その20「決着と『サンダーキス』」
ヨータ
(いや。言いがかりでもねーか?)
ヨータ
(やることはやってるわけだしなあ……)
ティナはヨータのキスに関して、友情の行為だと言っていた。
ヨータは、そんな風には割り切れなかった。
これは友だちとの、スキンシップだ。
そう思い込もうともした。
だが……。
ドキドキしてしまう。
なるべく平然と、振舞ってはいる。
それは、表向きだけのことだ。
ティナとキスをする時、ヨータは平常心では、いられなかった。
ティナはまるで、挨拶のようにキスをしてくる。
ヨータの内心は、それを挨拶で済ませることは、出来なかった。
ティナの唇も、四肢も、胸も、全てが柔らかい。
女の体だ。
それは、ヨータの男の部分を、惑わせる。
ヨータの中には、確かな情欲が有った。
ティナはヨータのことを、親友だと言ってくれる。
そんな親友に対し、ヨータは性欲を抱いてしまっている。
ティナは優しい。
だから、ヨータの気持ちを知っても、許してくれるかもしれない。
そう思いつつも、後ろめたさが有った。
止めようとは言えなかった。
ティナを突き放せば、ヨータは1人になってしまう。
それに、ティナとのキスは、気持ち良かった。
快楽が有った。
性に根ざした快楽が。
自分はティナとのキスを、楽しんでいる。
それを否定することは、ヨータには出来なかった。
ヨータ
(『キス魔』ってのも、名前だけのことじゃ、無くなっちまったなぁ……)
リイナ
「それとですね」
ヨータ
「ん?」
リイナ
「あなたにだって、勝ちの目は有ったはずなのですよ?」
ヨータ
「何だそりゃ?」
リイナ
「知りたいですか?」
ヨータ
「まあな」
リイナ
「ならば、教えてさしあげましょう」
リイナ
「あなたの仲間が持ってきた剣は、魔力を持った魔剣でした」
ヨータ
(『元』仲間な)
リイナ
「あの剣が有れば、あなたでも、魔術攻撃が可能だったはずです」
リイナ
「あなたは自身の勝機を、みすみす捨ててしまったのですよ」
ヨータ
「分かってたなら、教えてくれよ。ケチだな」
リイナ
「敵のあなたに、そこまで教える義理が、有りますか?」
ヨータ
「無いがな」
ヨータ
「こうやって、勝ち確定の状況になったら、べらべらと喋って下さるわけだろ?」
ヨータ
「お前ってさ、なんかなぁ……」
ヨータは、残念なモノを見るような目を、リイナに向けた。
リイナは強い視線を、ヨータに返した。
リイナ
「あなたが足りてないのを棚に上げて、私を非難するのは止めて下さい」
リイナ
「さあ! 決着をつけさせていただきます!」
ヨータ
「…………」
リイナはヨータに、斬りかかった。
ヨータは、リイナの剣を防いだ。
そして考えた。
ヨータ
(別にルールは守ってるし、悪いことしてるわけでも無いんだが……)
ヨータ
(これがオオバなら、剣だけで戦ってくれただろうな)
ヨータ
(いつも堂々としてて、『竜人』って呼ばれるのに相応しい奴だ)
ヨータ
(学者肌のティナは、『賢者』になった)
ヨータ
(ちょっとジメっとしたコイツが『呪術師』)
ヨータ
(納得が行くんだよな)
ヨータ
(皆の天職に、納得が行っちまう)
ヨータ
(それなら……)
ヨータ
(『キス魔』っていうのは……俺の本性なのか……?)
ヨータ
(ティナ……俺は……)
ヨータの背が、硬い何かに触れた。
結界。
2人の戦士を囲む、半透明の障壁だった。
戦闘場の、端だ。
ヨータはいつの間にか、追い詰められていたらしい。
リイナ
「追い詰めました!」
ヨータ
「ああ……」
ヨータ
「追い詰められちゃったな」
ヨータは薄く笑った。
形勢は不利だ。
立て直すには、反撃するしか無い。
だが、迂闊に反撃すれば、スキルを受ける危険性が有った。
ヨータのHPは、3分の1しか残っていない。
もう1度、まともに『倍返し』を受ければ、ヨータの敗北が決まる。
ヨータ
(負けるのか)
ヨータ
(負けたら……何だっけ?)
ヨータ
(ああ……ティナがパーティから抜けるんだったか)
ヨータ
(元通りだな)
ヨータ
(パーティから抜けるってだけで、絶縁するってワケでもねえし)
ヨータ
(元通り、1人パーティになるだけだ)
ヨータ
(ティナとキスをする必要も、無くなるだろうな)
ヨータ
(良いのか……?)
ヨータ
(俺はこいつに負けても……良いのか……?)
ヨータは力の無い目で、リイナを眺めた。
リイナは剣を振り上げた。
リイナ
「覚悟してください!」
ヨータ
「そうするかな……」
次の1撃を、受けてしまおうか。
ヨータがそう考えた、そのとき……。
ティナ
「負けるなああああああああぁぁぁっ!」
どこからか、ティナの叫びが聞こえた。
ヨータ
「っ!?」
ヨータの全身に、気が漲った。
リイナ
「あっ……!」
ヨータは反射的に、リイナの剣を弾いていた。
リイナは体勢を崩し、1歩下がった。
ヨータ
(ティナ……? どこだ……?)
ヨータは視線を走らせた。
ヨータ
「ああ、後ろか」
ヨータはすぐ背後に、ティナの姿を発見した。
ティナは両手を、半透明の障壁に当てていた。
そして、その先のヨータを、じっと見ていた。
その両目は、涙で潤んでいるように見えた。
ティナ
「ヨータ……」
ヨータ
「泣いてんのか? お前」
ティナ
「泣いてないけど……」
ティナ
「そんな奴に負けたら……一生許さないからな……!」
リイナ
「そんなやつ!?」
そんなやつ呼ばわりされ、リイナは精神ダメージを受けた。
2歩3歩と、後ろに下がってしまった。
そんなリイナを気にせず、ヨータはティナに声をかけた。
ヨータ
「なあ、お前さあ……」
ヨータ
「もう、俺に借り無いよな?」
ティナ
「借り……? 何の話だい?」
ヨータ
「俺は昔、お前たちを魔獣から助けた」
ヨータ
「けど、お前もこのあいだ、俺が死ぬところだったのを、助けてくれたよな」
ヨータ
「だからさ、もう気にしなくても良いんだぞ?」
ヨータ
「命の恩人だとか、気にしなくても良いんだ」
ティナ
「そう?」
ヨータ
「そう」
ティナ
「つまりこれで……」
ティナ
「ボクたちは、対等な親友だってことだね」
ヨータ
「……………………」
ヨータ
「お前さ……」
ティナ
「なに?」
ヨータ
「どうして俺と居るんだっけ?」
ティナ
「そんなの、親友だからに決まってるだろう?」
ヨータ
「親友って言うけどな……」
ヨータ
「俺は……お前とキスするとき、興奮してる」
ティナ
「えっ?」
ヨータ
「ドキドキするし、気持ち良いなって思ってる」
ティナ
「そうなんだ? ありがとう」
ヨータ
「ありがとうって、お前……」
ヨータ
(変な奴だな。ホントに)
ヨータ
(……まあ良いか)
ティナ
「何?」
ヨータ
「別に」
ヨータ
「ちょっと勝ってくる」
ティナ
「うん」
ティナ
「頑張れ。親友」
ヨータ
「おう」
ヨータは1歩、前に出た。
ヨータ
「悪いな。中断させて」
ヨータはリイナに声をかけ、剣先を向けた。
リイナ
「あがががががが……」
リイナは、小刻みに震えていた。
ヨータ
「ダイジョブ?」
リイナ
「ダダダダダイジョブです」
ヨータ
「ちょっと休むか?」
リイナ
「へへへ平気です」
リイナ
「あなたの剣が、私に通用しないことは、変わりがありませんから」
ヨータ
「そのことだけどな」
ヨータ
「先に謝っとくわ。ごめんな」
リイナ
「えっ?」
ヨータは剣を、片手で構えた。
そして、スッと前に出た。
リイナはそれを、剣で迎え撃とうとした。
ヨータはリイナの剣を、自身の剣で受けた。
そして……。
リイナ
「あっ……」
リイナの喉から、短い声が漏れた。
ヨータの義手が、リイナの手首を引いていた、
リイナの重心が崩れた。
ヨータはリイナの脚に、自分の足を引っ掛けた。
リイナは仰向けに、転ばされた。
ヨータは即座に、リイナにのしかかった。
そして、リイナの上に、馬乗りになった。
マウントポジションだった。
ヨータ
「お前の剣は軽い。片手でも受けられる」
ヨータ
「だから、空いた方の手は、こうして攻撃にも使えるんだ」
リイナ
「っ……! これで勝ったつもりですか!?」
リイナ
「スキルを攻略出来ていないという事には、変わりが無いではありませんか!」
ヨータ
「ホント、ごめんな」
そう言って、ヨータは頭を下げた。
そして……。
リイナ
「えっ……?」
ヨータの唇が、リイナの唇に重なった。
リイナ
「む~~~~~~~~~~っ!?」
リイナは口を塞がれ、声にならない悲鳴を上げた。
ヨータ
(『サンダーキス』)
ヨータはスキルを使用した。
リイナ
「っ!?」
リイナ
「ぎいいいっ!?」
リイナの全身に、電流が走った。
訓練場のシステムのおかげで、肉体的なダメージは無い。
だが衝撃が、リイナの体を激しく揺らした。
リイナのHPゲージが、ゼロになった。
電子音と共に、結界が消えた。
2人を囲んでいた壁が、無くなった。
ヨータはリイナの上から、立ち上がった。
そして、リイナを見下ろして、言った。
ヨータ
「俺の勝ちだ」
ヨータは、勝者の笑みを浮かべた。
だが……。
リイナ
「う……」
リイナ
「うええええええぇぇえぇぇんっ」
リイナは大声で、泣き出してしまった。
ヨータ
「お、おい……!」
ヨータは慌てた。
リイナ
「変態にキスされたあああぁぁぁ」
ヨータ
「だから、悪かったって……」
ティナ
「サイテーだね。ヨータ」
ヨータ
「えっ?」
ヨータが後ろを見ると、ティナの姿が有った。
味方であるはずのティナが、ヨータを睨んでいた。
ルナ
「やはり……」
ティナの周りに、ルナたちも近付いてきていた。
ルナもヨータに、冷めた視線を送っていた。
ルナ
「オニツジさんを追放したのは、正しいことだったのですね……」
ヨータ
「えっ……」
四面楚歌だった。
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