第52話 前衛戦闘職

 剣聖というクラスに就いたトリエラには、一気に身体能力を補正するスキルが、クラス基礎スキルとして獲得された。

 今まで魔法戦士でありながら、過保護に育てられたため、魔法関連のスキルが多く獲得されていたので、トリエラとしてはこれは嬉しかった。

 基本的にステータス補正を消すということは、この世界の常識では出来ないらしい。

 もっともトリエラは、転生者のギフトの中に、そういったものが含まれているかもしれない、とは思っているが。

 ゲームとこの世界が大きく違う点は、色々とある。

 だがその中でも大きいのは、スキルによる圧倒的なアドバンテージが、ゲームよりは小さくなっているということだ。


 鑑定板で見れるステータスの能力値は、あくまでも補正値である。

 ゲームでは+5などとなっていたステータスアップのアイテムやスキルも、+5%と変化している。

 トリエラの場合は体格が、女性の平均よりは高くなったとしても、前衛の戦士などと比べるならば、そもそもの筋量が違う。

 筋肉が多ければ力が強いという法則は、間違っていない。


 現在のトリエラは、各種ステータスの項目が、おおよそは倍以上になっている。

 ただその中で一つだけ、大きく他の補正値を下回っているのが頑健である。


筋力 136

魔力 181

器用 162

敏捷 121

頑健 71

知力 105

精神 144

感覚 165

抵抗 129


 トリエラは書物の中にある、統計の数値をある程度あてはめている。

 レベル20にしてはこの補正値は、かなり高いほうである。

 もっともこれに加えて、スキルによる補正も加わるのだが。

 頑健の補正値も、他と比べれば劣るが、それでも成長度合いでは以前よりも伸びている。

 やはり肉体の頑健さの成長と共に、補正値も上がってきているのだろうか。


 そして成長するにつれ、あまり伸びていないなと感じるのが知力の補正だ。

 前世のトリエラはあまり勉強が出来なかったので、それがある程度は転生後も反映されているのか。

 もっともレベル20での様々なクラスの補正値と比較すると、圧倒的にこれでも高いのだ。

 本当に数字に嘘がないのか、それは微妙ではあるが。


 頑健の値が低いということは、物理防御力に問題があるということだ。

 また敏捷も比較的、低い補正となっている。

 耐えるのも回避するのも難しい。

 もちろん比較対象は、他の数値であるが。




 トリエラは剣聖のクラスになってから、剣術というスキルを覚えた。

 剣を使っていれば、わずかにステータスに補正がかかっているというものだ。

 ただ実際の訓練においては、耐えるのでもなく避けるのでもなく、受け流しを一番よく使っている。

 片手半剣を使いたいので、盾よりも剣での受け流しの技術を身に付けたい。

 もう身についているじゃないかとは、他の子供たちの意見である。

 それにこの受け流すという動作は、どうやら比較的補正も高い、器用の値が関係しているらしい。


 ランとの対人戦であれば、かなりいい勝負が出来るようにはなっている。

 もっともランには隠し玉があるだろうし、トリエラもあのギフトは使っていない。

 技量転換を使ってしまうと、あまりにもあっさりと勝負がついてしまう。

 魔物が相手ならばともかく、人間相手であれば、オーバースペックなギフトである。

 

 槍を持ったトリエラは、レイニーと打ち合う。

 剣でやったのと同じように、槍でも相手の武器を落とすことが出来る。

 対人戦闘においては、武器を失わせるのは重要なことである。

 魔物相手でも、衝撃をより肉体の奥に届けるのだ。


 これはトリエラが前世で、存在は知っていたが習得は出来なかった技である。

 だがこの世界であると、ステータスの補正もあるのか、あっさりと習得出来たりもした。

 スキルとしても『武器落とし』として身についているので、今のところは剣と槍ではそれが使える。

 ただ子供相手に使っていると、お互いに面白くない。

 槍を使うなら、単なる払いと突きだけで、勝負を終らせてしまいたい。

 トリエラはそう考えているのだが、これは対人戦闘にしろ対魔物戦闘にしろ、あまり集団戦を意識していないのだあ。




 兵士のクラスに備わっている、槍衾というスキル。

 それは主に集団戦でこそ役に立つものだ。

 また槍の使い方は、集団で陣形を組むならば、必ず突くか叩くかになる。

 横の動きをしてしまうと、味方に当たってしまうからだ。


 トリエラの持っている技術は、一致一か一対多を前提としたものが多い。

 また前世には魔法というものが存在しなかった。

 前世においてはこうだったから、こちらの世界でもそうである、とは限らない。

 ただやはりトリエラは、個人戦闘の方が得意ではある。


 子供同士の対戦とは言え、大人もしっかりと見ている。

 その中でトリエラは、圧倒的に他の子供を、攻撃されても回避するか受け流し、一撃で急所の位置を叩いている。

 やがては槍ではなく、剣を使ってそれを行う。

 するとさらに手に負えなくなる。


 オロルドもそれを見ていて、なんとなく気づいた。

 トリエラは何か、剣に関するスキルを身につけたのだろうと。

 ただそれを質問するのは、他の者の目のないところでないといけない。

 スキルなどの情報は、個人の戦闘力を計るうえでも、重要な要素であるのだ。


 以前から時折、トリエラが訓練するのは見ていた。

 だが魔境で実戦に参加するときは、知る限りでは後衛からの魔法攻撃のみ。

 それでも充分に戦力にはなっており、レベル10程度の魔物であれば、一撃の攻撃力は低い火矢でも、殺傷するだけの力がある。

(魔法での戦いが強いのは、確かに分かる)

 それは血統から見ても、確かなことであろう。

(だがむしろ武器での近接戦の方が、才能はあるのではないのか?)

 オロルドはそう考えている。


 ザクセンでの日々で、果たしてトリエラがどう変わっていくのか。

 オロルド自身はローデック家に戻るため、他の騎士を付けておかないといけない。

 次の公爵となる、トリエラは間違いなく重要人物ではある。

 だがオロルドはそれだけではなく、武人としての評価においても、トリエラを面白い存在だと見ていた。

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