その12「ティナと攻略」




メイ

「次の命題はどうだった?」


ヨータ

「6時間キスしろってさ」


ナミ

「うわぁ……」


メイ

「レベル3になるのは厳しそうか」


ヨータ

「いや」


ヨータ

「今日で2時間くらいキスしたから、残りは4時間だな」


ナミ

「しすぎじゃない!?」


ヨータ

「そんなこと言われてもな……」


ヨータ

「口合わせて寝てるだけだから、そこまでキツくは無いぞ」


ヨータ

「ちょっと息しづらいけどな」


ヨータ

(あと恥ずかしい)


ナミ

「寝ながらしてるんだ……」


ヨータ

「疲れるだろ。ずっと立ってると」


ナミ

「うーん……」


ナミ

「嫌じゃ無かったの? そんなにキスするの」


ヨータ

「レベルのためだ。仕方ない」


ヨータ

(それに、気持ち良かったしな)


ナミ

「ミナクニさんも、よく協力してくれたね?」


ヨータ

「まあ、幼馴染だし?」


ナミ

「そっか。幼馴染だもんね」


メイ

「うん?」


ナミ

「それじゃ。頑張ってね」


ヨータ

「ああ。お前らも」


メイ

「また明日」


ヨータ

「また明日」



 メイとナミは、寮の中へと入っていった。


 もうここに用は無い。


 ヨータは、女子寮に背を向けた。


 そして、男子寮に戻っていった。




 ……。




 翌日。


 ヨータはいつものように登校し、いつものように授業を受けた。


 放課後になると、ヨータはすぐに教室を出た。


 そして、ティナに会うために、隣のクラスを訪ねた。



リイナ

「あっ……!」


ティナ

「ヨータ」



 ヨータよりも先に、ティナの方が、ヨータの存在に気付いた。


 ほぼ同時に、ティナの仲間だったリイナも、ヨータに視線を向けてきた。


 ティナの視線は柔らかく、リイナの視線は鋭かった。


 ヨータは、リイナの視線に気付いてはいた。


 だが、わざわざ相手をする理由も無い。


 視線を無視して、ティナに声をかけた。



ヨータ

「ダンジョン行こうぜ」


ティナ

「うん!」



 ヨータの呼びかけに、ティナは元気よく答えた。


 そして小走りに、ヨータの前へと駆けていった。


 ティナが近付いてくると、ヨータは出口に向かった。


 2人は教室を出て行った。



リイナ

「ぐぬぬ……」



 じめっとしたリイナの視線が、2人の後ろ姿を見送った。


 ヨータとティナは、並んで校舎を出た。


 そして、寮に戻るために、いったん別れた。


 ヨータは男子寮に入り、自室に向かった。


 そして部屋で、戦闘服に着替えた。


 前に着ていた戦闘服は、戦いでダメになってしまっていた。


 なので、予備を引っ張り出し、身に付けた。



ヨータ

(何か違うな……)



 その服は、前の服と、同じモノのはずだった。


 だが、新品と着古した服では、着心地が異なっていた。


 少しの違和感を我慢しながら、ヨータは装備を身に付けた。


 長剣と、ウェストポーチ。


 ルナたちと組んでいた時と同じ。


 見慣れた組み合わせだった。


 ウェストポーチは、前回に損傷してしまっていた。


 なので、これも新品だった。


 使い古しの装備は、長剣だけになっていた。


 居心地が悪い気がする。


 だが、装備が綺麗になったという、爽快感も有った。


 支度が完了すると、ヨータは駐車場に向かった。


 そして、自分のスクーターの所へ歩いた。



ヨータ

(ティナはまだか)



 ヨータの方が、先に駐車場についたようだ。


 彼はぼんやりと、ティナがやって来るのを待った。



ティナ

「お待たせ」



 ティナが現れた。


 彼女の装備は、魔術の杖と、リュックだった。


 杖は、リュックの側面に、固定されていた。


 ティナがリュックを持ってくれるおかげで、今日のヨータは身軽だった。


 ヨータはスクーターに跨った。



ヨータ

「後ろ乗れよ」


ティナ

「うん」



 ティナは、ヨータの後ろに跨った。


 そして、ヨータの腰に抱きついた。


 ティナの、小さくは無い胸が、ヨータの背中に当たった。



ヨータ

「…………」



 ヨータはそれに気付かないフリをして、魔導エンジンを起動させた。


 スクーターが発進した。


 駐車場内では、あまり速度を出すわけにはいかない。


 スクーターはゆっくりと、公道に向かって走り出した。



ティナ

「2人乗り、久しぶりだよね」


ヨータ

「そうだったかな」


ティナ

「背、伸びたね」


ヨータ

「追い抜いてやったぞ」



 初めて出会った時、ヨータはティナより小さかった。


 今はヨータの方が、10センチは背が高い。



ティナ

「うん。とっくにね」



 ティナはそう言って笑うと、ヨータの背に体重を預けてきた。


 ティナの胸が、ぎゅっとヨータに押し付けられた。



ヨータ

(胸が当たってるんだがなあ)



 初めて2人乗りをしたとき、ヨータはティナに、胸が有ることに気付いた。


 外見的には、とっくに分かっていたことだった。


 ティナは発育が良い。


 そんなことは、見ていれば分かる。


 だが、見ている分には、それはどこか他人事だった。


 抱きつかれて初めて、それが現実だと感じられた。


 ティナの方は、胸が当たることを、嫌がってはいないようだった。


 悪いことでは無いのかもしれない。


 だが何故だか、気まずく感じた。


 それ以来ヨータは、ティナとの2人乗りを避けるようになっていた。



ヨータ

(まあ、なんてことは無いか)


ヨータ

(キスと比べたら、なんてことはねーよな)



 あの頃より、ヨータは大きくなっていた。




 ……。




 2人はダンジョンに、たどり着いた。


 ヨータは駐車場に、スクーターをとめた。



ティナ

「ここで良かったのかい?」


ヨータ

「何が?」


ティナ

「君が怪我をしたダンジョンじゃないか。ここは」


ヨータ

「トラウマとかは無いぞ。別に」


ティナ

「そう?」


ヨータ

(多分)


ヨータ

「良いから、早く行こうぜ」


ティナ

「うん」



 2人は入場許可を受け、階段を下っていった。


 そして、ダンジョンの第1層に立った。



ティナ

「ヨータ、回復ポーションはいくつ持ってる?」


ヨータ

「持ってないが」


ティナ

「はい。ヨータ。君の分だよ」



 ティナはそう言って、ヨータに薬瓶を手渡してきた。



ヨータ

「良いのか?」


ティナ

「当たり前だろ」


ヨータ

「ありがと」



 ヨータは受け取ったポーションを、ウェストポーチに挿した。



ティナ

「それじゃあ」


ヨータ

「ああ」



 2人はお互いを求めるようにして、唇を合わせた。



ティナ

「ん……」


ヨータ

(『エナジーキス』)



 ヨータは心中で、スキル名を唱えた。


 2人の体に、強い力がみなぎっていった。



ティナ

「はぁ……」



 5秒ほどして、ティナはヨータから離れた。



ヨータ

「敵探すか」


ティナ

「そうだね」



 2人は、1層をうろついた。


 そしてすぐに、ビッグアントを発見した。


 ヨータはスッとビッグアントに近寄り、長剣を振った。


 ビッグアントの頭が飛んだ。


 1撃で、ビッグアントは撃破された。



ヨータ

「うーん……」


ヨータ

「ジョブチェンジ前くらいのパワーは有るのかな」


ティナ

「本当?」


ヨータ

「なんとなくだけど」


ティナ

「本当にそうなら、凄いことだよ」


ティナ

「レベル3倍分のバフが、かかっているということだからね」


ヨータ

「強力なスキルだってのは、確かなんだろうがな」


ヨータ

「使える相手がな……」


ティナ

「うん。ボクだけだね。ふふふ」


ヨータ

「下行くか」


ティナ

「そうだね」



 2人は、12層まで下りた。


 ヨータが負傷した階層だった。


 スキルの強化がかかったまま、ヨータはスケルトンウルフと対峙した。


 怖さは感じなかった。


 ヨータは軽々と、スケルトンウルフを撃破してしまった。


 何の危機感も無かった。


 これなら12体同時でも、別に怖くは無い。


 その程度の相手としか、感じられなかった。



ヨータ

「大分余裕が有るな」


ティナ

「そうみたいだね」


ティナ

「もっと先まで行ってみようか?」


ヨータ

「うーん……」


ヨータ

「あくまでも、強いのは、スキルが発動してる時だけだからな」


ヨータ

「調子に乗って、下おりて、スキルが切れた時を狙われたら、キツイ」


ヨータ

「素の俺は、スケルトンウルフ10体に、殺されるレベルだからな」


ティナ

「12体でしょ。10体なら、君は勝っていたよ」


ヨータ

「細かいな」


ティナ

「大事なことだよ」


ティナ

「……それでさ」


ティナ

「スキル切れが怖いなら、こまめにかけ直せば良いんだよ」


ティナ

「『エナジーキス』は、かなり燃費が良いスキルみたいだしね」


ヨータ

「具体的にはどうする?」


ティナ

「3分に1度、スキルをかけなおすというのは、どうかな?」


ヨータ

「良いけど」


ヨータ

「いちいちタイマーでも使うのか?」


ティナ

「ボクに任せておきたまえ」


ティナ

「体内時計は、正確な方だからね」


ティナ

「時計やタイマーなんて無くても、正確に、時間をはかって見せるよ」


ヨータ

「そうか」


ヨータ

「それじゃ、その作戦で行ってみるか」


ティナ

「うん。行こう」



 2人は、13層へと下りていった。



ティナ

「3分」



 少し探索すると、ティナがそう言った。



ヨータ

「ん」



 ヨータはティナの方を向いた。


 2人は唇を合わせた。



ヨータ

(『エナジーキス』)



 スキルがかけ直された。


 それから2人は、1分ほど歩いた。



ティナ

「3分」


ヨータ

「え? もう3分か?」



 ヨータの体感では、1分ほどしか経っていなかった。


 もう3分も経ったというのは、意外に感じられた。



ティナ

「そうだよ」


ヨータ

「そっか」



 ティナが言うのなら、間違いは無いだろう。


 ヨータはそう思い、彼女と唇を合わせた。



ヨータ

(『エナジーキス』)


ティナ

「んぅ……」



 スキルが発動すると、2人は体を離した。



ティナ

「いちいち3分って言うの、面倒くさい気がするね」


ヨータ

「そうか? それじゃ、どうすんだよ」


ティナ

「ボクが君の袖を引いたら、それが合図ということで良いかな?」


ヨータ

「良いぞ」



 新しいやり方を試しつつ、2人は探索を続けた。


 サクサクと進み、17層に着いた。



ヨータ

「はっ!」



 大部屋で、ヨータの剣が、黒い魔獣を斬り捨てた。


 カラスのような頭と、クマの体を持つ魔獣。


 クロウベアだった。


 そのとき、側面の通路から、もう2体のクロウベアが現れた。



ヨータ

(新手……!)



 魔獣の1体はヨータに、もう1体はティナに向かった。


 ヨータはすぐに、1体を切り伏せた。


 だが、もう1体が、ティナに迫っていた。



ヨータ

「ティナ!」


ティナ

「っ……!」



 ティナは目をつむり、クロウベアに、杖を突き出した。



クロウベア

「クワアアアアアアァァッ!?」



 杖で突かれたクロウベアが、吹き飛んだ。


 そしてゴロゴロと、地面を転がって行った。


 ヨータは走ってそれに追いつき、とどめを刺そうとした。


 だが……。



クロウベア

「……………………」


ヨータ

「死んでるな。コイツ」


ティナ

「えっ?」


ヨータ

「お強いですね。お嬢さん」


ティナ

「君のスキルだろう!?」



 ヨータは、倒した敵をトレジャー化し、ティナにキスをした。


 ティナから離れた時、ヨータはあることに気がついた。



ヨータ

「ちょっと杖が曲がってないか?」



 ヨータの目には、ティナの杖が、歪んでいるように見えた。


 接近戦にも使える、金属製の杖がだ。



ティナ

「えっ?」



 ヨータに言われて、ティナも杖を見た。



ヨータ

「どんだけ馬鹿力なん? お前」


ティナ

「曲がってはいないよ」


ヨータ

「そうか?」


ティナ

「そう思いたい」


ヨータ

「良いけどさ」


ヨータ

「杖って曲がってても、呪文って撃てるのか?」


ティナ

「大丈夫だと思うよ? 曲がってないしね」


ヨータ

「そうですか」


ティナ

「そうですよ」


ヨータ

「……守れなくてごめんな」


ティナ

「たった2人なんだ。ああいうことが起きるのは、必然だよ」


ティナ

「むしろ、謝るべきはボクの方だね」


ティナ

「君の活躍に見惚れて、後衛としての役割を、おろそかにしてしまっていたよ」


ティナ

「あらかじめ、自衛用の呪文くらい、用意しておくべきだった」


ティナ

「そうしたら、急に敵が現れても、楽に撃退できたはずなんだ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る