第2話 クミのおみくじ

 ”彼氏が欲しい彼氏が欲しい彼氏が欲しい彼氏が欲しい”


 延々とそんな言葉が心の中に入り込んできて、クミはクスリと笑うと、カシャカシャと振られる御籤筒へフッと息を吹きかける。

 御籤に書かれた番号のおみくじを受け取った女の子は、パッと顔を輝かせた。


「やったぁっ!【素敵な出会いがあるでしょう】だってっ!」


 クミはできる限り、人間たちの願望を聞き取り、人間たちの想いに沿うおみくじを提供してきた。

 年の初めの運試し。

 そこでわざわざ、希望を打ち砕くようなことを、クミはする気にはなれなかった。


 ”合格しますように!絶対に、第一志望の学校に合格しますように!”


 再びカシャカシャと振られる御籤筒へ、クミはフッと息を吹きかける。

 御籤に書かれた番号のおみくじを受け取った男の子は、安心したような笑顔を見せた。


「良かったぁ・・・・【希望は叶う】だって!あっ、でも、【油断は禁物】、か。最後まで気を抜かないで頑張らなきゃな」


 クミは、ただ人間の想いに沿うだけのおみくじを提供している訳ではない。

 その人間が持つ、本来の力を引き出すためのアドバイスも、そっと添えているのだ。


「相変わらず、つまんねーことやってんなぁ、オマエ」


 興味津々といった顔で、天邪鬼はクミの仕事をじっと見つめている。

 クミの所へ来ると天邪鬼は大抵、クミの仕事の様子を興味深々の様子で見ているのだ。


「ねぇ、もしかして、あなたもやってみたいとか、思ってる?」


 ふと思い立って掛けたクミの言葉に、天邪鬼は顔を真っ赤にして怒鳴り返す。


「バッ、バカ言ってんじゃねぇっ!オイラ、全然お前の仕事になんか、興味ねぇしっ!」

「ふふふっ・・・・じゃあ、やってみる?」

「やらねぇって言ってんだろ、バカっ!」


 天邪鬼の心はいつでも、その言葉の裏側にある。

 小さく笑いながら、クミが天邪鬼に自分の場所へ来るように誘うと、天邪鬼は渋々と言った様子でクミと場所を変わった。


「別に、やりたかった訳じゃねぇからなっ?!」

「うん。じゃあ、やってみよっか?」

「うるせぇっ、オマエ、俺の言葉聞こえてんのかっ?!」

「ちゃんと聞こえてるよ?はい、じゃああの人に、おみくじを選んであげて」

「やなこったっ!」


 そう言いながらも、天邪鬼は先頭に並んでいる人間の心の中を覗き込んだ。

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