第32話 面会者
王都にいる間のトリエラには、貴族からの面会がある。
クローディスは宮中に行くこともあるが、基本的には家にいることが多い。
この世界でも基本的に、身分が下の者こそが、上の者を訪れるのが常識らしい。
判定の儀の神官なども、庶民であればまとめて行うものだが、貴族であれば神官の方からやってくる。
それもトリエラの場合は、ヒラの神官ではなく、司祭がやってきていた。
そしてクローディスが王都にいる間には、ローデック家の寄り子となる貴族が、複数訪れることとなる。
トリエラがいるこの時期に合わせて、家督を継承する者や、あるいは年齢の近い者を、トリエラと会わせることになるのだ。
前世ではかなり人の顔を憶えるのは苦手であったが、この肉体はかなり記憶力がいいので助かる。
体で憶えるのは得意だったのだが。
トリエラより一つか二つ年上の貴族であると、既に判定の儀を行っている者はそこそこいる。
だがクラスが選べるほど、何かの技能が伸びている人間は少ない。
それでも戦闘系のギフトなどを持っている人間はいて、そういった者は長子でもない限り、騎士への道を歩むのが一般的らしい。
騎士というのは、実は上級のクラスである。
職務としては騎士の仕事をしていても、騎士のクラスを持っていない人間は多い。
騎士になるには一般的には、従士というクラスから始める。
これで騎士の基礎を学んだ上で、騎士にクラスアップするのだ。
魔法戦士と同じく、上級のクラスである騎士は、基本的に前衛の戦闘職ではあるが、同時に指揮官としての能力も必要になるし、ある程度は文官の能力も必要になる。
そんなクラスであるだけに、ある程度は事務仕事も出来なければいけないのだ。
ゲームの中でも騎士は、確かに上級のクラスではあった。
だが馬に乗ることによる機動力の補正を除けば、それほど突出した存在でもない。
一般的には戦士、兵士、騎兵などのクラスの持ち主が、騎士となっているパターンが多い。
なので男の子には騎士というのは憧れではあるが、実際にはかなり少ない。
特に学問もある程度しなければいけないので、そこが貴族か騎士の家系でなければ、ほぼ騎士のクラスになるのは不可能な理由である。
なおトリエラにこのクラス適性がなかったのは、馬などへの騎乗技術がなかったからだ。
さすがに前世、時代錯誤な技術を色々と教えられたトリエラでも、人間以上に食費のかかる馬とは、一緒に暮らしてはいない。
書物で確認する間に、トリエラはここでも、ゲーム世界とは違う部分を発見した。
ゲームでは騎乗して飛行するクラスがあったのだが、ゲームではその魔物はペガサスとワイバーンであった。
しかしこの世界にはペガサスは存在せず、代わりに人を乗せる巨大さの大鷲が存在する。
これもまた魔物であり、普通ならば人間には懐かないものである。
この騎乗する魔物については、魔物でありながら上手く調教されているのだ。
クラスは通常の動物を仕込む『調教師』で、一般的な動物は調教される。
その上位の獣使いか魔物使いによって、大鷲や飛竜は人間を乗せるようになる。
だがその数は本当に少なく、ミルディア全土を見ても、1000人はいないだろうと言われている。
やはり馬に翼をつける、というのに無理があったのだろうか。
ただ飛竜などに関しても、あの羽の大きさでは人間を乗せて飛べるはずもなく、なんらかの魔法によって強化し、飛行しているらしい。
ゲームキャラにも飛行職というのはいたが、この世界での飛行職は基本、偵察要員であることが多い。
また重さを軽減するために、鎧も軽装になるし、武器も限られたものとなる。
そして空中戦など出来るはずもなく、使う武器は弓矢のみ。
このあたりは完全に、ゲームからは離れた点であろう。
10歳ぐらいまでの年齢で、戦闘系のクラスに就いているのは、おおよそ剣士か戦士、あるいは槍戦士などの派生職である。
ちなみにゲームには、槍戦士などのクラスはなかったと思う。
魔法職は、神官は意外と子供でも、クラスが選べたりすることがある。
孤児院で育てられた子供などには、比較的多いのだ。
そしてそういった環境から育てられた神官は、辺境に送られたり、貴族の護衛の一員として雇われたりもする。
対して魔術士などは、まず最初に選べることは少ない。
魔道というのは学問なのだ。
古代語を使えないとまずは話にならない。
それに比べればまだしも、精霊と対話する巫女や巫覡、死者と対話する霊媒師などの方が、才能に依存するが数は多い。
しかしある程度の学問が出来てくると、精霊術士や死霊術士よりは、魔術士とその上位職である魔導師の方が多くなる。
魔法使いは一般的に、学問系クラスに就いてから、その後に魔術士へとクラスチェンジする。
このあたりもゲームにはなかったが、それは戦闘以外のクラスなど、ゲームでは必要なかったからだろう。
ただトリエラの場合、セリルの偏った教育と、生来の魔力の高さなどから、最初から上位クラスという例外になっていた。
クローディスの場合は言語学者から魔術士にクラスチェンジして、現在は魔導師である。
魔術士というのはトリエラが当初考えていた以上に、前線には出しにくいクラスである。
魔導師ともなればその戦闘力も高くなるが、一般的には魔術士から派生して、魔法兵というクラスになる方が、戦場では多い。
こちらは肉体への成長補正もあるので、戦場にも出られるのだ。
さらに余裕があれば、魔法騎兵などというクラスもある。
トリエラは今魔法戦士であるが、魔法騎士というクラスもある。
なかなかこのあたりは、希少なクラスであるのだが。
トリエラがいいなと思う人材は、現時点での能力はあまり関係ない。
むしろタフさが必要なのだが、大規模な戦争も起こっていない今は、なかなか幼少期から子弟に戦闘力を持たせようとする親は少ない。
トリエラにしてもクローディスの手配した家庭教師は、実戦で使える魔法などは教えなかった。
もちろん危険だからであり、セリルがそれを教えたのは、トリエラが自分の子供であることと、ザクセンでは危険を承知で教えるからだ。
痛くなければ学ばないのだ。
貴族の子弟の中には、確かに将来的には戦力になりそうな者もいた。
血統の中に神器の血統が入っていれば、それだけレベルアップの恩恵も受けやすい。
だがこの世界が戦争に突入する時、まだ充分にレベルが上がっていないのではないか。
王立学院においては騎士の士官学校や魔道学院があり、そこの教育の一環でレベルアップする迷宮に潜る。
しかし一年でどれだけ育つかというと、非常に疑問である。
その点でもラトリーなどは、年上なのでレベルアップに使う時間の余裕があるだろう。
彼を敵に回したくはないが、敵になった場合のために、どこかでレベルは上げておきたい。
しかしそんなトリエラに付き合ってくれる、貴族階級の子弟はいそうにない。
(やっぱり一発逆転を狙うような、そんな下層階級出身の人間を集めるべきか)
貴族の子弟を自分につき合わせて、下手に死なせるわけにはいかない。
だがそれでも、今のうちから私兵は準備しておきたい。
王都の中で、そんなハングリー精神にあふれた人間は、果たしてどこにいるのか。
150万という大都市であるからには、犯罪組織も存在するだろう。
そこから子供などを、上手く引き抜けないだろうか。
(一人か二人は死んでも、どうせ死ぬことに変わりはないし)
この時のトリエラは、まだ貴族的思考に近く、人命を軽く見積もっていたのであった。
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