その15「昼食と思い出」
30層。
ヨータとティナは、2体のスモールメタルゴーレムと対峙した。
スモールという名の通り、その身長は、120センチほどしか無い。
だが、その体は硬く、魔術を使わずに倒すのは、困難だった。
ティナ
「ボクが呪文で……」
ヨータ
「オラアッ!」
ティナが言い終わる前に、ヨータが前に出た。
ヨータはゴーレムへ、思いきり斬りかかった。
ヨータの剣が、ゴーレムを強く打った。
硬いゴーレムの体が、砕け散った。
見事な1撃だった。
だが……。
ヨータ
「また折れた!?」
ヨータの剣は折れ、刃が地面に突き刺さった。
前回のボス戦に続き、2本目だった。
ティナ
「やっぱりゴーレムを相手に、剣で攻撃するものではないね」
まだ敵が、1体残っていた。
ティナは杖先を、ゴーレムに向けた。
ティナ
「残りは代わるよ」
ヨータ
「ちょっと待ってくれ」
ティナ
「うん?」
ティナは攻撃を止めることにした。
そして、ヨータの動きを見守った。
ヨータは地面を蹴り、サッとゴーレムに詰め寄った。
そして……。
ヨータはゴーレムの頭に、キスをした。
ヨータ
(『サンダーキス』)
ヨータは心中で、スキル名を唱えた。
ゴーレムの全身に、電撃が走った。
ゴーレムは、煙を吐いて倒れた。
そして、動かなくなった。
ティナ
「スキルを試したんだ?」
ヨータ
「ああ」
ヨータ
「射程が短い分、威力は有るみたいだな」
ティナ
「そうでもないと、使い道が無いからねえ」
ヨータ
「あと、相手の口にしなくても、発動する」
ティナ
「良かったね。マウストゥマウスじゃなくて」
ヨータ
「ホントにな」
ヨータ
「まあ、使わんと思うけど」
ティナ
「どんな感じ? ゴーレムにキスするって」
ヨータ
「硬い。あと冷たい」
ティナ
「だいたい想像通りだね」
ティナ
「それで、これからどうするの? 剣が無くなっちゃったけど」
ヨータ
「予備が折れたから、買いに行かないとな」
ティナ
「それじゃ、一緒に行こうよ」
ヨータ
「ああ」
2人は、中型ダンジョンを出た。
このダンジョンには、査定所が無い。
なので、小型ダンジョンに寄り、そこの査定所を利用することにした。
トレジャーを納品すると、2人の腕輪に、電子マネーがチャージされた。
ヨータはレシートを見て、報酬金額を確認した。
ヨータ
(小型ダンジョンの時より、儲けが良いな)
ヨータ
(……剣の買い直しで消えちまうけど)
ヨータ
(その場のノリで、剣を折っちまうなんてな)
ヨータ
(雑になったな。俺)
2人は、学校へ帰還した。
そして、寮で着替えて、また駐車場に向かった。
2人で、冒険者向けの、ショッピングモールへ向かった。
そして、武器屋に入った。
店内には、武器がずらりと並べられていた。
剣、槍、斧など、品揃えは豊富だ。
銃は無かった。
役に立たないわけでは無いが、値段を考えると、それほど有用でも無い。
弾を1発撃つごとに、出費が発生する。
利益の少ない小型ダンジョンで使えば、大赤字になる。
それに、射程が長い銃器は、誤射の可能性も高い。
他のパーティに流れ弾が飛べば、冗談では済まされない。
魔術やスキルに頼った方が、賢明だと言えた。
ヨータの目当ては剣だ。
剣のコーナーに直進した。
そして、並べられた剣を、見比べてみた。
ティナ
「気に入ったのは有ったかな?」
ヨータ
「うーん……」
ヨータ
「見た目が気に入ったのなら、有るんだが……」
ヨータ
「良さそうなのは、やっぱり値段がなあ」
ティナ
「ボクが出してあげようか?」
ヨータ
「えぇ……?」
ティナ
「ほら、この前は、コアを譲ってもらったしね。その代わりだよ」
ヨータ
「いや。止めとく」
ヨータ
「さすがに、そこまでしてもらうのはな」
ティナ
「そう?」
ヨータ
「今回は、いつものやつで良いや」
ヨータは初心者向けの剣を、2本手に取った。
ティナ
「また折れてしまうよ?」
ヨータ
「それまでに稼いでみせるさ」
ティナ
「……うん」
ティナ
「ボクたちなら、きっとすぐだよ」
ティナ
「けど、ゴーレムに剣で斬りかかるようなことは、もう止めてよね?」
ヨータ
「キスで済ませるか」
ティナ
「ボクに任せてってば」
ヨータはレジに向かい、剣を購入した。
そして2人で、学校へ帰還した。
2人は駐車場で、スクーターからおりた。
ヨータは駐車場で、ティナに声をかけた。
ヨータ
「明日もダンジョン行くか?」
ティナ
「ううん」
ティナ
「明日は、家族と会うヤクソクが、有るからね」
明日は日曜日。
学生冒険者にとっては、授業の無い稼ぎ時だ。
だがティナは、家族との時間を大切にしていた。
ティナ
「ヨータも一緒に来る? リカが会いたがってたよ」
ヨータ
「いや。別に」
ヨータは、乗り気では無い様子を見せた。
ティナ
「行こうよ」
ヨータ
「いいって」
ティナ
「行こう」
ヨータ
「……分かった」
ティナ
「それじゃあ、また明日ね」
ヨータ
「ああ」
……。
翌朝。
2人は、ダンジョンに向かう時と同様に、駐車場で待ち合わせをした。
ティナ
「おはよう」
ヨータ
「ああ。おはよう」
この日は駐車場に、ティナが先に来ていた。
ヨータもティナも、私服姿だった。
剣なども無く、さっぱりとした格好をしていた。
ヨータの左手の義手だけが、少し異質に見えた。
2人は、ヨータのスクーターに跨った。
ヨータ
「家で良いんだよな?」
ティナ
「うん」
2人は2時間ほど、スクーターで移動した。
やがて、ヤマグチ東部に有る、住宅街にたどり着いた。
ヨータは、とある一軒家の前で、駐車した。
ティナはスクーターを下り、家のインターフォンを押した。
リカ
「はーい」
インターフォンから、若い女性の声が聞こえてきた。
ティナ
「リカ。お姉ちゃんだよ」
リカ
「お帰りなさい」
玄関の扉が、開いた。
扉の奥に、1人の少女の姿が見えた。
その少女の髪は、ティナと同じ桃色だった。
彼女はリカ。
ティナの妹だ。
寮暮らしの姉との再会に、微笑を浮かべていた。
リカ
「あっ! お兄さん!」
リカはヨータに気付くと、さらに表情を明るくした。
ヨータ
「よっ」
ヨータは微笑み、右手を上げて挨拶をした。
リカ
「いらっしゃい!」
リカはヨータに抱きついた。
彼女は中学生だ。
身長は、ほぼ伸びきっているが、ティナよりは小柄だった。
彼女はヨータの胸に、顔を埋めることになった。
ヨータ
「おおよしよし」
ヨータは、リカの頭を撫でた。
リカ
「えへへ」
ティナ
「まったく、甘えん坊だね。リカは」
リカ
「お姉ちゃんも、人のことは言えないと思うけど?」
ティナ
「いいや。そんなことは無いね」
ティナ
「ところで、パパとママは?」
リカ
「お母さんは掃除中。お父さんは、居間でゴロゴロしてるよ」
ティナ
「そう。ボクたちも居間に行こうか」
ヨータたちは、家に入った。
靴を脱ぎ、廊下を歩き、リビングに入った。
すると、ソファの上に、だらしなく寝転んでいる男が見えた。
ヨータ
「おじゃましまーす」
セオドア
「ん……」
男が体を起こした。
男の身長は、ヨータと同じくらい有った。
茶髪で、顔の彫りが深い。
彼の名は、セオドア。
ティナとリカの父親だ。
セオドア
「いらっしゃい」
セオドアはヨータを、穏やかな笑みで出迎えた。
ティナ
「パパ。お客さんの前で、あまりだらしない所を見せないで欲しいな」
セオドア
「ごめんごめん。久しぶりだね。ヨータくん」
ヨータ
「そうですね。進級とか色々有って、忙しかったんで」
セオドア
「高等部に上がったんだよね」
ヨータ
「はい」
セオドア
「天職はどうだったかな?」
ヨータ
「ちょっと……外しちゃった感じで」
セオドア
「そう。ごめんね」
ティナ
「ハズレじゃないよ」
ティナ
「ヨータの天職は、ハズレなんかじゃない」
ヨータ
「……どうも」
そのとき、リビングの扉が開いた。
ハルカ
「あら」
ショートヘアの女性が、ヨータの方を見た。
彼女の髪色は、ティナたちと同じ、ピンクだった。
39歳だが、実年齢より若く見える。
彼女はハルカ。
ティナとリカの母親で、セオドアの妻だ。
ヨータ
「お邪魔してます」
ハルカ
「いらっしゃい。ヨータちゃん」
ハルカ
「これは、お昼の買出しに行かないといけないわね。テッド」
セオドア
「え? 今から行くの?」
ハルカ
「そうよ。さ、行きましょう」
セオドア
「はーい」
ハルカ
「それじゃあ、ゆっくりしていってね」
セオドアとハルカは、家を出て行った。
そして、車に乗って、スーパーまで出かけていった。
ヨータは、ティナとリカと、3人で過ごすことになった。
久々に会ったヨータに、リカはいろいろと質問してきた。
リカと会話をしているうちに、セオドアとハルカが帰ってきた。
ハルカは荷物を整理すると、食事の用意を始めた。
料理が完成すると、昼食の時間になった。
ハルカ
「さあ、いっぱい食べてね」
ヨータ
「いただきます」
ダイニングテーブルには、様々な料理が並べられていた。
一般家庭の昼食としては、少し過剰だった。
ヨータ
(俺が来ると、毎回昼飯が豪華になるんだよな)
ヨータ
(そんなに気をつかわなくても良いのに)
ヨータ
(8年も前のこと、まだ気にしてんのかな)
ヨータ
(別に良いのに……)
ヨータは、彼女たちと出会った時のことを、思い出していた。
……。
8年前。
ヤマグチ東部。
とある駅前。
通行人の1人が、空を指差した。
「おい! あれ……!」
そこに、大きな蜂の姿が見えた。
レッドビー。
ダンジョン上層に出現する、弱小モンスターだ。
それでも、加護を持たない一般人にとっては、脅威だった。
「きゃああああああぁぁっ!」
悲鳴が上がった。
大勢の人たちが、そこから離れようと、走り始めた。
そこに、ミナクニ母子の姿も有った。
リカ
「あうっ!」
走る人々の1人が、リカにぶつかった。
この時のリカは、まだ6歳。
小さな子供だった。
簡単に、倒されてしまった。
ティナ
「リカ……!」
ティナはリカに駆け寄った。
少し遅れて、ハルカもリカの傍に立った。
そして、彼女を助け起こした。
ハルカ
「大丈夫!? 怪我は無い!?」
リカ
「う……」
リカ
「うあぁぁぁぁっ」
リカは、突き飛ばされたショックで、泣き出してしまった。
ハルカ
「っ……!」
ハルカはリカを、抱きかかえた。
ハルカ
「ティナ。駅まで走るわよ」
ティナ
「うん……!」
2人は駆け出した。
だが後ろから、不快な羽音が、近付いてきた。
ぞくりと寒気を感じ、ティナは振り向いた。
ティナ
「あっ……」
すぐ後ろに、レッドビーが迫っていた。
そして……。
ヨータ
「ッラアッ!」
小さな足が、レッドビーを蹴り飛ばした。
レッドビーの軌道が逸れた。
レッドビーは、ティナの横を通り、あらぬ方向へと飛んでいった。
ティナ
「えっ……?」
ティナは小さく声を漏らした。
そこに居たのは、ティナよりも身長の低い、銀髪の少年だった。
オニツジ=ヨータだった。
ヨータの左手首で、赤い腕輪が光っていた。
冒険者の腕輪では無い。
もっと別の、嫌な腕輪だった。
ヨータは、ティナを見て言った。
ヨータ
「邪魔だ。とっとと失せろ」
そして、空中のレッドビーに対して、刺すような視線を向けた。
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