凍りつく錆

 移ろいやすい俺を撫でてくれ。俄雨。きみの首を絞めたかと思えば次の瞬間には君の人間性を気にいるような。そんな移ろいやすい僕を撫でてくれ。びしょびしょに濡れた僕の髪を柔らかいタオルで拭いてくれ。曇天を拭ってくれ。


 熱しやすい僕を槌で叩いて鍛錬きたえてくれ。芯のない俺でも生きていけるだけの鋭さを俺に与えてくれ。世界に産み落とす前に刃は叩いて折ってくれ。鋭く尖ったままじゃ生きていけないし誰も俺を撫でてくれないから。我儘だけど僕をしなやかにしてくれ。


 俺の肌は兎の毛皮のようであってほしい。実際は荒れてボロボロの地肌を晒しているけどそんなもの隠させてほしい。どうしようもなくカッコ悪く尖った俺の体がお前を貫かないでほしい。抱きしめてくれ。頼むから俺を抱きしめてくれ。凍える俺の体を温めてくれ。きっと俺は俺を抱きしめたお前を貫くけれど。


 尖ることでしか自信を表現できなくなってしまった天邪鬼な俺を殺してくれ。存在証明書が行方不明な俺のありのままを再発行してくれ。月のように自ら輝けない俺をお前は太陽のように照らしてくれ。頂戴。愛を頂戴。


 俺は俺でいいとお前だけでも言ってくれ。俺が俺のままでは駄目なことはわかってるから俺の頼みは無視してくれ。俺が俺として生きていくための鋭さと硬さをお前がくれ。俺の鉄を守る傘として鞘として俺を俺から守ってくれ。人は1人では生きられない。息ができない。息ができない。窒息する。窒息。酩酊。暗転。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

掌編短編集 もかふ @hayakae

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る