなんだ!」
ついに社長に呼び出されて叱責された国男は逆上し
その鍛え上げた上腕二頭筋を思い切り社長の頭に振り下ろし
一撃で社長を絶命させてしまった
国男は今、警察病院に入院している
彼の体内から覚醒剤が検出され
その後遺症で深刻な腎機能障害が起こり
週3回の透析が必要になってしまったからだ
更に脳にも後遺症がみられ
記銘力、見当識障害が著しく
普段の会話も成立しない状況になってしまった
警察は覚醒剤の出所を調べるために
彼の通っていたスポーツジムを調べることにしたのだが
そのスポーツジムは
存在していなかった
彼の行ってた雑居ビルの2階
そこは1年前から空きテナントになっていた
どうやら彼はそこで延々一人で筋トレをしていたようなのだ
そしてその空きテナントの床には
数十本以上のペットボトルが転がっており
そこから覚醒剤が検出されたらしい
しかし一体誰が彼にその覚醒剤入りの水を飲ませたのか
一体どうやって実在しないスポーツジムを彼は知り、通ったのか
現在も分からないままである、という
癖になるスポーツジム とらまる @major77
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