その10「ファーストキスとセカンドキス」
ヨータ
「それになお前」
ヨータ
「ジョブチェンジってのは、めっちゃくちゃ痛いぞ」
ティナ
「えっ? どれくらい?」
ヨータ
「腕を食いちぎられるくらいかな」
ティナ
「…………」
ティナは頭を、斜め下に向けた。
ティナ
「ジョブに関しては、保留ということで」
ヨータ
「そうだな」
ティナ
「あのさ」
ヨータ
「ん?」
ティナ
「もっと色々と、話し合いたいんだけど」
ティナ
「これから、君の部屋に行っても良いかな?」
ヨータ
「校則違反だぞ」
異性の寮に立ち入ることは、禁止されている。
一応は。
ティナ
「そんな校則、誰も守ってはいないよ」
ヨータ
「かもな」
ヨータ
「……俺の部屋じゃないとダメか?」
ティナ
「そんなに嫌なのかい?」
ヨータ
「前も言ったけど、狭いぞ」
ティナ
「うん。良いね」
ヨータ
「何がだよ……」
2人は校舎を出て、男子寮へと向かった。
そして、ヨータの部屋に入った。
ティナ
「ホントに狭いんだね」
ヨータ
「1人部屋だからな」
ティナを部屋に招くのは、これが始めてだった。
部屋を見たい。
そう言われたことは有る。
だが、なんのかんのと理由をつけて、断っていた。
何も無い、寂しい部屋だ。
人を招きたいとも、思わなかった。
今の2人は、同じパーティだ。
背中を預けて戦う、仲間だ。
2人の時間を、作らないわけにはいかなかった。
ヨータはベッドに腰かけた。
ヨータ
「座れよ」
ヨータは自分の隣を、ポンポンと叩いた。
ティナ
「……うん」
ティナはヨータの、真隣に座った。
肩が触れ合うくらいの、とても近い位置だった。
ヨータ
(近いなコイツ。相変わらず)
ヨータ
「で? どうする?」
ティナ
「基本的な、立ち回りの話をしようか」
ヨータ
「そうだな」
ヨータ
「お前、接近戦は得意じゃないよな?」
ティナ
「……そうだね」
ヨータ
「けど、トレジャーハンター1人で後衛を守るのは、無理スジだ」
ヨータ
「その辺の問題を、どう解決するかだな」
ティナ
「そのことだけど、割と呪文でなんとかなると思うよ」
ヨータ
「そうなのか?」
ティナ
「迷宮だと、いつ囲まれることになるか分からないからね」
ティナ
「1人前の魔術師なら、自衛用の呪文くらい、用意しているものさ」
ヨータ
「なら良いが……」
ヨータ
「4人の頃より、危険が増えるのは、間違いないからな」
ヨータ
「ある程度は、武器で戦えるようにも、しといた方が良いんじゃねーか?」
ティナ
「うん。頑張ってみる」
ティナ
「……そうだ。ヨータが稽古をつけてよ」
ヨータ
「良いぞ」
ティナ
「ありがとう」
……。
2人は1時間ほど、ダンジョン攻略について、話し合った。
ヨータ
「こんなところか。ダンジョンに行く前に、話しておく必要が有るのは」
ティナ
「ううん」
ティナ
「大事な話が残っているよ」
ヨータ
「何だ?」
ティナ
「天職だよ。天職」
ヨータ
「『賢者』だったか」
ティナ
「分かってて言ってるだろう?」
ティナ
「『キス魔』の話だよ」
ヨータ
「…………」
ティナ
「たった1回のキスでレベルが上がるのに、試さないなんて、もったいないよ」
ティナ
「ねえ、ヨータ」
ティナ
「ボクと試してみない?」
ヨータ
「いやいや」
ヨータは右手を、小刻みに振った。
拒否のサインだった。
ヨータ
「フツー、友だちとキスするか?」
ティナ
「しないかな?」
ヨータ
「しないと思うが」
ティナ
「国によってはするかもしれない」
ヨータ
「そうかな?」
ティナ
「うん」
ヨータ
(そういえば、オオバとオオクサはしてたな)
ティナ
「それに、ボクたちは親友だし」
ティナ
「普通の友だちよりも、ずっと上だよ」
ヨータ
「そうか」
ヨータ
「けど、嫌じゃないのか?」
ティナ
「まさか」
ティナ
「キスくらいで嫌がるなんて、そんなのは、親友とは言えないよ」
ティナ
「本当の親友だったら、むしろ嬉しいと感じるはずさ」
ヨータ
「そうなのか」
ティナ
「うん」
ヨータ
(言われてみると、俺も別に、嫌じゃないな。ティナとキスするの)
ヨータ
(そうか。これが友情ってやつか)
ヨータ
(キスは恋人とするものっていう、固定観念が有ったんだな)
ヨータ
「最初から、お前に頼んでたら良かったんだな」
ティナ
「気付くのが遅いよ」
ヨータ
「お前が友だちで良かったよ。ありがとうな」
ティナ
「ふふふ、どういたしまして」
ヨータ
「じゃ、するか」
ティナ
「うん。しよう」
お互いが、隣に座ったまま、見つめ合った。
ティナ
「…………」
ティナは目を閉じた。
そのままじっとして、動かない。
ヨータ
(男の俺から、行けってことだな)
ヨータはティナに、顔を近付けていった。
ゆっくりと。
ヨータ
(っ……。ドキドキするな)
ヨータ
(キョドるな。友だちとの、軽いスキンシップだ)
ヨータ
(この程度でビビるのは、根性無しがやることだ)
そして……。
2人の唇と唇が、触れ合った。
ヨータが感じたティナの唇は、とても柔らかかった。
ティナ
「ん……」
ティナは吐息を漏らした。
ヨータ
「っ……」
ヨータは慌てたようになって、すぐに顔を離してしまった。
ヨータ
(照れるな。キスって)
ヨータ
(顔熱い……)
ヨータ
(友だち同士でこんなことして、本当に良いのか……?)
ヨータが離れてしまったのを感じて、ティナは目を開いた。
ティナ
「……もう終わり?」
ヨータ
「あ、ああ」
ヨータ
「命題には、何分しろとかは、書いて無かったから」
ヨータ
「ちょっと触れただけでも、十分だと思うぞ」
ティナ
「そう……?」
ティナは不満そうに言った。
ヨータ
「なんで微妙に残念そうなんだよ」
ティナ
「せっかくのファーストキスだからね」
ヨータ
「そう……なのか?」
ティナ
「うん。ヨータは違うのかな?」
ヨータ
「俺は2回目かな?」
ティナ
「えっ!? 誰としたんだい!? アマガミさん!?」
ヨータ
「なんであいつの名前が出てくるんだよ」
ティナ
「だって、仲が良かっただろう?」
ヨータ
「パーティ追放される程度の仲だよ」
ティナ
「そう……」
ティナ
「だったら、誰?」
ヨータ
「母さん」
ティナ
「……そっか」
ヨータ
「…………」
ティナ
「キス、これでおしまい?」
ヨータ
「……もうちょっとだけするか?」
ティナ
「うん。しようよ」
2人は再び、唇を合わせた。
ティナ
「んっ……」
ティナが色っぽい声を漏らした。
ヨータはドキリとしたが、今度は逃げなかった。
30秒ほど、2人はそうしていた。
やがて、ヨータの方から、口を離した。
息を止めていたので、苦しくなったのだった。
ティナ
「ふぅ……」
ティナ
「ふふふ」
ティナは、ヨータを見ながら笑った。
ヨータ
「どうした?」
ティナ
「嬉しくって」
ヨータ
「キスが?」
ティナ
「うん。ヨータは嬉しくなかった?」
ヨータ
「俺は……」
ヨータ
(嬉しいというより、気持ちよかったんだが……)
ヨータ
(まあ、嬉しく無くは無かったのか?)
ヨータ
「……それなりにな」
ティナ
「えー? それなりなんだ?」
ヨータ
「良いだろ別に」
ヨータ
(俺は顔面ポッカポカなのに、こいつはニコニコしやがって、腹立つな)
ヨータ
(お前もちょっとは照れろよクソが)
ヨータ
「殴るぞ」
ティナ
「いきなり何だい!?」
ヨータ
「いや、殴らんけど」
ティナ
「それはそうだよ。理由も無く殴られたら困るよ」
ヨータ
「それより、天職の方をチェックしようぜ」
ティナ
「うん」
ヨータは、冒険者の腕輪を操作した。
ステータスウィンドウが、空中に表示された。
__________________________
オニツジ=ヨータ
天職 キス魔 レベル2
スキル エナジーキス
キスをした異性と自分自身を強化する
命題 1人の異性とキスをする(残り5時間59分)
___________________________
ヨータの天職は、確かにレベルが上がっていた。
レベル1から2になり、新たなスキルを習得していた。
ヨータ
「ちゃんと上がったな。レベル」
ティナ
「それに、スキルも覚えているよ。やったね」
ヨータ
「しかし……スキルまでキス系か……。『エナジーキス』て」
ティナ
「『キス魔』なんだから、当然じゃないかな?」
ヨータ
「うーん……」
ティナ
「さっそく試してみようよ。新しいスキル」
ヨータ
「……キスしないと試せないんだが、良いか?」
ティナ
「もちろん」
ティナは目を閉じた。
ヨータは唇を合わせた。
ヨータ
(『エナジーキス』)
ヨータは心中で、スキル名を唱えた。
すると……。
ティナ
「わっ……!」
ヨータ
「これは……」
2人の体が、赤い光に包まれた。
ヨータは、力が漲ってくるのを感じた。
ティナ
「凄いパワーが湧き上がって来るよ……!」
ヨータ
「ああ。俺もだ」
ティナ
「そうだ! ストップウォッチは有るかな!?」
ヨータ
「えっ? 確か……」
ヨータは勉強机に向かい、引き出しを開けた。
そして、その中を漁り、ストップウォッチを手に取った。
彼はそれを、ティナに手渡した。
そして、元の位置に座った。
ティナ
「発動時間を調べないとね」
ティナは、ストップウォッチのスイッチを押した。
ヨータ
「学者肌だな。お前は」
ティナ
「さて……」
ティナはヨータの方を向いた。
そして、彼の肩に、手を置いた。
ヨータの上半身が、ティナの方へと向けさせられた。
ティナは自分から、ヨータにキスをした。
ヨータ
「むぐ……」
ヨータはティナの肩を掴み、彼女を引き剥がした。
ヨータ
「何だよ?」
ティナ
「君、次の命題を見なかったのかい?」
ヨータ
「見たけど」
次の命題は、女子と6時間キスをすることだ。
インパクトが有る命題なので、ヨータはしっかりと記憶していた。
ティナ
「スキルの時間を計る間、キスをしておけば、時間を節約出来るよ」
ヨータ
「そんな焦らなくても良いだろ」
ティナ
「そう? ちなみにさ……」
ティナ
「時は金なり。奴隷を1秒も休ませるなと、ベンジャミン=フランクリンも言っている」
ヨータ
「絶対言ってねえだろ」
ティナ
「ヨータは、次のスキルが気にならないのかい?」
ヨータ
「そりゃ気にはなるが」
ヨータ
「今のスキルを、試し終わってからでも良いだろ」
ティナ
「そんなの、すぐだよ」
ティナ
「さ、命題にチャレンジしよう」
ヨータ
「……分かったよ」
ティナ
「口開けて。息が苦しくなっちゃうから」
ヨータ
「ああ」
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