掌編短編集
もかふ
厚化粧・汗
ずっとお前のことが嫌いだった。俺たちの輪を壊すお前のことが。自分に正直に生きるイノセントなお前のことが嫌いだった。お前のことが心の底から嫌いだったけど、自分に不誠実に生きる俺は自分の在る輪を好きであると言い聞かせて、その輪を守るためにお前のことが好きなフリをした。
お前は彗星のように現れた。お前は俺たちの輪の中に持ち前の人懐っこさで入り込んできた。俺たちは自分の輪の広がりを喜んだし、お前を受け入れた。お前は傍若無人に振る舞った。嫌いなものは嫌いと言うし好きなものは好きと言った。そのくせ急に自信を無くしてメンタルを持ち崩したかと思えば、病的なテンションで復活したりもした。別に嫌いじゃなかった。
俺は輪を壊すからと言う一点でお前のことが嫌いだ。その一点だけでお前を地獄に蹴り落とせるなら蹴り落としたいと思うくらいに嫌いだった。お前の自信のなさと正直さが混ざり合ったせいで俺たちの輪は壊れた。真っ二つに分かれて戦った。お前は誰に対してもいい顔をするし、俺たちもそれが分かっていたから呆れた。とりあえず全く正しかったのは、結局のところ争いに勝ったのはお前で、お前を批判する奴が悪になったと言うことだった。持ち前の人懐っこさをファンデーションにして、お前はお前の欠点の全てを覆い隠した。
俺は知っている。お前のしたことを。お前の欠点を。正直でメンヘラで自信なさげなお前の悪辣さを。お前のひび割れた肌を。痣だらけの顔面を。それでもお前がそうやって全てを覆い隠して砂上の楼閣の上でうまく踊っているうちはお前の横暴を見て見ぬふりをしてやる。お前のことを好きであるふりをしてやる。俺が俺の好きでありたいと願っている輪の縁にしがみつくために。
俺はお前が大嫌いだ。二度と面も見たくない。
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