第3話 天邪鬼のおみくじ
天邪鬼は実は、人ばかりでなく、神や仏の心までをも読むことを得意としている。
人の心を読み、正しい道へと導いてきたのであれば、今頃どこぞの神社仏閣で祀られる存在にもなっていただろうに、その力を使っては神や仏や人に反抗してみたり、口真似や姿さえも似せてしまうなどして世に災いをもたらしてしまったため、毘沙門天に押さえつけられているのだ。
”ふん。おみくじなんてどうせ当たらないし。この俺が入試に合格できない訳ないだろ。おみくじなんてひかなくたって、大吉に決まってんだよ。ったく面倒な・・・・年明けからわざわざ並んでまで、なんでこんなもん欲しいんだろうな、みんな”
天邪鬼に読めたのは、こんな心の呟き。
隣でニコニコと笑顔を浮かべて天邪鬼を見つめるクミは今、精神統一はしていないから、彼女にはきっと聞こえていないだろうと。
ギリリと奥歯を噛みしめる。
「どうしたの?」
「別に、ムカついてなんて、ねぇしっ」
「・・・・え?何か、怒ってるの?」
「違うって言ってんだろっ!」
どう見ても激怒しているようにしか見えない天邪鬼の顔にとまどうクミを怒鳴りつけ、天邪鬼は面倒そうな顔でカシャカシャと振られる御籤筒へフッと息を吹きかける。
と。
「ゲッ・・・・」
御籤に書かれた番号のおみくじを受け取った男の子は、思い切り顔を顰めた。
だが。
みるみる内にその表情は引き締まっていった。
おみくじに書かれていたのは、『大大凶』。【心を入れ替えて精進せよ。さもなければ、望みは叶わぬ】。
「えっ?!天邪鬼さんっ?!『大大凶』なんて、うちのおみくじには無いですよっ?!」
「ふんっ。ちょっとしたサービスだ」
「サービス、って・・・・」
困り顔のクミに構わず、天邪鬼は次に並ぶ人間の心の中を覗き込む。
”どうせ治らない・・・・私の病気なんて、どうせ治らない。私はもうすぐ死んじゃうの。だからきっと、今年のおみくじは『凶』ね。間違いなく”
「・・・・どいつもこいつも」
「えっ?」
「人間なんて、ロクなもんじゃねぇ」
「天邪鬼さん・・・・?」
再びギリリと奥歯を噛みしめると、天邪鬼はカシャカシャと振られる御籤筒へフッと息を吹きかけた。
と。
「ウソッ・・・・」
御籤に書かれた番号のおみくじを受け取った女性は、ぽかんと口を開けて暫くのあいだ手にしたおみくじを見つめていたが。
その顔に、徐々に喜びの笑顔が広がっていった。
おみくじに書かれていたのは、『大大吉』。【どんな病も必ず治る。だたし、心を強く持つ必要あり】。
「天邪鬼さんっ!『大大吉』なんて、うちのおみくじには無いですよっ?!ていうか、そんなおみくじあるんですかっ?!私、今まで聞いたことないですけどっ!」
「ふんっ。ちょっとしたサービスだ」
「もぅっ!」
クミが天邪鬼に抗議の声を上げた時。
「邪鬼よ、何をしている」
毘沙門天の低く通る声が、境内に響き渡った。
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