その1の2「おめでとうと言えば良いのか?」



ルナ

「そうみたいだな……ではありません!」



 ルナは、噛み付くような勢いで言った。



ルナ

「あなたは、人畜無害そうな顔をして、いったい誰とキスをするつもりなのですか!?」


ヨータ

「勝手に無害認定されても、困るんだが」


ルナ

「つまり、有害ということですか」


ヨータ

「……時と場合によるが」


ヨータ

(健全な男子だったら、当然、性欲くらい有る)


ヨータ

(勝手にぬいぐるみ判定されても、困るって話で)


メイ

「別に、無理に命題をこなさなくても、良いのではないか?」



 メイが口を挟んだ。



ヨータ

「オオバ?」


メイ

「オニツジは、やるときはやるヤツだ」


ルナ

「キスを?」


メイ

「お前なぁ……」



 頑ななルナに対し、メイは呆れた様子を見せた。


 だが、深くは追求せず、話を続けた。



メイ

「天職の力に頼らなくとも、『後天職』の『戦士』の力で、十分に戦っていけるということだ」



 後天職。


 それは、冒険者が授かることが出来る、もう1つの力だ。


 天職とは違い、中等部の段階で、力を授かることが許可されている。


 そして、授かる力の種類を、個人の意思で、選ぶことが出来た。


 ヨータは『戦士』の後天職を選び、中等部時代を戦い抜いてきていた。


 優秀な剣士だと言えた。



ルナ

「果たして、そうでしょうか?」



 ルナはメイに疑問を向けた。



ルナ

「確かに今まで、オニツジさんは前衛として、十分な成果を上げてきました」


ルナ

「ですが、結局のところ、学生レベルの戦果です」


ルナ

「先に待つ激戦に、ついて来られないのでは、ないですか?」


メイ

「可能性は有る」


メイ

「だが、それを言うなら、私たちなら大丈夫だという保証も、別に無い」


メイ

「天職にかまけていては、足元をすくわれかねない」


メイ

「ダンジョンとは、そういう所ではないのか?」


ルナ

「それは……」


ルナ

「ですが、彼よりは、可能性は高いはずです」


メイ

「そうかもしれんがな……」



 メイは少し間を置いて、ヨータに視線を移した。



メイ

「ならば……」


メイ

「オニツジ。私とキスをするか?」



 彼女は、周囲が驚くほどに平然と、そう口にした。



ヨータ

「えっ!?」


ルナ

「は?」


メイ

「どうした? するのか? しないのか?」


ヨータ

「いやいや。良いのかよ?」


メイ

「別に、キスくらい、減るものでも無いだろう」



 メイはそう言って、ヨータの肩に手を置いた。


 そして強引に、ヨータの顔を、自身へと向けさせた。



ルナ

「っ……!」



 ルナの目が、大きく見開かれた。



ナミ

「だめえええええええええぇぇぇっ!」



 ナミが叫んだ。


 何事か。


 教室に残っていたクラスメイトたちが、ナミの方を見た。



メイ

「ナミ?」


ナミ

「メイちゃん! そんな簡単に、誰とでもキスしちゃダメだよ!?」


ナミ

「ここはアメリアじゃないんだよ!?」


メイ

「別に、誰とでもするワケではない」



 メイは表情を崩さずに、背筋をピンと伸ばしたまま、堂々と言った。



メイ

「オニツジは、中等部の頃から、一緒に戦ってきた仲間だ」


メイ

「戦友だ」


メイ

「友として、一目置いている」


メイ

「そんなオニツジだから、キスをしても構わないと言っているんだ」


ナミ

「メイちゃんって……ヨータくんのことが好きだったの……?」


メイ

「人としては、当然好いている」


メイ

「だが、この場合は、恋愛感情が有るかという意味だな?」


ナミ

「…………」



 ナミはメイを、凝視した。


 ナミの全身が、緊張で固まった。



メイ

「恋はしていない」


ナミ

「はぁ……」



 ナミはため息をついた。


 そして全身を、ぐでんと脱力させた。



ナミ

「だったら……男の人と、キスなんかしちゃダメだよ」


ナミ

「ていうか……他の人とするくらいなら……私としようよ……」


ルナ

「えっ?」


メイ

「……キスしたいのか? 私と」


ナミ

「…………」



 ナミは耳を赤くして、小さく頷いた。



メイ

「ふふっ」


メイ

「ナミは、いつまで経っても甘えん坊だな」


ナミ

「それで……してくれるの? くれないの?」


メイ

「良いぞ」



 メイはナミに、一歩近付いた。


 そして、顔を近づけていった。



メイ

「ちゅっ……」



 メイの口が、一瞬だけ、ナミの唇を吸った。



ナミ

「あっ……」


メイ

「よしよし」



 メイは、背の低いナミを胸元に抱き寄せ、その頭を撫でた。



ナミ

「…………」



 ナミはメイの胸に顔を埋め、茹で蛸のようになっていた。



ヨータ

(何を見せられてるんだ俺は……)


ヨータ

(祝福すれば良いのか? この2人を)


ヨータ

「リーダー」



 ヨータは内心困惑しつつ、事態を収めるため、ルナに声をかけた。



ルナ

「えっ?」


ヨータ

「女同士のキスは良いのかよ?」


ルナ

「あっ……」


ルナ

「不純同性交友はいけません! 離れて下さい!」


メイ

「別に、これくらいは良いだろう」


ルナ

「良くはありません!」


メイ

「ふむ……」



 メイはナミから少し離れた。



ナミ

「その、ごめんなさい。えへへ」



 ナミは顔を赤くしたまま、ぺこりと頭を下げた。



ヨータ

(幸せそうだなコイツ)


ヨータ

「それで? 俺の話は?」


メイ

「ああ、すまない」



 メイは、はにかんで、ルナに向き直った。



メイ

「つまるところ、私はオニツジが、パーティに残っても構わないと、思っている」


ナミ

「……私は反対」



 ナミは、きっぱりと言った。



ナミ

「キスは、愛し合う人同士がするものであって、好きでもない人としちゃ、ダメだよ」


ヨータ

「そういう話だったか……?」


ルナ

「2対1です。決まりですね」


ルナ

「オニツジさん。あなたには、このパーティを出て行っていただきます」


ヨータ

「そうか……」


ヨータ

「お前もなのか」



 ヨータは、普段は見せない表情で、ルナの瞳を見た。



ルナ

「え……?」


ヨータ

「要らないんだな。俺のことは」



 ヨータはルナに、背を向けた。


 そして早足で、教室から退出していった。



ルナ

「オニツジさん……?」




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