その14「新スキルと中型ダンジョン」
ヨータ
「そう?」
ティナ
「小型ダンジョンには、若手を育成する役割が有るからね」
ティナ
「あまり乱獲すると、新人が困ってしまうよ」
ヨータ
「俺らも若手の部類だと思うがなあ」
ティナ
「もう違うよ」
ティナ
「天職の力さえ有れば、君はもう、上級冒険者と変わらない」
ヨータ
「まあそうか」
ヨータ
「……複雑な気分だな」
ティナ
「結果を出して、周りの連中を黙らせてやろう」
ヨータ
「そこまでのモチベは無いんだが」
ティナ
「放っておいても、いつかそうなるさ」
ティナ
「君には、それだけの力が有るんだから」
ヨータ
「そ」
2人を乗せたスクーターが、学校に帰還した。
ヨータは駐車場に、スクーターをとめた。
2人はスクーターを下りた。
ティナ
「それじゃあひとまずは、コアを部屋に置いてくるね」
ティナは、大きなコアを抱えて言った。
ヨータ
「ひとまず? 今日は解散じゃねーの?」
十分な戦果を上げた。
ここで解散するのも悪くない。
ヨータはそう思っていた。
だが、ティナは違うらしかった。
ティナ
「ちょっと時間が余ってるし、明日からどうするか、相談しようよ」
ヨータ
(そんなに頑張らんでも良い気もするが、まあ良いか)
ヨータ
「ん」
ヨータは短く鼻を鳴らし、肯定の返事にした。
ヨータ
「俺の部屋?」
ティナ
「うん。すぐに行くから、待っててね」
2人は、駐車場で別れた。
ヨータは男子寮へ。
ティナは女子寮へ向かった。
ティナは正面玄関から、女子寮に入った。
廊下を歩いていくと、見知った姿が見えた。
高めの身長に、さらさらとしたポニーテール。
オオバ=メイだった。
メイ
「ミナクニ」
メイはティナに気付き、声をかけてきた。
ティナ
「こんにちは。オオバさん」
メイ
「ああ。こんにちは」
メイ
「……それはダンジョンコアか」
ティナ
「うん」
メイ
「オニツジと2人で、ダンジョンに行ってきたのか?」
ティナ
「そうだけど?」
メイ
「オニツジの天職は、それだけのものか」
ティナ
「まあね。そういう君たちは?」
メイ
「今の私たちには、天職の力が有る」
メイ
「小型ダンジョン程度なら、どうということは無い」
メイ
「……だが、私たちは、高校生になった」
メイ
「そろそろ中型でも、成果を出さねばならんだろうな」
ティナ
「そう」
ティナ
「まあ君たちは、君たちのペースでやるが良いさ」
ティナ
「ヨータの力なら、すぐに中型も踏破出来るだろう」
ティナ
「先に行かせてもらうよ」
ティナはそう言って、自分の部屋へと入っていった。
メイ
「…………」
メイの口の端が、吊りあがった。
メイ
「おもしろい」
……。
ヨータは自室に戻り、軽装になった。
楽な部屋着姿だ。
そして、ベッドに座り、ティナを待つことにした。
ぼんやりとしていると、インターフォンが鳴った。
ヨータは立ち上がると、壁の受話器を手に取った。
ヨータ
「ティナか?」
ティナ
「ヨータ~。開けて~」
ヨータ
「あいよ」
ヨータは、受話器の隣の、スイッチを押した。
扉の電子ロックが、解除された。
ティナが扉を開け、入室してきた。
戦闘服から着替え、学校の制服姿になっていた。
ティナの姿を確認すると、ヨータはベッドに戻った。
ティナもベッドに腰かけた。
ヨータの左隣に。
ヨータ
「明日、中型行ってみるか?」
ティナ
「ううん」
ティナはヨータの両肩に、自身の手をのせた。
そして、ヨータを引き寄せて、口にキスをした。
ヨータはティナを、引き剥がした。
ヨータ
「何?」
ティナ
「中型ダンジョンは、深いし、学校から遠い」
ティナ
「放課後じゃなくて、休みに行った方が、効率が良いと思うんだよね」
ヨータ
「あさって……土曜にするか」
ティナ
「うん」
ティナ
「だからそれまでに、天職のレベルを上げておくのが、良いと思うんだ」
ティナ
「今日と明日で、『キス魔』のレベルを3にしよう」
ヨータ
「分かった」
ヨータはベッドに寝転んだ。
仰向けだ。
ティナは、ヨータに跨った。
先日、気がつけば、この体勢になっていた。
どうしてそうなったのか、ヨータは把握していない。
ティナの好みだろうか。
分からないが、ヨータにとっては楽な姿勢だ。
文句は無かった。
ティナは先日と同様に、ヨータに覆いかぶさった。
そして、唇を合わせた。
……。
1時間が経過した。
ヨータはティナに、キスを止めさせた。
そして、顔を横に向けた。
ヨータ
「今日はそろそろ、帰った方が良いんじゃないか?」
ティナ
「えっ? もうそんな時間?」
ヨータ
「時計見ろよ」
ティナ
「……うん」
ティナは、勉強机の方を見た。
机の上に、時計が置いてある。
時計の針が、ティナの瞳に映った。
日暮れ時だった。
ティナは、ヨータの上から下りた。
ティナ
「それじゃ、また明日ね」
ヨータ
「ああ。また明日」
ティナは少しふらふらとした足取りで、部屋を出て行った。
……。
翌日の放課後。
ティナはまた、ヨータの部屋を訪れていた。
そして、先日と同様に、2人でキスをしていた。
キスを始めてから、2時間ちょっとが経過した。
セットしておいたタイマーが鳴った。
ヨータは手探りで、ベッドの上のタイマーを止めた。
ヨータ
「時間か」
ティナ
「うん……」
口を離したティナは、ヨータの胸に、自分の頭をのせた。
ヨータ
「腕輪見づらい」
ティナ
「……うん」
ティナはヨータの横に、ごろりと転がった。
ヨータは上体を起こした。
そして、右手首の腕輪を、義手で操作した。
ヨータのステータスウィンドウが、空中に表示された。
__________________________
オニツジ=ヨータ
天職 キス魔 レベル3
スキル2 サンダーキス
キスをした相手に雷属性の魔術ダメージを与える
命題 合計3人の異性とキスをする(残り2人)
後天職 トレジャーハンター レベル23
___________________________
ティナ
「『サンダーキス』だって」
ヨータの次のスキルは、キスで相手を攻撃するもののようだった。
ヨータ
「キスでダメージて……」
次のスキルもキスだろうということは、予測出来ていた。
だが、それでもヨータは、眉根が寄るのを止められなかった。
ティナ
「実用性は低そうだね」
ティナ
「キスは間合いが短すぎる。素手で戦うとしても、殴った方が良い」
ヨータ
「そういう問題か?」
ヨータ
「魔獣にキスするとか、嫌なんだが」
ティナ
「しなくて良いよ」
ティナ
「君は剣だけでも、十分に強い」
ヨータ
「剣が効かない敵が出たら?」
ティナ
「このボクが居るだろう?」
ヨータ
「……今回は、ハズレか」
ティナ
「そうなるだろうね」
ヨータ
「で、次の命題は……」
ティナ
「む……」
ヨータ
「3人とキス。いや、2人か」
ティナ
「これは、絶対達成不可能だね」
ヨータ
「絶対か?」
ティナ
「そうだろう? 君の親友は、このボク1人だ」
ヨータ
「恋人とか出来たら……」
ティナ
「それでも1人足りないだろう?」
ティナ
「絶対不可能さ」
ヨータ
「1人はなんとかなったんだから、あと2人くらい……」
ティナ
「無理だね」
ヨータ
「そうですか」
ティナ
「それよりも、明日行くダンジョンを決めようよ」
ヨータ
「無難に、1番近い所で良くないか?」
ティナ
「それでも良いけど、一応、最低限は調べておこうよ」
ヨータ
「分かった」
ティナは冒険者の腕輪を使い、専用のデータベースにアクセスした。
そして、中型ダンジョンの情報を、見比べていった。
……。
土曜日になった。
2人は駐車場で待ち合わせをした。
そして、前回と同じように、スクーターに2人乗りになった。
2人は、ダンジョンへ向かった。
その途中。
廃墟と化したヤマグチの町中で、ヨータはスクーターを止めた。
ヨータ
「ファングラビットだ」
ティナ
「どこ?」
ヨータ
「ほら、あそこ」
ヨータは前方を指差した。
ティナは、ヨータが示した方を見た。
そこには、鋭い牙を持つ、ウサギの群れが見えた。
ダンジョンから溢れてきた、魔獣だった。
ベテランの冒険者からすると、大した相手では無い。
だが、一般人にとっては、大きな脅威だと言えた。
放っておくと、人里を襲う可能性が有る。
ティナ
「危険だね。退治しておこう」
ティナは、ヨータの袖を引いた。
スクーターに乗ったまま、2人はキスをした。
ヨータ
(『エナジーキス』)
ヨータ
「スキルを使うような相手か?」
スキルを使った後で、ヨータはそんな疑問を抱いた。
ティナ
「油断大敵だよ」
ヨータ
「そっか」
ティナは、リュックから杖を外した。
そして杖を、魔獣の群れに向けた。
ティナ
「針岩」
群れの上方に、針の生えた岩盤が、出現した。
岩盤は、魔獣めがけて落下した。
魔獣の群れが、岩盤に押し潰された。
ティナは念じて、岩盤を砕いた。
ズタズタになった兎が、姿を現した。
ヨータ
「絵面が……」
ティナ
「情けは禁物だよ。かわいくても魔獣なんだからね」
ヨータ
「まあな」
ヨータ
「『トレジャー化』」
ヨータはスキルを使い、ウサギを魔石に変えた。
そして、スクーターを下り、それを拾いに行こうとした。
ティナ
「拾わなくて良いよ」
ティナはヨータを呼び止めた。
ティナ
「そんな物より、中型ダンジョンの魔石を納品した方が良い」
ヨータ
「じゃ、行くか」
ティナ
「うん」
ヨータは、スクーターに乗りなおした。
そして、目当てのダンジョンへと、スクーターを発進させた。
やがて2人は、中型ダンジョンの入り口に、たどり着いた。
2人は簡易駐車場で、スクーターを降りた。
ヨータ
「査定所が無いんだな」
ヨータは、階段の辺りを見て、言った。
ティナ
「ここはちょっと奥の方だからね」
このダンジョンは、前に攻略したダンジョンよりも、人里離れた位置に有る。
人里から離れるほど、野良の魔獣に襲われるリスクは上がる。
安全を考慮し、査定所は設置されていないようだった。
面倒だが、トレジャーを換金するなら、他所の査定所に運ぶしか無いらしい。
ヨータ
「けど、けっこう人が居るみたいだな」
駐車場には何台か、車が停まっているのが見えた。
ティナ
「冒険者の主戦場は、中型ダンジョンだからね」
ヨータ
「行きますか。主戦場とやらに」
2人は階段を下り、ダンジョンの1層に立った。
まずはそこで、腕試しをしてみることにした。
2人は1層の魔獣を、索敵した。
やがて2人は、レッドウルフに遭遇した。
レッドウルフ
「グルルッ!」
レッドウルフは、まっすぐにヨータに向かってきた。
そして、飛びかかってきた。
ヨータには、魔獣の動きは遅く見えた。
ヨータは簡単に、魔獣の攻撃を回避した。
そして、剣を振った。
ヨータの剣が、レッドウルフを斬り捨てた。
2つに別れたレッドウルフの体が、ダンジョンの地面に転がった。
ヨータ
「……こんなもんか」
ティナ
「小型ダンジョンの1層よりは、手強いはずなんだけどね」
ティナ
「まあ、それだけボクたちが、強くなっているということさ」
ヨータ
「良し。それじゃどんどん行くか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます