❀天職『キス魔』のせいでパーティ追放された俺、詰みかと思ってたけど、優しい美少女幼馴染のおかげでなんとかなるなる? ダンジョン攻略の最適解は、親友との甘々キスでした。~フレンドキス~❀

ダブルヒーロー@『敵強化』スキル

その1の1「『キス魔』と追放」



 地球に『ダンジョン』が発生してから、半世紀以上が過ぎた。


 神秘の迷宮は、凶悪な『魔獣』を産む。


 それらは、いくつもの国を滅ぼし、あるいは衰退させていった。


 だが、残った国々は、懸命にダンジョンに立ち向かい、国土の維持に努めていた。


 北太平洋の島国、アシハラにも、ダンジョンに立ち向かうための機関が有った。


 その1つが、『冒険者学校』。


 ダンジョンに立ち向かう『冒険者』を育てるための施設だった。




 ……。




 4月初週。


 ホンシュー西部、ヤマグチに位置する、冒険者学校。


 その始業式の日。


 高等部の生徒たちが、力を授けられることになっていた。


 特別な力。


 『天職』と呼ばれる力だ。


 力は、『神水』によって授けられる。


 神水とは、『世界樹』から取れる聖なる水だ。


 始業式の後、教室で、生徒たちに神水が配られた。


 生徒たちは、神水を飲み、力を得た。


 どのような力を授かるかは、人それぞれだ。


 天職を授かった生徒たちは、その力の性質を、診断される。


 学校行事の一つであるそれは、『天職診断』と呼ばれた。


 1年1組の教室。


 男子生徒であるオニツジ=ヨータも、儀式を受けることになった。


 ヨータは、背の高い美男子だった。


 髪は長い銀髪で、赤い瞳をしていた。


 他の生徒と同様、学校の制服を身に付けていた。


 彼は、他の生徒が天職診断を受けるのを、ぼんやりと眺めていた。


 やがて、ヨータが診断を受ける時が来た。


 彼は、他の生徒と入れ違いに、教壇の前へ移動した。


 教壇には、教師のアネカワ=メダカが立っていた。


 ヨータは、メダカと向かい合った。


 メダカはヨータに、支給品の腕輪を装着させた。


 それは、ただの腕輪では無い。


 『冒険者の腕輪』だ。


 オリハルコンと呼ばれる金属で出来た、魔力を持つ腕輪だった。


 ヨータの腕にはめられた瞬間、腕輪は色を変えた。


 白から赤へ。


 ダンジョン以前の世界であれば、これは驚くべきことだ。


 金属がひとりでに色を激変させるなど、ありえない。


 だが、冒険者学校の教師にとっては、見慣れた光景だった。


 特に気にすることもない。


 メダカは、ヨータの腕輪を操作した。


 すると、『ステータスウィンドウ』と呼ばれる立体映像が表示された。


 そこに、ヨータの天職が示されていた。


 メダカは、それを読み取った。



メダカ

「オニツジ=ヨータくん」


メダカ

「ええと……」


メダカ

「あなたの天職は……『キス魔』ですね」


ヨータ

「えっ……?」



 メダカの声を受けて、教室がざわつき始めた。



「今、先生なんて?」


「『キス魔』って……聞こえたけど?」


「『キス魔』って、職業なの?」


「どっちかと言うと、犯罪者じゃね?」


「天職が犯罪者って、ヤバくね?」



 そして……。



「ぷっ……」



 誰かが笑った。



「「「あははははははははっ」」」



 1つの笑いが、爆笑を誘った。


 教室は、笑いの渦に包まれた。



メダカ

「こら! 止めなさい!」


メダカ

「人の天職を笑ってはいけません!」



「けどさ、先生」



メダカ

「けどもヘチマも有りません!」


メダカ

「静かに!」



「「「はーい」」」



 メダカは真剣に、生徒たちを叱った。


 生徒たちは、素直にメダカの言うことを聞いた。


 その場は、それで収まった。


 やがて、全員の天職診断が、終了した。


 始業式の日なので、通常の授業は無かった。


 すぐに放課後になった。


 教室で、ヨータはパーティの仲間と集まった。


 リーダーの机の周囲に、3人のメンバーが立った。


 ヨータを含めて、パーティの人数は4人。


 一緒にダンジョンに挑んできた、仲間たちだった。



ルナ

「……オニツジさん」



 席に腰かけたまま、銀髪の少女が口を開いた。


 ヨータは彼女の手首を見た。


 冒険者の腕輪は、人によって色が違う。


 彼女の腕輪は、輝く金色をしていた。


 少女の名は、アマガミ=ルナ。


 ヨータたちのリーダーだった。


 アマガミと言えば、キューシュー出身の、名家だ。


 ルナも、その血筋を継いでいた。


 彼女の佇まいからは、高度な教育を受けた者特有の、気品が感じられた。


 ヨータはがさつだ。


 髪の色は同じだが、2人がまとう雰囲気は、対極だった。


 ルナは険しい表情で、前方のヨータを見上げていた。


 その頬は、少し赤い。


 彼女は、性的な話題を苦手としていた。



ルナ

「あなたには、失望しました」


ルナ

「まさか、あのように不埒で、いかがわしい天職を授かるなど……」


ルナ

「かくなるうえは、仕方がありません」


ルナ

「オニツジさん。あなたには、私たちのパーティを、抜けていただきます」


ヨータ

「な……!?」



 いきなりの解雇通告。


 何か言われるとは思っていたが、まさか、いきなり首を切られるとは。


 ヨータは驚かざるをえなかった。



ヨータ

「本気で言ってるのか……!?」


ルナ

「もちろん、本気です」


ルナ

「アナタのようないかがわしい方が、パーティに居ては、外聞が悪い」


ルナ

「大きな恥となります」


ルナ

「抜けていただく他、無いでしょう」


ヨータ

「そんな……」



 ヨータは驚きを消せないまま、隣に立つ仲間たちを見た。



ヨータ

「お前たちも……同じ考えなのか?」


ナミ

「えっと……」



 黒髪ショートヘアの小柄な少女、オオクサ=ナミが、困惑した様子を見せた。



ナミ

「そもそもさ、『キス魔』って何なの?」


ヨータ

「何って……?」


ヨータ

(キスする人?)


ナミ

「どんなスキルを持ってて、何が出来るの?」


ヨータ

「……ちょっと待ってくれ。今、確認する」



 ヨータは、冒険者の腕輪に触れた。


 すると空中に、ヨータの天職が表示された。



__________________________



オニツジ=ヨータ



天職 キス魔 レベル1


 スキル 無し


 命題 1人の異性とキスをする(マウストゥマウス)



後天職 戦士 レベル31



___________________________




ナミ

「スキル無し……?」


ルナ

「いかがわしい上に、役にも立たないということですか」



 ルナはヨータを責めるように言った。



ヨータ

「…………」


メイ

「そうとも限らん」



 ナミの隣。


 今まで黙っていたオオバ=メイが、口を開いた。


 メイは黒髪ポニーテールで、背の高い少女だ。


 顔つきは凛々しく、可愛いというよりも、格好良い見た目をしている。


 怪力の持ち主で、ヨータと2人で、パーティの前衛を担当していた。


 脳ミソ筋肉のような言動をすることもあれば、妙に思慮深く振舞うこともある。


 ヨータも一目置いている、実力者だった。



ルナ

「オオバさん?」


メイ

「あくまで、レベル1の段階で、スキルが無いというだけの話だ」


メイ

「命題をこなし、レベルが上がれば、強力なスキルが身に付くかもしれん」



 天職は、与えられた『命題』をこなすことで、レベルアップさせることが出来る。


 命題の内容は、天職によって異なった。



ルナ

「しかし、その命題というのが……」



 ヨータの腕輪が、『キス魔』の命題を、空中に表示していた。


 レベルアップ条件は、『1人の異性とキス』をすること。


 ヨータはうんざりして、ステータスウィンドウを消した。



ナミ

「キスしなきゃ……いけないんだよね?」


ヨータ

「……そうみたいだな」


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