その24「警報と強敵」
ヨータ
「やったな」
ティナ
「うん」
ヨータはティナに向かい、手を上げてみせた。
ティナも手を、高く上げた。
2人はハイタッチをした。
周囲の冒険者たちが、驚きの目で、2人を見ていた。
こんな若者たちが、中型ダンジョンを踏破したというのか。
ハッタリかと、疑った者も居た。
だが、2人が嘘をついているなら、他の誰かが名乗り出るはずだ。
名乗り出る者は、居なかった。
ヨータ
「コア、どうする?」
ボス討伐の証明が、2人の近くに落ちていた。
ティナは、それを拾い上げた。
ティナ
「ボクが貰っておいて良いかな?」
ティナ
「他のトレジャーは、君の取り分ってことで良いから」
ヨータ
「良いぞ」
ティナ
「ありがとう」
ヨータ
「んじゃ、帰るか」
ティナ
「うん」
2人は、スクーターに跨った。
そして、学校の駐車場へ帰った。
駐車場で、2人はスクーターをおりた。
ヨータがティナに話しかけた。
ヨータ
「明日はまた、家に帰るんか?」
ティナ
「うん。ヨータも……」
ヨータ
「金欲しいから、ダンジョン行くわ」
ティナ
「ダメだよ。1人なんて危ないよ」
ヨータ
「別に、深くまでは潜らんし」
ティナ
「絶対にダメ」
ヨータ
「けど、稼ぎたいしなあ」
ティナ
「だったら、ボクの知り合いで都合がつく人に、頼んでおくよ」
ティナ
「その人と一緒に行くこと。良いね?」
ヨータ
「面倒だが……仕方ねえか」
ティナ
「良し」
ヨータ
「んじゃ」
ティナ
「うん」
2人は、それぞれの寮に帰った。
やがて日付が変わり、日曜日になった。
朝、ヨータは装備を整え、駐車場へ向かった。
そして、人を待った。
……。
リイナ
「……………………」
ヨータ
「……よお」
現れたのは、ミユリ=リイナだった。
先日ヨータが、押し倒してキスした相手だ。
ヨータ
「ティナに頼まれたのか?」
リイナ
「ええ。ええ」
そう言ったリイナの顔は、苦渋で満ちていた。
ヨータ
「よく引き受けたな」
リイナ
「お姉様の頼みでなければ、あなたなんかと……!」
ヨータ
「なんか、悪いな」
ヨータは笑った。
もっと気まずくなるかと思っていた。
だが、実際に話してみると、そう悪い気分でも無かった。
リイナ
「何をニヤニヤしているんですか」
ヨータ
「スマイルは、コミュニケーションの基本だろ」
リイナ
「不愉快です。止めて下さい。息をしないでください」
ヨータ
「息はするが」
ヨータ
「後ろ乗るか?」
リイナ
「まさか」
リイナ
「自分のスクーターが有ります。そこで待っていてください」
ヨータ
「りょーかい」
2人は中型ダンジョンへ向かった。
リイナに配慮して、20層くらいの場所で、狩りをすることになった。
ビッグシマシマタヌキ
「タヌーッ!?」
ヨータの剣が、あっさりと魔獣を切り裂いていった。
リイナ
「……決闘の時よりも、強くなってませんか?」
リイナ1人であれば、苦戦する階層だ。
だがヨータには、まだまだ余力が有るように見えた。
ヨータ
「そりゃ、レベルが上がったからな」
リイナ
「今、おいくつですか?」
ヨータ
「60」
正確な数字では無い。
ヨータは自身のレベルを、四捨五入して答えていた。
リイナ
「ろく……」
リイナ
「この短期間で、そんなにレベルが上がるものなのですか?」
ヨータ
「『キス魔』のおかげかな」
リイナ
「…………」
リイナの瞳から、尊敬の色が全て失せた。
ヨータ
「睨むな」
リイナ
「お姉様に、いかがわしいことをしないで下さい」
ヨータ
「はいはい」
ヨータ
「『トレジャー化』」
ヨータは魔獣、ビッグシマシマタヌキを、魔石化した。
リイナは魔石を拾い、自分のリュックに入れた。
……。
リイナ
「そろそろリュックがいっぱいですね」
しばらく狩りをして、リイナがヨータにそう言った。
ヨータ
「この辺にしとくか」
リイナ
「分かりました」
ヨータ
「悪いな。荷物を持たせちまって」
リイナの後天職は、『聖騎士』。
前衛職だ。
本来なら、大荷物を持つポジションでは無い。
だが、今日のパーティには、後衛が居ない。
そしてヨータは、リイナよりも強い。
なので、リイナが荷物持ちになっていた。
リイナ
「いえ」
リイナ
「あなたに同行するだけで、レベルが上がりましたからね」
ヨータ
「そうか」
ヨータ
「また一緒に潜るか? 日曜にさ」
リイナ
「絶対に嫌です」
ヨータ
「ソーデスカ」
2人は、ダンジョンを出た。
そして、スクーターを発進させた。
そのとき……。
冒険者の腕輪から、高い音が鳴った。
ヨータは自身のスクーターを、リイナのスクーターに並走させた。
ヨータ
「今の、何だ?」
リイナ
「警報みたいですね」
ヨータ
「確認するか?」
リイナ
「はい」
2人は、スークターを止めた。
ヨータは腕輪を操作した。
すると空中に、赤いウィンドウが現れた。
ウィンドウの上部には、大きい字で、魔獣警報と表示されていた。
ヨータ
(避難勧告? 珍しいな)
ヨータ
「…………」
ヨータは、ウィンドウの細部に目を通した。
そうして事態を把握した。
ヨータ
(ダンジョンから、ユニークモンスターが射出された……?)
ヨータ
(位置が近いな)
ヨータ
(今日はティナが居ない。首を突っ込まない方が身のためか?)
ヨータがそう考えた、そのとき。
腕輪から、再び音が鳴った。
ヨータ
「…………!」
ヨータ
「救難信号……!?」
……。
時を少し遡る。
ヨータが狩りをしたのとは別のダンジョンに、ルナたちの姿があった。
ナミ
「有ったよ。階段が」
ルナたちが居る部屋には、次の階層への階段が有った。
ルナ
「これで40層クリアですね」
ルナ
(ミナクニさんが言っていた階層と、同じ……)
メイ
「まだ進むのか?」
ルナ
「いえ」
ルナ
「帰還しましょう」
ルナは冷静に疲労を測り、撤退を決めた。
3人は、ダンジョンを出た。
ナミ
「ふぃ~。疲れた~」
ルナ
「すいません。無理をさせてしまって」
ナミ
「ううん。3人で決めたことだしね」
3人は、それぞれのスクーターに乗った。
そして、査定所が有る小型ダンジョンに向かい、発進させた。
……。
同時刻。
自衛隊前線基地。
観測室。
観測士
「大型ダンジョンに、高魔力反応」
レーダーを見ていた観測士が、はっきりとした声で言った。
観測室長
「ダンジョンシードか?」
観測士
「いえ。この波長は、魔獣によるものです」
観測士
「大型ダンジョンから、ユニークモンスターが射出されます」
観測室長
「着弾予測地点は?」
観測士
「ダンジョンの密集地帯です」
観測室長
「警報を出せ」
観測室長
「すぐに周辺の冒険者を、非難させろ」
通信士
「了解!」
……。
ナミ
「え……?」
ルナたちの腕輪から、高い音が鳴った。
ルナたちは、廃墟となった住宅街で、スクーターを停止させた。
だがルナたちに、腕輪を見ている余裕は無かった。
地面が揺れた。
ルナたちの前方に、大型の魔獣が降り立っていた。
キマイラ
「…………」
その魔獣は、四足獣だった。
顔は、獅子に似ていた。
そして、背中からは山羊の頭が生えていた。
長い尻尾の先端は、蛇の顔になっていた。
その魔獣は、黒色のキマイラだった。
メイ
「黒いキマイラ……」
ルナ
「ユニークモンスター……!」
メイ
「やるぞ」
メイは、スクーターから下りた。
そして、大剣を構えた。
ルナ
「ですが……」
メイ
「どうせ逃げられん」
ルナ
「分かりました」
ルナが返事を終えるより前に、メイは前に出た。
大剣を手に、キマイラへと向かっていった。
ルナ
「闘炎」
ルナは呪文を唱えた。
補助魔術が、メイを強化した。
そしてルナは、自身の腕輪を操作した。
ルナ
「あまり魔力が残っていません!」
ルナ
「なるべく、傷を負わないように!」
ルナ
「救難信号は出しました!」
ルナ
「時間さえ稼げば、他の冒険者が駆けつけるはずです!」
メイ
「分かった!」
ナミ
「私も援護を……!」
メイとキマイラの、戦いが始まった。
メイは、キマイラの動きをよく見て、堅実に攻撃を与えていった。
ナミも弓矢を使い、キマイラに攻撃した。
だが、キマイラの頑丈さは、並みのボスを上回っていた。
メイの剣も、ナミの矢も、大して効いているようにも見えなかった。
キマイラ
「…………」
キマイラが、羽ばたいた。
巨体が空へと舞った。
キマイラは、ルナたちを見下ろした。
メイの剣は、空までは届かない。
キマイラの3つの顔、それらの口から、火炎が発生した。
炎は火の弾となり、地面へと向かった。
火の弾を吐き出したのは、1度ではない。
キマイラは何度も、火炎を撒き散らした。
ルナたちは、それを必死によけた。
だが、一方的な攻撃をうけていれば、いつかは限界が来る。
ナミ
「あっ……!」
ナミの脚を、炎がかすった。
ナミは火傷を負い、倒れた。
倒れたナミに、キマイラはさらに火の弾を放った。
その火の弾には、強い力がこめられていた。
雑に撒き散らされたものとは、違う。
止めを刺すための技だ。
直撃すれば、ただでは済まない。
メイ
「くっ……!」
メイはおもいきり、地面を蹴った。
跳躍。
火の弾の、進路へ。
ナミと火の弾の、間へ。
メイ
「『ドラゴンオーラ』ッ!」
メイはスキルを用い、守りを固めた。
そして、火の弾の直撃を受けた。
メイの体が、爆炎に包まれた。
高熱が、メイの体を焼いていった。
メイ
「ぐっ……!」
メイ
「力を……」
メイ
「力を寄越せえええええええっ!」
___________________________
オオバ=メイ
天職 竜人 レベル1
スキル1 ドラゴンオーラ
効果 使用者の身を守る闘気を発生させる
命題 魔獣から一定のダメージを受ける
後天職 戦士 レベル37
___________________________
___________________________
オオバ=メイ
天職 竜人 レベル2
スキル1 ドラゴンオーラ
効果 使用者の身を守る闘気を発生させる
スキル2 ドラゴンブレス
効果 炎のブレスを放つ
命題 魔獣から一定のダメージを受ける
後天職 戦士 レベル37
___________________________
メイの体が輝いた。
メイを襲っていた火炎が、かき消された。
メイはボロボロになりながら、敵を睨みつけた。
視線で敵を射抜いたまま、スキル名を唱えた。
メイ
「『ドラゴンブレス』!」
メイの口から、火線が放たれた。
それは直径4メートルほどの太さになり、キマイラへと向かっていった。
キマイラ
「…………!」
キマイラの体か、ブレスに飲み込まれた。
高熱が、キマイラを焼いた。
そして……。
ブレスが消えた後には、何も残らなかった。
ブレスがキマイラを、焼き尽くしたらしい。
メイは自身の勝利を見届けると、地面に着地した。
メイ
「つっ……」
ルナ
「凄い……!」
ナミ
「さすがメイちゃんだよ!」
ルナが、メイに駆け寄った。
ナミも、足を引きずりながら、メイに近付いていった。
メイは、勝利の笑みを浮かべようとした。
メイ
「ははは……」
メイ
「疲れ……た……」
メイの体に、余力は残っていなかった。
ただでさえ、ダンジョンの攻略で疲弊していた。
そこへスキルを使用した。
消耗の激しい、強力なものだった。
もう限界だった。
メイはナミの方へ倒れ、意識を失った。
ナミはメイを抱きとめた。
ナミ
「メイちゃん……!」
ルナ
「落ち着いて下さい。呼吸は安定しています」
ルナ
「今、回復呪文をかけますね」
ルナ
「癒霧」
ルナは呪文を唱えた。
メイとナミが、癒しの霧に包まれた。
そのとき。
ナミ
「あ……」
ナミが呻いた。
ルナ
「オオクサさん?」
ナミ
「後ろ……」
ナミは、ルナの後方を指差した。
ルナ
「え……」
ルナは振り向いた。
そこに……。
キマイラ
「…………」
もう1体のブラックキマイラが、出現していた。
キマイラは、50メートルほど先から、ルナたちを見ていた。
ナミ
「2体目……」
絶望的な状況だった。
ルナとナミでは、ブラックキマイラには勝てない。
そして、メイはもう戦えない。
ルナ
「オオクサさん。彼女を安全な所へ」
ルナはキマイラに向かい、金属製の杖を構えた。
ナミ
「けど……」
ルナ
「敵が来ます」
ルナ
「言い争っている時間は、有りませんよ」
ナミ
「っ……!」
救助が来る気配は、無かった。
このままでは、3人とも死ぬ。
ナミはメイを抱え、走り出した。
キマイラとは逆の方向へ。
キマイラ
「…………!」
ナミたちを逃がすまいと、キマイラが飛び上がった。
それを見逃さず、ルナは呪文を唱えた。
ルナ
「白閃」
ルナの杖から、強い光が放たれた。
キマイラ
「…………!」
目が眩んだキマイラは、地面へと着地した。
キマイラ
「グルゥゥゥ!」
キマイラはルナを睨み、唸った。
ルナ
「怒りましたか?」
ルナ
「そうこなくては」
ルナは杖を、キマイラの鼻先に向けた。
キマイラ
「グァウッ!」
キマイラが、大地を蹴った。
そして前足で、ルナに襲い掛かった。
ルナ
「っ!」
ルナはステップで、敵の前足を回避した。
2度、3度。
キマイラは、前足での攻撃を重ねてきた。
ルナはその全てを、かろうじて回避した。
そのとき……。
キマイラはぐるりと、尻をルナの方へ向けた。
ルナ
「あっ……!?」
何かに打たれた。
そう思った次の瞬間には、ルナは倒れていた。
ルナは仰向けに倒れ伏しながら、攻撃の正体を察した。
ルナ
(尻尾……)
キマイラの尻尾である蛇が、じっとルナを見ていた。
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