第4話 毘沙門天の一考

「あっ、毘沙門天様!お帰りなさい!」

「クミよ、此奴がそなたに迷惑を掛けたのではないか?」


 気遣わし気な目をクミへと向ける毘沙門天に、天邪鬼が訴える。


「オイラ何もしてないよっ!クミがここに来いって言うからここでじっとしてただけっ!別にクミの手伝いなんてしてないしっ!人間におみくじなんて、やってないしっ!」

「なるほど」

「ぎゃっ!イタイ、イタイっ!助けて~!もう悪いことはしないから~!絶対に、しないから~!だからもう、オイラを踏んづけたりしないで~!オイラを自由にして~!」


 その場で片足を上げると、毘沙門天は天邪鬼を踏みつけた。

 けれどもクミには、天邪鬼が痛がっているほど、毘沙門天が足に力を入れているようには見えなかった。

 おまけに、天邪鬼の顔は痛がるどころか、どこか嬉しそうに笑っているようにさえ見える。


「あの、毘沙門天様」

「なんだ?」


 良く響く、耳に心地よい毘沙門天の低音の声にウットリしながら、クミは思いついたアイデアを口にしてみた。


「もし、天邪鬼さんが嫌じゃなければ、なのですが」

「此奴に嫌などという権利は無い。判断は我がする。申してみよ」

「時々でもいいので、天邪鬼さんにもおみくじのお仕事をして貰えないでしょうか?」

「なに?」


 訝る毘沙門天に、クミは先ほど天邪鬼におみくじの仕事を手伝ってもらった事を話した。

 クミが提供したおみくじを手にした人間は皆、喜びにあふれて嬉しそうな顔をしていた。

 天邪鬼が提供したおみくじを手にした人間は、最初は驚きの表情を見せてはいたものの、その心はおみくじを手にする前よりも確実に前を向いて強くなっていた。


「私には、天邪鬼さんのようなおみくじを提供することはできません。でも、そういうおみくじが必要な人間も、いると思うんです。天邪鬼さんだからこそ提供できるおみくじがあるんです。だから」

「なるほどな」


 あごに片手を当て、毘沙門天は目を閉じて暫し考えた。

 足の下からは、


「余計な事言ってんじゃねぇぞ、クミっ!オイラそんなんやりたくねぇしっ!絶対にやらねぇしっ!第一、この頑固者の毘沙門天が許すはずねぇしなっ!だからオイラ、こいつが大っ嫌いなんだっ!」


 と、天邪鬼がバタバタと暴れながら叫んでいる。


 フッと笑いを漏らして目を開けると、毘沙門天は言った。


「良かろう」

「・・・・あぁっ?!」


 毘沙門天の足から解放された天邪鬼は。

 驚きのあまり目を剥いて、可笑しそうに笑う毘沙門天を見上げた。

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