その19「試合開始とリイナのスキル」
メイ
「剣は折れることもある」
メイ
「予備が有っても困らんだろう」
ヨータ
「かもな」
ヨータ
「けど、良い剣だったら、埃を被せとくのも、もったいないだろ」
ヨータ
「誰か、欲しい奴にやれよ」
そう言って、ヨータはルナたちに背を向けた。
そして、リイナの前へと戻った。
ルナ
「…………」
リイナ
「私、負けないんですけど?」
リイナは心外だ、といった様子だった。
リイナ
「素直に貰っておいたらどうですか?」
ヨータ
「そうかよ」
ヨータ
「じゃ、負けたら貰うわ」
ヨータ
(ティナが抜けたら、いつもの剣じゃ、辛くなるだろうしな)
ヨータ
(俺は1人じゃ、『エナジーキス』を使えねえ)
リイナ
「どうぞ。もらってあげてください」
ヨータ
「ん」
ヨータ
「待たせて悪いな。始めるか」
リイナ
「良い剣を、使わなくて良いんですか?」
ヨータ
「使い慣れてる方が良い」
リイナ
「そうですか」
リイナ
「ホンゴウさん。試合を開始してください」
リイナはカズヤに、声をかけた。
カズヤ
「あいよ」
戦闘場の外縁に、台が有った。
高さ90センチほどの台だ。
カズヤは、その台の前に立った。
台の上部は、機械になっていた。
ただの電子機械では無い。
魔導機械だ。
台の機械部分に、多数のスイッチが見えた。
カズヤは、機械のスイッチを押した。
すると、戦闘場が、結界に包まれた。
薄い半透明の青が、ヨータとリイナを囲んだ。
2人の隣に、縦長の『HPバー』が、表示された。
模擬戦が始まった証だった。
模擬戦中は、肉体のダメージを、訓練場のシステムが、肩代わりしてくれる。
おかげで、全力で戦っても、怪我をすることは無い。
その代わりとして、ダメージ量に応じ、HPバーが減少する。
そして、どちらかのHPが0になったとき、試合は決着となる。
先にHPが無くなった方が負け。
試合のルールは、単純明快だった。
ヨータもリイナも、ここで戦うのは、初めてでは無い。
ルールは把握していた。
2人は慣れた様子で、剣を構えた。
そしてお互いに、剣先を向けた。
ティナ
「ヨータ! 負けたらダメだよ!」
ティナは真剣な表情で、声援を飛ばした。
ヨータは軽い微笑で、ティナに答えた。
ヨータ
「ああ。なるべくな」
リイナ
「いよいよ年貢の納め時ですね。『キス魔』さん」
ヨータ
「年貢て。可愛い顔して、言い回しがババ臭いな」
ヨータはへらへらと笑いながら、リイナを挑発した。
先に煽ってきたのは、向こうの方だ。
これくらいなら、許されると思っていた。
リイナ
「ババ……!?」
ヨータ
「それと、俺の名前はオニツジ=ヨータだ」
ヨータ
「『キス魔』じゃねえよ。飛び級ちゃん」
リイナ
「私も、飛び級ちゃんなんて名前じゃ、ありませんよ」
リイナ
「ミユリ=リイナです」
ヨータ
(知ってるけどな)
ヨータ
「自己紹介どうも」
ヨータ
「行くぜ」
リイナ
「来なさい!」
ヨータは前に出た。
最短で、一足一刀の間合いにまで詰めた。
そこから、さらに一歩を踏み込んだ。
リイナ
「…………!」
リイナが剣を振った。
ヨータは自身の剣で、リイナの剣を受けた。
リイナ
「止めた……!?」
ヨータ
(そりゃ止めるだろ。何を驚いてんだ? こいつは)
リイナ
「っ……!」
リイナは2撃目を放ってきた。
ヨータはそれも、難なく受けてみせた。
ヨータ
「ほらよ」
リイナ
「くっ!」
今度はヨータが斬りかかった。
リイナはそれを受け、反撃をしかけた。
斬り合いが始まった。
ヨータは最初、防御を優先して、相手を観察していた。
それから徐々に、剣の速度を増していった。
リイナ
「っ……!?」
リイナは押されはじめた。
剣士として、リイナはヨータの下だった。
リイナ
「あなたは……!」
リイナ
「『トレジャーハンター』では無いのですか……!?」
ヨータ
「そうだが?」
リイナ
「だったらこの剣は……!?」
あらゆる面で、リイナはヨータに圧倒されていた。
一撃の重さも、それに含まれた。
技だけでは無い。
力でも、敵わない。
リイナはヨータと斬りあっていて、そう感じざるをえなかった。
『トレジャーハンター』は、前線向けのジョブでは無い。
一方で、リイナのジョブは、『聖騎士』だ。
『聖騎士』は、純粋な前衛職である『戦士』よりは、パワーで劣る。
だが、『トレジャーハンター』よりは上のはずだった。
なのにどうして、パワー負けしてしまうのか。
リイナには理解出来なかった。
ヨータ
「レベルは俺の方が上だと思うぞ。たぶん」
__________________________
オニツジ=ヨータ
後天職 トレジャーハンター レベル29
___________________________
リイナ
「ジョブチェンジしたばかりでは無かったのですか……!?」
ヨータ
「ティナが手伝ってくれたからな。レベル上げ」
リイナ
「だからって……! ちょっとレベルが高いくらいで……!?」
今生じている戦力差は、ジョブの差では無い。
ミユリ=リイナとオニツジ=ヨータの差だ。
リイナはそれに気付きつつも、認めたくは無かった。
ナミ
「勝っちゃいそうだね。オニツジくん」
戦闘場の外縁部で、ナミが口を開いた。
右隣のメイが、ナミに答えた。
メイ
「ふむ。ここまで力を取り戻していたか」
全盛期の7割。
メイの目には、ヨータの動きが、それくらいに見えた。
それだけ動ければ、剣術という1点に限れば、1年生に敵は居ないだろう。
ここに居る自分を除いては。
メイはヨータの実力を、そう評価していた。
ルナ
「取り戻す……? どういうことですか?」
メイ
(別に良いか。話しても)
メイ
「今のあいつは、『トレジャーハンター』だ」
ルナ
「えっ……!?」
ルナ
「どうしてそんなことに……!?」
メイ
「パーティには1人、『トレジャーハンター』が必要になる」
メイ
「それだけの話だ」
ルナ
「オニツジさんは、もう新しいパーティを見つけたのですね」
ルナはメイと違い、ヨータの近辺を、把握してはいなかった。
直接話しかけるには、勇気が欠けていた。
周りをコソコソ嗅ぎまわるのも、彼女の性分には合わなかった。
メイ
「そのようだな」
ルナ
「ですが、そのパーティの連中は、どうやらとんでもない無能のようですね」
ルナ
「剣技に優れたオニツジさんを、『トレジャーハンター』にするなんて」
ルナ
「いったいどこの愚か者ですか? そのような判断をしたのは」
ルナは、顔も知らないヨータの仲間に、嫌悪の情を向けた。
メイ
「…………」
メイ
「ヨソのパーティの話だ。私たちが干渉するようなことでも無いだろう」
ルナ
「それは……」
ルナ
「そうですけどね」
ナミ
「けど、凄いね。『トレジャーハンター』になっても、あんなに強いなんて」
メイ
「そうだな」
メイ
「だが、あれがオニツジの限界だと云うのなら……」
メイ
「オニツジは、負けるぞ」
ルナ
「えっ……!?」
リイナ
「あっ……!」
ヨータの剣が、リイナの体勢を崩した。
リイナに、致命的な隙が出来た。
ヨータ
「もらった……!」
ヨータは、リイナの左肩に、斬りかかった。
リイナは、それを防ぐことが出来なかった。
ヨータの剣が、リイナの肩を打った。
直撃だった。
だが……。
ヨータ
「ぐっ……!?」
攻撃を当てたはずの、ヨータの体が弾き飛ばさた。
ヨータは地面に転がり、すぐに立ち上がった。
HPバーの、3分の2ほどが消滅していた。
リイナの剣を、受けたわけでは無い。
だが、ヨータのHPは、残り3分の1となっていた。
ヨータ
(バリア……? いや……)
ヨータ
(攻撃した剣じゃなくて、肩に衝撃が来た。これは……?)
ヨータ
「こっちの攻撃を、そのまま俺に返したのか」
ヨータはリイナの左肩に、自身の剣を当てた。
そして、ヨータが衝撃を受けたのは、自身の左肩だった。
攻撃を当てたのと、同じ場所に、ダメージが来た。
つまり、こちらの攻撃が、ただ弾かれたのでは無い。
リイナはもっと別のロジックで、ヨータに反撃を仕掛けてきた。
ヨータはそう判断した。
リイナ
「その通りです」
ヨータ
「そっちも、ダメージは受けてるみたいだな?」
リイナ
「そうですね。あなたの半分ほどですが」
リイナのHPバーは、3分の1、減少していた。
残りのHPは、3分の2。
ヨータの倍のHPが、残っていた。
ヨータ
「スキル。天職の力か」
リイナ
「ええ。ええ」
リイナ
「これが私の天職、『呪術師』のスキル。『倍返し』です」
ヨータ
(レアクラスか)
ヨータ
「陰湿そうな天職だな」
ヨータは率直な感想を述べた。
リイナ
「『キス魔』に言われたく無いんですけど!?」
ヨータ
「ごもっともで」
ヨータ
「しかし、参ったな」
ヨータ
「こっちが何をやっても、スキルで倍にして返されるわけか?」
リイナ
「いえ」
リイナ
「私が『倍返し』出来るのは、物理攻撃だけです」
リイナ
「魔術による攻撃は、『倍返し』の対象にはなりません」
ヨータ
「俺は『トレジャーハンター』だ。攻撃魔術なんざ、ロクに使えやしねえ」
リイナ
「でしょうね」
ヨータ
「俺がそのスキルを、攻略出来ないって知ってて、決闘を挑んできたわけだ」
ヨータ
「やっぱり陰湿じゃねえか」
リイナ
「限られたルールの中で勝利条件を満たしただけなんですけど!?」
ヨータ
「見事な戦術だと、感心はするがな」
ヨータ
「剣で完敗して、スキルでやり返すだけ」
ヨータ
「それで楽しいか?」
リイナ
「っ……」
リイナ
「楽しいとか、楽しくないとかではありません」
リイナ
「この戦いは、あなたがお姉様に相応しくないと、分からせるためのものです」
リイナ
「分からせバウトです」
リイナ
「剣の優劣を競う戦いでは、ありません」
ヨータ
「相応しくない……ねえ」
ヨータ
「ダンジョン攻略のペースは、それなりのモンだぞ」
ヨータ
「俺たちの相性は、悪くないと思うんだがな」
リイナ
「相性って……」
ヨータ
「何だよ?」
リイナ
「あなたが言うと、なんだか卑猥に聞こえます」
ヨータ
「言いがかりひでえな!?」
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